サルモネラの診断・予防法の開発

文献情報

文献番号
200000533A
報告書区分
総括
研究課題名
サルモネラの診断・予防法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
林 英生(筑波大学)
研究分担者(所属機関)
  • 倉園久生(岡山大学)
  • 江崎孝行(岐阜大学)
  • 牧野壮一(帯広畜産大学)
  • 中山周一(国立感染症)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
22,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A. 研究目的
サルモネラは自然環境中に広く棲息し、両生類からヒトまで広範囲の動物に寄生し、疾病を惹起する場合がある。ヒトに敗血症と胃腸炎を惹起するSalmonella属は遺伝学的には均一な属であるが鞭毛抗原と糖鎖の抗原により2000種類以上の血清型に細分されている。この中の特定の血清型のみが特異的な感染を起こすがその病原因子がまだ特定できていない。自然界に普遍的に棲息するサルモネラ属の中から、ヒトに特異的病原性を発揮する因子(接着因子、毒素、侵入因子、抗食菌因子など)を指標とした菌株の早期・簡便検出法を開発し、病原菌株の食品への混入を防止する方策および伝播経路を遮断する方策を探索し、さらにその病原因子の病理作用を解明しサルモネラ性胃腸炎の予防と有効な治療法を見だすことが本研究の目的である。
研究方法
具体的には以下の6点に集約して研究する。
(1)主要な病原因子(定着、侵入、毒素産生、炎症誘起因子など)を遺伝子と蛋白分子のレベルで同定する。
(2)ヒトに特異的に感染するSalmonellaの遺伝学的な特性を明らかにする。
(3)1および2の成果を利用した免疫抗体法、遺伝子診断法を確立する。
(4)上記の方法を一般食材の簡易検査法として応用し、その有用性を調べる。
(5)Salmonellaのヒトへの伝播は鶏の食材をとおして感染することが多いので、鶏のSalmonellaの感染予防ないしワクチンの開発を試みる。
結果と考察
B. 研究結果
(1) 主要な病原因子(定着、侵入、毒素産生、炎症誘起因子など)を遺伝子と蛋白分子のレベルで同定する。および(2)ヒトに特異的に感染するSalmonellaの遺伝学的な特性を明らかにする、課題の結果
(2) いか菓子を原因食とした茨城県内の食中毒事例から分離されたS. oranienburg の内、培養細胞への侵入性の強い菌株についてその責任遺伝子の同定を試みた。Genomic SubtractiveHybridization 法(GSH法)で、チフス菌を指標に検出したところ、S. oranienburg に特異的な約2kbの遺伝子断片が検出された。この遺伝子の特性を検定している。
Salmonellaの侵入能を担う産物とShigellaのそれの相同性、その遺伝子発現制御様式の類似性に着目、Shigella において侵入性遺伝子群を活性化する2成分制御系遺伝子cpxR-cpxAの相同遺伝子が、Salmonellaにおいても同じ役割を持つか検討した。  SalmonellaのcpxR、cpxAそれぞれの遺伝子破壊株を作製した。これら野生株、及び各破壊株で、1)侵入能を担う産物の正の制御因子であるhilAの発現レベル、2)侵入能産物の1つSipC産物の(タンパク)量、3)哺乳類培養細胞への侵入能、を培養pHを変化させて測定、比較した。結果、cpxA変異株においてpH6.0培養後にいずれも大きな低下が見られた。pH8.0培養後はhilA発現レベルで若干の低下が見られた以外、野生株との差は検出できなかった。cpxR変異株では野生株との差異は検出できなかった。以上より、cpxA遺伝子は、pH6.0での培養条件でのhilA発現、従ってその制御下にある侵入能産物発現、最終的には細胞侵入能の活性化に強く関与すること、これに対し、cpxRはそれらに関与しないことが分かった。
宿主接着因子である線毛抗原、fimA、agfA、 sefA、lpfAおよび pefA について菌株間で比較解析した。しかし、菌株による相違は明らかではなかった。培養細胞へ接着するとき、これらの線毛が形成されることから、菌をCaCo2, HeLa, U937培養細胞へ接着する段階と細胞内侵入後における線毛の発現をmRNAの発現レベルで検討した。S. ornienburg, S. entritidis では細胞接着とともに、fimA とagfAが発現するが、sefA,、lpfA、pefAは発現しない。現在さらに、この検出方法を確立し再現性の精度を挙げる検討をしている。
培養液中の塩濃度の違いにより病原因子の発現が異なる。すなわち、低塩濃度では病原因子であるVi莢膜抗原を強く発現し、鞭毛抗原と分泌蛋白(SipC蛋白)の発現量を減少させる。逆に高い塩濃度では Vi抗原の発現は抑制され、鞭毛抗原と分泌蛋白の量が増加した。SipC蛋白はチフス菌が腸管で上皮細胞に接触した際に分泌されるが、高塩濃度環境でもSipC蛋白が大量に分泌され組織侵入性が高まっていた。ラットに高塩環境で培養したチフス菌を培養液と一緒に投与すると15分で明らかにパイエル板の M細胞から侵入し、約30分後にはパイエル板の構造を破壊し、基底膜も点状出血が肉眼で確認できるまで拡大した。食細胞内で野生株はViを大量に発現しており、分泌蛋白の生産は抑制されていた。Vi欠損株は食細胞内では増殖せず、食細胞内での増殖にはViの発現が不可欠であることがわかった。すなわち、細胞侵入にはSipC蛋白が必須であり、細胞内増殖にはVi抗原が必須であることが明らかとなった
(3)1および2の成果を利用した免疫抗体法、遺伝子診断法を確立する。
1.エンテロトキシンを指標とした酵素抗体法の開発
サルモネラの病原因子であるエンテロトキシン (Stn)のアミノ酸配列からエピトープと考えられる2ケ所を選び、これらのペプチド(QPDSKDR AFTLNTF及びALGKVFRQPFDGRER)を合成し、それぞれに対する家兎抗ペプチド抗体を調整した。これらの抗体からAffinity Chromatographyによりペプチド特異IgGをそれぞれ精製し、これらのIgGを用いたWestern blotting法により約3.3 KDa(Stnのアミノ酸配列から推定される分子量と一致する)のサルモネラ属菌に特異的なバンドを検出することが出来た。しかし、Western blotting法は一度に多数のサンプルを検査するには不向きであるので、Dot blotting法を試みたがbackgroundが高く使用できないことが判明した。これら2種類の抗ペプチド抗体を用いたSandwich ELISAの系を構築した。今回、構築したSandwich ELISAの系はサルモネラ属菌に対して特異的で、かつ多数のサンプルを同時に検査できると期待される。
2.迅速PCR法による血清型の同定
菌の血清型を遺伝子から同定する方法を作製した。血清型決定遺伝子からプライマーを設計し、特定の血清型では特定のDNA断片を特異的に増幅することが確認された。InvAおよびEnterotoxinのprimerはSalmonella全体の検出に、rfbE遺伝子とfliCのgmp抗原のプライマーではS. enteritidisが特異的に同定された。増幅産物の確認にはreal time PCRとマイクロアレイ法で確認した。これによりSalmonella の同定・診断がより迅速に行える可能性が見えてきた。
(4)上記の方法を一般食材の簡易検査法として応用し、その有用性を調べる。
本項目についての成果は次年度に繰り越すことになった。
(5)Salmonellaのヒトへの伝播は鶏の食材をとおして感染することが多いので、鶏    のSalmonellaの感染予防ないしワクチンの開発を試みる。
サルモネラの汚染を減少させるために、ニワトリの飼育形態がサルモネラにどのように影響を与えるのかに関して研究を行った。実際には、人工的にS. enteritidisを生まれたばかりの雛に経口接種して、使用衛生や飼育密度を変化させてサルモネラの保菌状況の変化を調べた。S. enteritidisを成功接種しても、雛の肝臓、脾臓、血液等からは実験期間中まったくS. enteritidisは分離できなかった。しかし、盲腸内からはコンスタントに実験期間中分離できた。その保菌状況は、飼育箱の衛生状況を劣悪にすれば、衛生的に飼育した時より多くのS. enteritidisを保菌することが明らかになり、密飼いをしたときも、同様であった。一般的にサルモネラの卵汚染はin-eggとon-eggが知られているが、in-eggを証明するために、卵管、卵巣、卵からのサルモネラの分離を試みたが、分離できなかった。また抗菌物質の投与が成長促進の目的で雛に一般的に用いられているが、一部の抗菌物質にサルモネラの定着を助長する結果を得た。サルモネラの定着は、ワクチンなどの開発もさることながら、飼育環境に大きく影響されることが明かとなった。
結論
D. 結論
ヒトに病原性のある特異的な遺病原因子の遺伝子および遺伝子産物を特定している。検出方法として遺伝子診断法の開発を試行している。また、遺伝子産物を免疫法にて検出する方法も試行している。

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