狂犬病発生時の行政機関等の対応マニュアル作成に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000546A
報告書区分
総括
研究課題名
狂犬病発生時の行政機関等の対応マニュアル作成に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
源 宜之(岐阜大学農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高山 直秀(都立駒込病院小児科)
  • 井上 智(国立感染症研究所)
  • 大友 浩幸(農林水産省動物検疫所)
  • 四宮 勝之(東京都動物保護相談センター)
  • 沼田 一三(兵庫県生活衛生課)
  • 佐藤 克(東京都獣医師会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
狂犬病は、狂犬病を発症した動物に咬傷を受けて感染が成立する動物由来感染症である。海外では年間4-5万人もの人が狂犬病で命を落としており、いまだに世界中の多くの国々では動物の狂犬病が流行している。隣国であるアジア諸国ではいまだに犬の狂犬病を征圧しておらず、欧米、南米、アフリカでは犬以外にキツネ、アライグマ、スカンク、コヨーテ、コウモリ、マングースといった野生動物に狂犬病が流行して大きな問題となっている。
我が国は45年間にわたり本病が発生していない稀少な国の一つであるが、近年、海外で犬等により咬傷を受け帰国後に発症予防治療を受ける人が増加している。また、一方で検疫対象外の、野生動物を含む多様な動物が多数輸入されている。このような状況から、いつ我が国に海外から狂犬病ウイルスが侵入しても不思議ではない。しかしながら、狂犬病が長期間発生していない我が国では、国民はもとより、国及び自治体職員、獣医師、医師等においても、本感染症に対する十分な知識と情報が行き渡っていないことから、狂犬病発生時においてパニックを起こさないための迅速・適切・組織的な対応が求められる。
そこで、本研究は、狂犬病の国内発生時の対応マニュアル案を作成し、このマニュアル案を関係各機関等で検討、活用することにより、狂犬病の国内での流行を迅速に阻止することを目的としたものである。
研究方法
本研究は、(1)戦後の日本国内及び現在の世界の狂犬病発生状況を国内並びにWHO、OIE等の資料を元に調査し、(2)狂犬病の研究業績を文献検索し現在明らかになっている学術的知見を整理し、(3)農林水産省の家畜の「海外悪性伝染病防疫要領」、「犬等の輸出入検疫規則」、厚生労働省所管の「狂犬病予防法」、兵庫県の「狂犬病発生時の対応マニュアル」、米国ハワイ州の「狂犬病危機管理マニュアル」、米国CDCの「狂犬病診断指針」、米国連邦政府の「狂犬病対策連邦政府会議資料」、英国農務省の「検疫と狂犬病(狂犬病発生のリスクアセスメント)」等を考察し、(4)上記資料を元に対応マニュアル原案を作成し、(5)作成された対応マニュアル原案を学術的な面から考査し有効かつ実施可能な総合対策マニュアル案として提案することとした。
また本研究は、大学研究者、農林水産省の行政官、国立感染症研究所研究員、地方自治体職員、医師及び獣医師を含む研究班構成とし、厚生労働省結核感染症課とも連携して、科学的な裏付けとともに行政的視野に立った総合的な対応マニュアルの作成が行えるようにした。
結果と考察
本研究では、狂犬病発生時(注:発生が疑われるときも含む)の国と自治体の役割分担、関係機関間の連絡体制、感染動物と接触した可能性のある動物や人への措置、材料採集、検査の具体的手順等を科学的裏付けを元に検討し、それらの研究結果より、狂犬病が国内で発生した場合の組織体制、動物対策及び人の発症予防等に関する行政・医療機関等のための総合的な対応マニュアル案を作成した。
作成したマニュアル案は、国内で狂犬病発生時に行うべき望ましい対応を示した「狂犬病発生の疑いがある場合の対応手引書(案)」であり、現状では完全な実施は不可能なものの、必要な狂犬病対策案実行時の「課題」と、その課題の解決のための「検討事項」を併記することとした。
すなわち「狂犬病発生の疑いがある場合の対応手引書(案)」は以下の2点によって構成されている。
(1)対策手順及び事項
(2)対策手順及び事項実施上の「課題」とその解決のための「検討事項」
結論
「狂犬病発生の疑いがある場合の対応手引書(案)」は、国内で狂犬病が発生した際に行うべき狂犬病対策としてもっとも望ましい対応策を示そうとしたものである。特に、対応手順項目に現時点では完全な実施は困難と考えられる記載をあえて行った。これは、国内の狂犬病対策には多くの課題が残されていることから、本研究以降も議論を継続しいていく必要があることを提案するためである。研究班として、課題の提起と議論の継続によりより良い狂犬病対策が今後可能となることを願ってやまない。
なお、今回作成されたマニュアルは、狂犬病のみならずその他の国際的な動物由来感染症等の発生にも応用可能なものにすることができると思料する。
以下に、本手引書(案)を使用する際に検討されるべきことを示す。
(1)「狂犬病の発生が疑われる場合の対応手引書(案)」は原案であり、使用に先立ち関係機関等での意見聴取や調整が必要であること。
(2)定期的に関係機関の代表者により、「狂犬病の発生が疑われる場合の対応手引書」の見直 しと改訂が行われる必要があること。
(3)「狂犬病の発生が疑われる場合の対応手引書」の更新および改訂内容は厚生労働省結核感染症課により関係各機関に対して周知されること。
終わりに、本研究は「狂犬病の発生が疑われる場合の対応手引書(案)」に対する関係各位の議論をとりまとめて、より良い「狂犬病の発生が疑われる場合の対応手引書」を作成することが到達目標であり、作成した本手引書(案)については、結核感染症課より関係方面各位に配布を行い、内容に関する指摘を受けた後に、「対応手引書」として使用していただきたい。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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