プリオン病の診断技術の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000509A
報告書区分
総括
研究課題名
プリオン病の診断技術の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
品川 森一(帯広畜産大学)
研究分担者(所属機関)
  • 堀内基広(帯広畜産大学)
  • 北本哲之(東北大学)
  • 小野寺節(東京大学)
  • 毛利資郎(九州大学)
  • 高橋秀宗(国立感染症研究所)
  • 岡田義昭(国立感染症研究所)
  • 西島正弘(国立感染症研究所)
  • 棚元憲一(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
プリオン病の診断,血液製剤,医薬品,畜産食品,生体材料のプリオン汚染検出のため,免疫学的手段及びバイオアッセイによってプリオンを検出あるいは,関連蛋白の検出による診断法を改良し,高感度化・迅速化と実用化を図る。このことにより,プリオン病のヒトへ或はヒト間の伝播,遷延を未然に防ぐことを目的とする。
研究方法
1)遺伝子型の異なったヒト及びシロオリックスのプPrP遺伝子導入マウスのヒト,マウスプリオンに対する感受性を調べ,有用性を検討した。2)異常PrP(PrPSc)検出用の反応性の高い抗体を選択するため,組換えプリオン蛋白による多数のモノクロ-ナル抗体(MAb)を作成した。3)PrPSc検出の陽性対照として,また検出系の検定を行うための各種組換えプリオン蛋白を大腸菌で発現させアフィニティ-カラム,HPLC等で精製をおこなった。4)新たなPrPScの検出系として,液相の抗原として先ず組換えPrPと合成ペプチドを用いてcaptured ELISA及び競合ELISA等の開発を検討した。5)PrPScを液相として抗体と反応させうる試料調整法として,グアニジン塩を変性溶解剤とした時は希釈による阻害の除去を検討した。
結果と考察
1)ヒト型トランスジェニック(Tg)マウスの評価:バイオアッセイによる早期診断法のために,ヒト/マウスキメラ型PrP遺伝子導入マウス,全マウス型PrP遺伝子導入マウス(TgMo#22, TgMo#39)のヒトプリオン及びマウスプリオンに対する感受性評価を行った。ヒト/マウスキメラPrP遺伝子導入マウスはヒトプリオンに対して高感受性を示すと評価できた。しかし,それでもなお3ヶ月以上の潜伏期を要する。マウスの場合,発症以前から細網リンパ系組織にPrPScの蓄積が見られるため,免疫学的に蓄積されたPrPScを検出すれば,極めて短期間でバイオアッセイを行うことが出来る可能性が出てきた。また,マウス内在性のPrP遺伝子の存在がヒト・プリオンの感受性に抑制的に働くことが明らかとなった。全マウス型PrP遺伝子発現マウスでは内因性のマウスPrP遺伝子に相加的に作用することがことが示された。2)動物PrPのTgマウス:マウスPrP遺伝子を持たないオリックス型Tgマウスが戻し交配で完成した。脳,骨格筋及び心筋にPrP遺伝子の発現が観察された。マウスPrP遺伝子を持つTgマウスは,マウスプリオンに対して野生型より潜伏期が短縮した。羊プリオンの伝達成績が未だ得られていないので,有用性は未知で有る。3)rPrPの作製:ヒトrPrPを可溶性の形で得られる発現系を作製した。正常多形の殆どが2量体を形成しているが,コドン219LysのrPrPは単量体であり,この型が異常化に抵抗性を示すこととの関連が示唆された。また,マウス,ハムスタ-,ヒツジ及びウシのrPrPを,可溶性のHis-Tag融合蛋白として精製・調製できた。作製された可溶性のヒト,マウス,ハムスタ-,ヒツジ,ウシrPrPは免疫生化学的なPrPSc検出系の標準物質とし必要であり,さらに,反応性の高い抗体を得るための免疫原としても使用できる。4)rPrPに対するMAbの作製:マウスrPrPを抗原としてPrPノックアウトマウスを用いて,15MAbが得られた。エピト-プの違い,エピト-プの構造及び種特異性から6群に分けられた。リニア-エピト-プを認識する抗体3つを選び,後の実験に用いた。羊rPrPに対するMAbを3つ得たが解析に至っていない。抗PrP抗体が多く作製されているが実際に免疫学的検出に適した抗体は数少なく,更に多数の抗体,特にMAbを作成し,反応系に適したものの選択が必要である。5)検出系の検討:PrPScを可溶化して液相の抗原として抗原抗体反応を
実施できる試料調整法は開発されていない。試料調整法をモニタ-するためのcaptured ELISAが用意できた。capture 抗体として3MAbの混合物及びウサギ抗体B103がPrP捕捉能が高く,次いでMAbの一つ 31C6であった。PrPScの可溶化剤としてチオシアン酸グアニジンを0.4Mまで希釈すれば可溶性抗原として使用できることが判った。6)競合ELISA:PrPSc検出の高感度化のため,競合ELISAの系を検討した。液相で一定量の酵素標識PrP合成ぺプチドと対応する抗体と複合体を形成させるプレ-トに固相化した抗IgG抗体によって複合体を捕捉し,複合体生成時に被験試料を加えてそこに含まれるPrPにより複合体形成を競合阻害させ。標識された合成ペプチドの量を測定するほうほうであり,合成ペプチドを競合物質とした場合は10~15nMで阻害が見られた。この系は高感度であるが,rPrPあるいは合成ペプチドを用いて開発された系は,合成ペプチドあるいは精製PrPScを抗原として用いる場合は有効でも,夾雑物と可溶化剤等を含む試料で期待通りに働く保障がないことに留意する必要が有る。プリオン病の早期には組織中のプリオン濃度が低い。また畜産物等がプリオンに汚染されていてもその濃度は低いと予想される。このような被験材料からPrPScを検出ためには,極めて鋭敏な検出法を用いるか,あるいは比較的大量の検体から,選択的にPrPScを濃縮する必要が有る。今回確立されたcaptured ELISAの系はPrPSc検出の迅速性は確保されるが,感度が低いため,磁気ビ-ズ法などで特異的にPrPScを濃縮するための,液相抗原試料調製法の検討の道具と考えるべきであろう。ここで開発された競合ELISAは鋭敏な検出法であり,適した試料調整法の開発が実用化につながる。7)4つのPrP合成ペプチドはPrPCと結合するがPrPScとは結合しなかった。試験管内でPrPSc存在下でPrPCをPrPSc様に変換させる際,PrP合成ペプチドにより阻害が起きる。即ちPrP合成ペプチドがPrPSc特異的なプロ-ブとなる可能性が有った。しかし,調べた4つの合成ペプチドはPrPCと結合するがPrPScとは結合しなかった。合成阻害はPrPCと結合することによって起きていたことが判った。8)14-3-3蛋白のガンマアイソタイプ特異抗体を組換え蛋白を用いて作製した。ウエスタンブロットによる定量から,脊髄液中のガンマアイソタイプ量はプリオン病では50ng/ml以上で,非プリオン病では10ng/ml以下であった。ガンマアイソタイプ特異抗体が作製できたため,14-3-3蛋白のガンマアイソタイプを定量することが可能となり,プリオン病で高くなることを突き止めた。14-3-3蛋白はプリオン病に特異なものではないが,ガンマアイソタイプの定量により,生前のプリオン病の診断精度を高めることが出来ることは,臨床的に有意義である。
結論
1)ヒトプリオンに高感受性のヒト型PrP(ヒト/マウスキメラPrP遺伝子導入)マウスが完成したが,動物PrP導入Tgマウスは動物プリオンに対する感受性は未だ判らない。2)ヒト,マウス,ハムスタ-,ウシ及びヒツジのrPrPが可溶性の形で精製されるようになった。ヒトrPrPの正常多形の殆どが2量体を形成しているが,コドン219LysのrPrPは単量体であった。 3)rPrPに対する15MAbが作製され,1つがcapture抗体として有用と判定された。4)capture ELISAが確立されたが,検出感度は高くなかった。5)競合ELISAが確立され,合成ペプチドを競合阻害物とした場合は高感度であった。6)合成ペプチドをプロ-ブとする試みは成功しなかった。7)4-3-3蛋白のガンマアイソタイプ特異抗体を作製し,ガンマアイソタイプの値が非プリオン病とプリオン病で異なり,プリオン病で高くなることを突き止めた。

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