新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000513A
報告書区分
総括
研究課題名
新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
池 康嘉(群馬大学医学部 微生物学教室、同 薬剤耐性菌実験施設)
研究分担者(所属機関)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所 細菌・血液製剤部)
  • 井上松久(北里大学医学部 微生物学)
  • 生方公子((財)微生物化学研究所)
  • 山本友子(千葉大学薬学部 微生物薬品化学(微生物薬品化学教室))
  • 後藤直正(京都薬科大学薬学部 微生物学(微生物学教室))
  • 中江大治(東海大学医学部 分子生命科学(分子生命科学教室))
  • 堀田國元(国立感染症研究所 分析科学(生活活性物質部))
  • 山口恵三(東邦大学医学部 感染症学(微生物学教室))
  • 渡邊邦友(岐阜大学医学部 嫌気性細菌学(付属嫌気性菌実験施設))
  • 和田昭仁(国立感染症研究所 細菌学(細菌部))
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最初の抗生物質ペニシリンが発見開発され1940年代に実用化されて以降、次々と新しい抗生物質が開発され医療で用いられてきた。一方抗生物質の使用量に伴い各種の薬剤耐性菌も次々と出現し、多剤薬剤耐性菌が重症院内感染原因菌として問題となっている。それらの薬剤耐性菌の中で黄色ブドウ球菌のMRSA、多剤耐性緑膿菌、β-ラクタム剤耐性グラム陰性桿菌、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)等は現在の医療現場の院内感染原因菌として、その感染症治療の困難さ、感染症治療及び防御対策に対する医療経済的負担の増大により深刻な問題となっている。そして現在では薬剤耐性菌の防御対策は、国家的、世界的規模で取り組まなければならない時代となっている。薬剤耐性菌の増加と、拡散防止対策及びそれらによる院内感染防御対策には、①薬剤耐性菌の分離状況及び薬剤耐性菌感染症の調査、②薬剤耐性機構の基礎的研究と検出方法の開発、③薬剤耐性菌に対する新薬の開発及び防御に対する教育、の3つの行動が必要である。①の調査研究は厚生科学研究において、荒川班において行なわれており、本研究班は薬剤耐性機構の基礎的研究と検出方法の開発を目的としている。そして次々と出現する新しい薬剤耐性菌を解析し、その検出方法及びレファレンス化を目指して研究を行う。又、本研究班は荒川班の調査研究と連動し、お互い補強しあう形で遂行することを目的としている。
研究方法
1. 薬剤耐性検査、NCCLS法に基づく寒天平板希釈方法及び微量液体方法を用いた(共通)
2. PCR法を用いた各種薬剤耐性遺伝子の解析と、新たな薬剤体制遺伝子の検出(共通)
3. 遺伝子塩基配列の決定(共通)
4. 薬剤耐性遺伝子のクローニングと遺伝子構造解析(共通)
5. 遺伝学的変異株の分離と遺伝子発現機構の解析(共通)
6. 免疫化学的方法を用いて、耐性発現蛋白の機能を解析(後藤)
結果と考察
本年度は、大きく次のような研究が行われた。新たに臨床分離された薬剤耐性菌についての耐性遺伝子の構造解析及び耐性発現機構の基礎的研究[緑膿菌のメタロ-β-ラクタマーゼ(荒川)、VanA型VRE(池)]、新たに問題となっている耐性についての遺伝学的、生化学的な実験的解析に基づく耐性機構の研究[緑膿菌の排出ポンプの研究(中江、後藤)、MRSAのテイコプラニン耐性(和田)、緑膿菌のマクロライド耐性(山本)]、薬剤耐性菌の臨床分離株の中で、臨床上問題となる薬剤耐性菌の疫学調査と耐性機構、又は耐性遺伝子の構造解析に基づく耐性菌分離方法の研究[大腸菌、肺炎桿菌の拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)(井上)、肺炎球菌、インフルエンザ菌の細胞壁合成酵素(PBPs)変異によるβ-ラクタム耐性(生方)]、概知薬剤耐性について、問題となっている細菌、耐性を、PCR法を用いてコロニーから検出する方法[MRSAのアミノグリコシド耐性(堀田)]、一般に研究があまり行われていなく、臨床上重要な菌種についての研究立ち上げの為の感染疫学的基礎研究[無芽胞性嫌気性菌Fusobacterium感染症と薬剤耐性(渡邉)]、検査で使用されている薬剤耐性菌検出キットの精度、有用性の検査[各種ESBL検出システムの比較検討(山口)]等の研究が行われた。緑膿菌のメタロ-β-ラクタマーゼはその感染症治療が非常に困難となる耐性菌である。荒川らが分離解析した緑膿菌のメタロ-β-ラクタマーゼ(VIM-2)生産菌は、新たな耐性菌であり、日本の臨床現場での拡散が危惧される。その拡散防止のための、耐性機構の解析及び検出方法の研究により、検出の為の有用な成果が得られた。VREの拡散と院内感染症の増加はその感染治療及び医療経済上、医療界に深刻な問題となる。日本は先進国では唯一VREが拡散していない国であり、その拡散防止のために、我が国で散発的に分離されるVREの耐性遺伝子構造解析が、その検出方法の開発のために必須である。今回解析されたVanA型VREは日本特有のVanA型VREで、日本とタイ国以外の他の国では分離されていない菌である。グラム陰性菌のESBLはβ-ラクタム剤耐性を発現し、臨床上問題となる耐性である。臨床分離菌のESBLの遺伝子構造解析を行い、その検出方法の開発のための基礎的研究が行われた。緑膿菌の薬剤排出ポンプは、キノロン耐性を含め各種の薬剤に多剤耐性となる。緑膿菌においては、不活化酵素による耐性と共に、排出ポンプは臨床上重要な耐性機構であり、その耐性機構の詳細な研究が行われた。不活化酵素によらない細胞壁合成酵素(PBPs)の変異による肺炎球菌、インフルエンザ菌は今後増加する傾向にある。これらの菌は成人髄膜炎の重要な起因菌であるため、今後とも疫学的調査及び研究を進める。MRSAのアミノ糖耐性はβ-ラクタム耐性と共に、MRSAに多剤耐性を賦与する耐性である。今回研究開発された検出方法は、PCRを用いて検査することの可能な臨床検査室の現場では有用と考えられる。臨床分離MRSAはバンコマイシン感受性であるが、同じグリコペプチド系のテイコプラニンには耐性菌(MIC~8μg/ml)が少数ながら存在する。今後これらのテイコプラニン耐性菌が、他のグリコペプチド系薬剤に与える影響も含めた基礎的研究として発展させていく。嫌気性菌のFusobacterium感染症とその耐性については今まで、ほとんど研究が行われておらず、その臨床的疫学的基礎研究が行われた。グラム陰性菌のマクロライド耐性は、臨床分離頻度は少ないが、グラム陰性菌のマクロライド耐性として興味のある耐性である。
結論
この研究班で研究されている細菌と薬剤耐性は日本及び各国において、院内感染原因菌として現在問題となっている細菌がほぼ全て含まれている。今回の研究成果は、既に検出に用いることが可能な研究と、検出方法開発のための遺伝学的生化学基礎研究において研究結果が出た。今後さらに研究を広げ進展させる。

公開日・更新日

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