疾病媒介昆虫の侵入・移動分散の監視・防御に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000527A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病媒介昆虫の侵入・移動分散の監視・防御に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
安居院 宣昭(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 神田輝雄(大阪検疫所)
  • 太田周司(成田空港検疫所)
  • 小林睦生(国立感染症研究所)
  • 倉橋 弘(国立感染症研究所)
  • 上宮健吉(久留米大学)
  • 冨田隆史(国立感染症研究所)
  • 吉田政弘(大阪府立公衆衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地球規模での人・物の移動・増大、自然環境の変化等により、疾病媒介昆虫類の国内侵入の機会が高まり、媒介昆虫類の侵入・移動・定着に関して、緊急時・平常時の監視・防御体制の整備が必要となっている。本研究では主要な衛生害虫類の国内侵入・移動分散・分布拡大の監視と防御を目的として、空港・港湾における侵入昆虫類の実態調査、侵入衛生昆虫種の正確な分類・同定体制の確立、媒介蚊や毒グモ等の国内分布調査および分布要因の解析、侵入・在来衛生昆虫類の移動・分散能力の解析等をおこなう。さらに、既存のあるいは新たに侵入した衛生昆虫種の防除対策に有効な殺虫剤抵抗性の分子診断法の確立等に関する研究を合わせて実施する。これら研究課題の遂行により、平時における媒介昆虫類の侵入・発生動向、分布・移動分散等に関する継続的把握・監視の技術的方策と体制の整備および効果的防除対策の策定に必要な知見が得られると同時に、昆虫媒介性感染症の流行時の危機管理対策に役立てる事が期待される。
研究方法
本研究では節足動物媒介性感染症に関連する主要衛生昆虫類を対象として、その侵入状況、移動分散、分布拡大等の実態把握およびそれらの監視と防御システムの構築を目的として、以下の研究課題に関して調査・研究を遂行する。①空港、港湾由来の侵入昆虫の実態調査とデータ分析、②モニタリングにより捕獲された侵入衛生昆虫の精細な系統分類・同定とそれら昆虫類の生理・生態的特徴の解析、③侵入昆虫類の移動分散能力の物理数量的解析、④地理情報システム(GIS)による媒介蚊の分布域拡大についての要因解析、⑤遺伝子解析法による蚊類の地理的分布解析、侵入・移動分散実態の解明、⑥シラミ症調査報告結果の解析と殺虫剤抵抗性の分子診断法の確立、⑥侵入毒グモの分布拡大調査と防除効果の評価解析、⑧国外における媒介動物感染症研究施設等の視察事業
結果と考察
空港、港湾での昆虫類採集調査では、多数の外国由来昆虫類の侵入が確認された。採集された数種の蚊には病原体は発見されなかった。蚊類の生息調査では関西国際空港でネッタイイエカの一時侵入・繁殖が記録された。モニタリングと侵入昆虫種等に関して整理されたデータの蓄積および病原体の保有調査等の事業継続は、昆虫媒介性感染症の突発的な流行時の対策の際に有効に利用されることが期待される。検疫管区で採集された昆虫の分類同定に関しては、検疫所、感染研間の連携ネットワークが効率よく機能した。移動能力の大きいハエ種については休眠性、脂質解析等の生理特性が把握された。デング熱媒介蚊の国内分布拡大調査では、ヒトスジシマカのさらなる北限移動が確認され、このような北上の要因解析に地理情報システム(GIS)よる解析が有効に利用された。南西諸島へのネッタイシマカの侵入調査では同種の確認はできなかった。デング熱媒介侵入の判定法確立のため、国内の南北5地域で採集されたヒトスジシマカの遺伝子を解析しその変異を調べたが、アジア産の本種の遺伝子配列変異との関係についてもさらに比較検討の必要が示唆された。飛翔測定装置により本土への飛来が推定されている数種ハエ類の長距離飛翔に対する特性を明らかにした。さらに韓国へのオオクロバエの飛来侵入は、中国東北部、シベリア等からの由来が推定された。シラミの殺虫剤抵抗性分子診断の確立のためのDNA解析、およびシラミの移動・分散の推定に有効な遺伝子の解析を行った。大阪府でのセアカゴケグモ
の分布域拡大・密度の継続的生態調査では、いっそうの分布拡大と密度増加が確認された。あわせて、防除効果の評価判定法等確立を目指した。米国CDC節足動物媒介性感染症研究部門、全米蚊防除協会カリフォルニア、フロリダ支部、オーストラリア毒グモ対策関連機関等の視察により情報収集を行った。
結論
本年度の空港・港湾検疫関係4機関における侵入昆虫モニタリング調査では多種の外来性昆虫種を確認した。さらに検疫区域内蚊類の生息調査では外来性の疾病媒介性蚊も確認した。これらの結果は媒介性昆虫種の侵入監視において最前線的役割を果たす検疫所における平常時での継続的調査の重要性を示した。検疫区域および周辺域における蚊類生息モニタリング情報の蓄積は外来侵入種の判別を容易とし、そのことが既存および新たな昆虫媒介性感染症の突発的な流行時の対策に役立つ事が期待される。侵入・生息調査では、感染研昆虫医科学部の昆虫分類・同定レファレンス機能と検疫所の昆虫モニタリング調査機能が、連携システムとして組織的に運用された。今後、昆虫モニタリング法の統一化、全国ネットの観測定点の設定、効率的関連機関の連携化等を図ることで、さらに効果的な媒介昆虫対策の推進が必要である。当研究では媒介昆虫の国内分布要因や種・系統・産地特異性等をより明確に解析するために、GIS法、遺伝子解析法の利用により研究を遂行し、これら研究法の有効性が示された。侵入が想定される蚊、ハエ種の繁殖・越冬能力に関わる生理・生態的特性(休眠生理、温度、日長感受性、脂質代謝等)の解析および移動分散・飛翔能力の物理的数量化等に関する研究は、それら昆虫種の定着・繁殖、分布拡大の能力を事前に予想・評価するために有効である。本研究においてもハエ類の脂質代謝、ホルモン変動等生理的研究成果およびの特殊測定装置による飛翔時間、距離等の測定結果はその有効性を示した。媒介昆虫類の効果的防除法の一環としてのケミカルコントロール実施に際しては、適切な薬剤選択と施用内容が求められる。シラミの殺虫剤抵抗性に関わる遺伝子解析が進められ殺虫剤抵抗性の分子診断法確立の進展を見た。大阪府内に侵入定着した毒グモはさらに分布拡大した。被害者の発生を考慮した継続的な調査と防除効果の評価解析の研究継続は必要である。国外における媒介動物感染症研究施設等の視察事業により、ベクターおよび有毒有害動物対策に関する多くの有益な情報を得ることが出来た。

公開日・更新日

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