国立感染症研究所、地方衛生研究所及び大学等との連携による感染症対策の効果的な実施に関する研究

文献情報

文献番号
200000544A
報告書区分
総括
研究課題名
国立感染症研究所、地方衛生研究所及び大学等との連携による感染症対策の効果的な実施に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
島尾 忠男(結核予防会)
研究分担者(所属機関)
  • 倉田  毅(国立感染症研究所)
  • 宮村 達男(国立感染症研究所)
  • 小竹 久平(国立感染症研究所)
  • 吉倉  廣(国立国際医療センター研究所)
  • 大月 邦夫(群馬県衛生環境研究所)
  • 加藤 一夫(福島県衛生公害研究所)
  • 吉田 哲彦(横浜検疫所)
  • 滝澤秀次郎(神奈川県衛生部)
  • 小倉 敬一(千葉市保健所)
  • 林  英生(筑波大学)
  • 島田  馨(東京専売病院)
  • 本田 武司(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
24,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年から、新たに「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」が施行され、法律の対象として72の感染症が認められた。これら72感染症を念頭に、我が国の感染症対策を科学的かつ効率的に進めていくためには、国立感染症研究所、地方衛生研究所、及び大学等の関係機関が連携し、機能を分担しながら所要の役割を果たしていくことが必要である。しかしながら、その具体化は、体系化された形態としては未だ実現されておらず、研究者間の個人的協力関係に頼っている所が大きい。そこで、関係機関の間における役割分担の必要性、役割分担を行う場合の具体的な機能・形態、それを可能とする支援基盤(行政的、財政的)に関する調査研究を早急に行い、実現可能なモデル案を作成することにより研究成果を行政の場に生かすことを可能とし、よって我が国における感染症対策の基盤の効果的・効率的なシステム作りに資するものである。
研究方法
国立感染症研究所、各地方衛生研究所、検疫所、大学等の病原体の検査、同定のリファレンスを作成するため、各機関に対してアンケート調査を行い、感染症新法に規定された疾患に対する検査能力を調査した。また、検疫所においては、検疫上問題となるベクター側の病原体検出能力、及び輸入食品のモニタリング能力も調査した。また、検査、同定が個々の施設で困難な場合には、依頼可能な関連機関をリストアップし、施設間の協力体制の現状についても調査した。さらに、既に感染症サーベイランスネットワークが確立し、感染症に対するすみやかな行政対応が行われているアメリカのCDCのシステムについても詳しく調査し、我が国のネットワーク作りの参考とした。これらの資料は、各分担研究者により分析され、更に全員で討議を行い、意見をとりまとめた。
結果と考察
結果
1) 国立感染症研究所の調査結果
国立感染症研究所における、病原体検査、同定のリファレンスを作成した。感染症研究所では、P4施設が稼動できるかぎりでは、ほぼ新法で定められた疾患すべてが検査、同定可能であり、P4施設の稼動が早急に望まれる。有効な検査資源の活用のため、検体移送に関わるマニュアルを確立し、地方衛生研究所、大学等との連携を深め、我が国における感染症のネットワーク作りが今後の課題である。
2) 地方衛生研究所の調査結果
各地方衛生研究所ごとの、感染症の検査、同定に関するリファレンスを作成した。感染症対策のうえで、地方衛生研究所が貢献するためには、その基盤となる対象疾病の明確化、および、全国、各部ブロックにおける役割分担のためのしっかりとしたガイドラインおよび、リファレンスをが不可欠であった。
3)大学の調査結果
大学の細菌学・微生物学教室は、感染症対策において、検査同定検出を直接行うのではなく、検査同定の基本となる、リファレンスの確立、標準株、抗体などの材料の開発保持、検査要員の教育などに貢献しうる。
4) 検疫所の調査結果
今回の研究の結果、全国の検疫所で実施されている、感染症に関わる検査の実状を把握できた。今後、各検疫所、感染症研究所、地方衛生研究所、その他大学等との、より効率的かつ効果的な協力体制の確立が必要であるといえる。
5) CDCの調査結果
今回の研究により、CDCを中心とした、アメリカでの感染症対策に対する連邦政府、州政府、およびその他の検査研究機関の結びつきが把握できた。我が国では、すでに病原体の検査同定能力においては、感染研のP4が稼動すればCDC同様の能力を持ち合わせており、感染症研究所を中心とした地方衛生研究所、大学等との連携を深め、国の感染症行政に対応するネットワークの整備の重要性を確認した。
考 察
国立感染症研究所では、P4施設が稼動できるかぎりでは、ほぼ新法で定められた疾患すべてが検査、同定可能ではあるが、感染研の人員的、財政的、設備的限界から、すべての検査を日常的に行うことは、極めて困難である。これは、大学などその他の研究所においても同様であり、一方、地方衛生研究所、検疫所では、疾患頻度や疾患の地域性の要因により検査能力は限定されているため、より効率的な感染症対策を推進していく上では、役割分担をさらに議論していく必要がある。感染研、大学レベルをリファレンス、ガイドラインの作成、教育の中枢と位置付け、各地方衛生研究所や、検疫所、その他、民間検査機関に疾患グループによる分担を行い、同時にガイドラインを周知徹底するようなシステムを構築するとともに、検体搬送の統一的手続き規定を整備するなどのシステム化の前提条件を整えることが可能であれば、有効な感染症対策を構築しうるものと考える。
今回の研究において見い出された基礎情報に基づき、今後は、関係機関の協力関係、連携、提携関係について、包括的に議論を尽くしていく必要がある。
結論
我が国の感染症対策のうえで、感染症研究所、地方衛生研究所、大学、検疫等とのより包括的なネットワーク作成のために、さらなる議論が必要である。

公開日・更新日

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