院内感染の発症リスクの評価及び効果的な対策システムの開発等に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000515A
報告書区分
総括
研究課題名
院内感染の発症リスクの評価及び効果的な対策システムの開発等に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
吉倉 廣(国立国際医療センター研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 小林寛伊(関東病院)
  • 宮崎久義(国立熊本病院)
  • 平井基陽(医療法人鴻池会)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 倉辻忠俊(国立国際医療センター)
  • 切替照雄(国立国際医療センター研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
21,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
院内感染マニュアルがあり、それぞれが適切でありながら、必ずしも活用されていない。これは、現在の院内感染対策推進上での大きな問題である。原因として、(1)マニュアルが、各現場での使用に必ずしも適合していない。(2)清潔区汚染区の区分け、清潔作業と汚染作業の区分け、満足させ得ない病院の状況がある。それは、スペース、人、時間が何れも不十分だからである。(3)病院全体の管理が感染対策の面から十分なされていない。(4)ハイリスク診療の場、行為の同定をした上での感染対策が意識されていない。(5)院内感染対策にはその認識が重要であるが、実践の場での「院内感染の定義」とその上での対応が各施設でなされていない、等があげられる。又、老人養護施設における特別な状況から現在の院内感染症対策マニュアルは現状に合わない。従って、このような観点からの手順或いは病棟内、病棟間管理に関するワークシート作成が必要と思われる。厚手の冊子ではなく現場で直ぐ参照し、記入もできるワークシートの作成により、マニュアルのより有効な使用が可能となる。同時に記録を残すことにより事故時の対応策がより明確に出せるようになることが期待される。一方施設においては、在院者の精神的な問題があり、病院とは異なった問題を抱えている。特に、アメーバ赤痢のような経口感染、インフルエンザや結核のような呼吸器感染、施設を変えることによる施設間感染などの問題があり、介護の制度化に伴い早急な対策が必要とされている。
もう一つの研究目的として、新たに感染対策(制御)ガイドラインを作成する。各項目には後に年号を入れ、時代の変化に対応した改訂を容易にする。また、各項目サマリーをつけ、現場で使えるガイドラインとする。サマリーの文章はリコメンデーションのレベルを設定し、EBMの概念を大幅に盛り込む。
研究方法
研究班員及び研究協力者の属する病院の看護部を対象とし、研究班長より問題設定し、それに対する実情報告と意見交換を行う形で作業した。感染対策(制御)ガイドラインは、感染制御の定義、感染新法に関る院内感染対策,等10項目を出版する。
結果と考察
国立病院13施設、養護施設3施設の看護部を中心に、病棟等の現場で院内感染対策作業手順書の作成を開始した。1年余、合計3回の発表検討会を経て、各現場で作業書を作り上げた。この作業書では、HACCPの考え院内感染対策上取り入れた。即ち、(1)立案段階での関係者全員参加。 (2)各現場に対応したものを現場サイドで作成する。(3)マニュアルは、think-savingである事。(4)考えられる全ての可能性を考えリスクポイントを洗い出し、その上で徹底して感染原因を究明する。(5)リスクポイントに重点を於いた対策を立てる。(6)何らかの達成目標の設定と達成度に対する評価。加えて、次の問題点に関する検討を進めた。[1]マニュアルはあるが現場での使用度が低い。[2]看護システム、清潔区汚染区の区分け、清潔作業と汚染作業の区分け、患者重症度の4つの因子全てを事実上満足させ得ない状況が多い。[3]院内感染対策上の大きな問題はスペース、人、時間である。[4]病院全体の管理の問題。[5]手順の単純化。[6]院内感染対策実務に即した各現場での定義。[7]養護施設の特殊な事情。
本年度作成された各病院施設の作業書では、リスクポイントの確認に基づく対策、マニュアルの使用度の低さに対する対策、等が養護施設を含め提案されている。
院内感染は、種々の試みにも関わらず、その数が十分少なくなったとは言えない。今後すべき活動としては、院内感染事例と各事例に於いてなされた対策を、失敗例、成功例を含め取りまとめ、教訓を基にさらに作業書を改善する事が必要となる。これが可能となるには、特にメディア等が責任者追求第一の姿勢を止め、原因の解析、究明に向かう必要がある。
感染制御(対策)ガイドライン作成に関する検討では、1)感染制御(対策)とは、2)本ガイドラインにおける勧告の実証性水準、3)血液感染対策、4)消毒法の選択と実際、5)患者環境の清潔管理(含リネン類)、6)隔離対策の選択と実際、7)耐性菌の監視体制、8)第1~3類および一部第4類感染症の院内感染対策、9)寄生虫対策、10)病理検査、病理解剖における感染対策、の各項目についてのガイドラインを出版予定である。
結論
過去3回の勉強会と各施設での作業書作成を経て、各現場での現場意識が高まった。本研究班としての作業書作成は進行するが、各現場が自分達の為の院内感染対策 作業手順書を作ることは重要と思われる。また、エビデンスに基づく新しい感染制御(対策)ガイドラインの作成を開始した。

公開日・更新日

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