結核症及び非結核性抗酸菌症における生体防御機構の解明とその予防・診断・治療への応用(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000534A
報告書区分
総括
研究課題名
結核症及び非結核性抗酸菌症における生体防御機構の解明とその予防・診断・治療への応用(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山本 三郎(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 光山正雄(京都大学)
  • 小林和夫(大阪市立大学)
  • 後藤義孝(宮崎大学)
  • 中田光(国立国際医療センター)
  • 菅原勇(結核予防会)
  • 内藤真理子(長崎大学)
  • 本多三男(国立感染症研究所)
  • 赤川清子(国立感染症研究所)
  • 芳賀伸治(国立感染症研究所)
  • 山崎利雄(国立感染症研究所)
  • 持田恵子(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
BCGワクチンの抗結核効果を増幅するため、新しいタイプの組換え型BCGを作成する。これら新規ワクチン評価のため、モルモットを用いた結核菌の気道感染系の確立を行う。一方、結核菌とBCGの鑑別診断技術は結核低蔓延国である我が国の状況から、患者の治療ならびに行政の対策上必要であり、分子遺伝学的技術を応用してその迅速化を図る。感染初期における宿主の抵抗性/感受性を規定するNRAMP-1遺伝子の解析を行なう。NRAMP-1が感受性因子としてどのように関わっているかを明らかにすることによって、難治性疾患とされる抗酸菌感染症の予防・治療に新たな方策を見出すことができる。結核菌や非結核性抗酸菌の増殖の場であるとともに殺菌のエフェクター細胞であるマクロファージにおける菌の増殖と殺菌の制御機構を解明する。またAIDSに合併する結核はアジア・アフリカを中心に非常に深刻な状況であるが、結核がHIV感染に及ぼす影響は不明の点が多い。HIVと結核菌の重感染者におけるウイルス産生増強のメカニズムを解明する。
研究方法
抗結核ワクチン開発に関する研究:各種rBCGワクチン及びプラスミドDNAワクチンの構築を行う。結核菌のモルモットへの噴霧感染モデル系を確立し肺結核に対する新ワクチンの効果と安全性の評価法を検討する。結核菌とBCGを鑑別する新規診断法の確立:M. bovis 及びBCG株に特異的塩基配列の検索を行ない,M. bovis を用いてPCR法により特異遺伝子の増幅を行う。NRAMP-1遺伝子機能の解析:株化マクロファージを用いた抗酸菌感染系の確立:大腸菌にクローニングした抗酸菌抵抗性マウス由来のNRAMP-1遺伝子を感受性マウスマクロファージ株化細胞やヒト由来マクロファージ株化細胞に発現させる。結核菌の殺菌機構の解析:M-Mφ及びGM-Mφにおける結核菌感受性、NRAMP-1 遺伝子の発現と感染感受性の関連、両マクロファージのNRAMP-1 遺伝子の発現を検討する。HIV感染に合併する結核症に関する研究:患者の剖検臓器の病理組織標本からPCR法を用いてHIV特異的なプローブを作製し、in situ hybridization法によって、結核病巣部のウイルス分布を調べる。病理組織においてウイルスを産生している細胞をin vitroで培養し、ウイルス産生抑制性の転写因子の誘導を試みる。
結果と考察
結核菌とBCGの鑑別診断に関する研究:結核菌群のSenX3-regX3遺伝子間領域のシークエンスを行い、77bp-MIRUの数と53bpのMIRUの有無を調べ、結核菌群からBCGを鑑別同定する方法を確立した。ワクチン開発に関する研究:BCG由来α抗原遺伝子ファミリーを組み込んだリコンビナントBCGでモルモットを免疫し、有毒結核菌に対する感染防御能を検討し、BA51-rBCGの感染防御能は有意に高く、かつ親株BCGより優れた感染防御能を示した。抗原遺伝子を発現するDNAワクチンを構築し感染防御能を検討した。さらに結核免疫の解析に有用でありながら、これまでヒト・マウスと異なり解析が遅れていたモルモットサイトカインのうちインターフェロン測定系を樹立した。Ag85 complexの応用に関する研究: Ag85 complex抗原をもちいた改良型抗結核ワクチンの開発を目指した。また抗酸菌の増殖調節に関わる因子の検索を行う。モルモット系統間における結核菌感染に対する応答の差異を検討した。Hartleyは炎症反応を強めることで菌の増殖伝搬を防ぎ、Strain 13は炎症反応
はあまり強くないが菌の増殖伝搬を防ぐことができ、Strain 2は炎症反応があまり強くなく、菌の増殖伝搬を防ぎきれないことが観察された。これらの成績とPPDツベルクリン反応の成績がきわめてよく相関していた。噴霧感染群でも同様の傾向であった。結核の治療に関する研究:結核菌由来TDMに対する多彩な宿主応答:TDMは異物性および過敏性肉芽腫を誘導する。またTDMが血管新生、肉芽腫炎症および細胞性免疫を惹起することが判明した。結核の生体防御機構に関する研究: Mycobacterium bovis BCG菌体刺激に対するマウス腹腔浸出細胞のサイトカイン応答を、生菌と死菌の違いについて解析した。生菌刺激で認められる脾細胞からのIFN-?産生は死菌刺激では低く、その違いはマクロファージレベルでのIL-12, IL-18に規定されていると思われた。これらのサイトカイン応答には、マクロファージのCD14やLPSシグナル応答系の関与は低いことが示唆された。結核菌の殺菌機構に関するに関する研究:ヒト単球よりM-CSF及びGM-CSFで誘導した、M-Mφ及びGM-Mφの結核菌H37RVに対する殺菌能を検討した結果、ヒト肺胞MΦに形質が似ているGM-MΦは、結核菌の増殖の場として作用すること、またM-MΦは、結核菌の殺菌を促すことを見つけた。H2O2やNOは、M-Mφの殺菌能とは関連しなかった。しかし、 マウスのBCG感染に対する自然抵抗性を規定しているNramp-1遺伝子のヒトホモログであるNRAMP-1遺伝子のmRNA は、M-MΦで発現していたが、GM-Mφでは発現が認められなかったことより、NRAMP-1遺伝子の発現の違いが両MΦにおける殺菌活性の違いと関連する可能性が示唆された。M. intracellulare感染マウスに誘導されるNK細胞とNRAMP-1遺伝子の役割: M.intracellulare感染におけるNK細胞の働きとNRAMP-1遺伝子との関係をしらべた。その結果、NK細胞数は感染早期(~48時間)に有意に増加すること、in vitroにおける感染実験では感染後12ないし48時間で大量のIFN-?産生が誘導されることが分かった。HartleyはもとよりStrain 2、Strain 13は結核研究においてきわめて有用なモルモットであることが改めて実証された。M.tuberculosis H37RvとBCG-Tokyoをモルモットに重感染させた動物実験でも、前述プライマーを用いて、PCR増幅バンドの検出パターンにより、両者の肺における分布菌数がわかるようになった。このことは、結核のワクチン開発や、BCGの免疫効果の解析に非常に役立つ所見となるであろう。一方、ヒトにおいてもBCG接種後にPPDへの応答性の差が見られることから、今後これらモルモット間の遺伝的背景がゲノム解析などにより明らかになれば、ヒトでの結核菌への感受性の差異を示す因子の同定などに役立つと考えられる。PECをBCG生菌で刺激するとIFN-?産生が認められたが、抗IL-12および抗IL-18抗体により抑制されたことから、BCG生菌がマクロファージからのIL-12およびIL-18産生を誘導し、IFN-?はそれらに反応したNK細胞あるいは??T細胞やCD8陽性T細胞などが産生したものと考えられる。また、BCG生菌で誘導されるサイトカイン産生は抗CD14抗体やE5531で抑制されなかったことから、BCG生菌はToll-like receptor (TLR)2やTLR4を介さない、別な経路でマクロファージのサイトカイン産生を刺激することが示唆された。BCG生菌によるTh1型サイトカイン産生誘導のメカニズムを明らかにするため、それらのサイトカイン産生誘導に関与する生菌因子について解析していくことが必要である。M-Mφは殺菌をGM-Mφは増殖を誘導することを認めた。GM-Mφは、ヒトの肺胞マクロファージに似た形質であることを既に述べたが、このマクロファージで、結核菌の増殖が強いことは、結核菌がヒトの肺で良く増殖することと考えあわせ興味深い結果である。結核菌由来TDMは非特異的異物性炎症応答のみならず、特異性および記憶を特徴とする細胞性免疫応答も惹起すること、さらに、T細胞依存性抗原であることが判明した。すなわち、結核性肉芽腫炎症は異物性および過敏性機序の関与した混合性病変である。TDMは、肉芽腫炎症に加えて、血管新生やアポトーシスも誘導し、結核の病原体―宿主関係における多機能分
子である。TDMが抗結核免疫の効果機能分子であるIL-12やIFN-?を誘導したことは、TDMが防御抗原であり、従って、ワクチンなど免疫介入療法の開発に寄与するであろう。すなわち、TDMは安全なワクチン候補になる可能性を示している。BCG感染による宿主マクロファージの細胞死に必ずしもBCGの複製が必要ではないことが解った。HIV/結核重感染病巣部を病理学的に検討し、細胞相と転写因子の発現について調査した。
結論
結核菌群に特異的な5組のプライマーを用い結核菌とBCGの鑑別同定法を確立した。α抗原遺伝子ファミリーを組み込んだリコンビナントBCG のモルモット有毒結核菌噴霧感染防御能を検討し、とくに3種類の抗原遺伝子(Ag85A+Ag85B+MPB51)を同時発現させたBA51-rBCGは有意に高く優れた感染防御能を示すことが明らかとなった。さらに誘導される結核菌遺伝子の中からIFN-γの誘導能に富むESAT6及び10kD蛋白遺伝子を組込んだrBCG結核ワクチンを作成発現されることができた。M.intracellulare感染症においてNK細胞はNRAMP-1遺伝子型に関わらずIFN-?を介した免疫応答に深くかかわっている可能性が強く示唆された。BCG生菌による宿主サイトカイン刺激には、マクロファージレベルでのIL-12, IL-18の発現誘導が重要であるが、その経路にはToll-like receptorを介さない機序の関与が示唆された。ヒト単球由来M-Mφは結核菌の殺菌を誘導すること、しかしGM-Mφは逆に結核菌の増殖を促すことが知られた。M-Mφの結核菌殺菌活性はH2O2やNOによらないこと、またM-MφとGM-MφではNRAMP1の遺伝子発現が異なることから、M-Mφの結核菌感染抵抗性はこの遺伝子発現と関連する可能性が示唆された。HIV結核の病巣部におけるウイルス産生調節機構としてこれまでNF-kBが重要とされてきたが、さらにC/EBPβによるウイルス産生抑制の解除機構が重要であることが示唆された。

公開日・更新日

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