性感染症の効果的な発生動向調査に関する研究(総括報告書)

文献情報

文献番号
200000508A
報告書区分
総括
研究課題名
性感染症の効果的な発生動向調査に関する研究(総括報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
熊本 悦明(札幌医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 塚本泰司(札幌医科大学)
  • 利部輝雄(岩手医科大学)
  • 赤座英之(筑波大学)
  • 簔輪眞澄(国立公衆衛生院)
  • 野口昌良(愛知医科大学)
  • 守殿貞夫(神戸大学)
  • 碓井 亞(広島大学)
  • 香川 征(徳島大学)
  • 内藤誠二(九州大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
29,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
①1998年度以来継続して8モデル県(1997年は7県、1998年以後は8県)における性感染症のセンチネル・サーベイランスを行って来ている。センチネル・サーベイランスはそれら県内の産婦人科・泌尿器科・皮膚科及び性病科を各年度内6月期と11月期に受診し、各種性感染症(梅毒・軟性下疳・淋菌感染症・尖圭コンジローム・性器ヘルペス・クラミジア感染症・非淋・非ク性性器炎・トリコモーナス症)の診断を受けた症例の調査報告を集積し、そのdataから各性感染症のわが国における10万人・年対罹患率を推定算出している。同時に推計感染症例数の推算を行っている。この様なセンチネル・サーベイランスによる各種性感染症の10万人・年対罹患率は今までわが国において算出されていなかった。そのためWHOによる国際的な性感染症統計からわが国のものが抜けていた訳で、この様な資料作成は極めて公衆衛生学上重要な意義をもつものといえる。世界的に性感染症としてのエイズ/HIV感染の流行が注目されているが、その流行のbaseには各種性感染症の流行の流れがあり、それに乗ってエイズ/HIV感染が広がるとされている。そのため、国際的にエイズ/HIV感染予防対策のkey情報として従来の性感染症流行の実態を分析し、それを基に予防啓発活動を行っている。その様な国際的情報収集にわが国も対応するため、われわれの性感染症センチネル・サーベイランスの算出する罹患率は非常に重要な資料となっていると考えている。②そのサーベイランスも本年度で3年目を迎え、一応安定した調査となり、わが国における有症性感染症症例罹患率が明らかになりつつある。しかし、最近性感染症の無症候化が進んでいるため、その無症候感染の流行の広さも明確に把握しておくことも疫学研究上重要となって来ている。そこで、1999年度より現在最も流行している性感染症であるクラミジア感染症の女性における無症候感染も含めた罹患率分析を行い始めている。昨年度は性生活を持つ20才以上の一般市民の既婚女性での無症候性感染も含めた性器クラミジア感染率を分析検討し、20~24才では6.9%(1/15人)、25~29才で、3.3%(1/30人)、30~34才では2.4%(1/42人)、35~39才では1.8%(1/56人)という潜在的流行の存在を証明し得ている。しかし、性生活の始まる15~19才における一般人口女性での分析は行い得ないでいた。そこで本年度はその15~19才の一般人口女性における無症候性感染も含めたクラミジア感染率の分析をも併せて行った。
研究方法
①8モデル県における性感染症のセンチネル・サーベイランスは、前述の様に6月期及び11月期にそれぞれの県下の協力医療施設を受診し、性感染症と診断された症例の報告を集積し、疫学的分析検討を行った。その方法は1998年度以来、同じ方法を踏襲している。②本年度の第2の研究テーマとした15~19才女性人口に置ける無症候感染も含めたクラミジア感染率調査は2つの研究planの下に施行した。a)18~19才の女性看護学生の同意の下で、綿棒による膣分泌物自己採取を行い、クラミジアをPCR法で検出・測定した。そしてその成績を別に行ったアンケート調査を基に、性交経験の有無で陽性率を分けて分析検討した。b)女子高校生で性問題で養護保健室を訪れた生徒について、本人の同意・希望の下、上記と同様な自己採取標本からクラミジア検出率を検討した。
結果と考察
①各種性感染症の10万人・年対罹患率。各種性感染症、それぞれの詳細の分析検討成績は、“日本性感染症学会誌、12(1): 32-67, 2000年
"にまとめた熊本悦明他による〔日本における性感染症流行の実態調査;2000年度のSTDセンチネル・サーベイランス報告〕を参照されたい。その中の、最も流行しているクラミジア感染症についてのみ述べてみると、女性が優位に高い感染率を示しており、女/男比が15~19才で4.9、20~24才で3.1、25~29才で1.9、30~34才で1.7となっている。特に15~24才の若年女性に著しい流行のあることが示されている。そして、女性の有症クラミジア罹患率は15~19才で1.0%、20~25才で1.3%となっている。ただ、この有症感染を示すものは女性感染例のわずか1/5とされており、他の4/5症例は無自覚の潜在感染例となっている。事実、昨年度の研究で既婚の一般市民代表と考えられる家庭夫人妊娠例での調査で、20~24才でのクラミジアの感染率が6.9%と上記1.3%の約5倍で、まさに国際的に言われている通りの潜在感染例の存在が明らかになっていた。②10才代後半女性の無症候感染を含めたクラミジア感染率の検討。上述の如く16~19才での有症感染率は0.98%であったことから、無症候感染も含めるとその5倍の感染率4.8%が一般人口内16~19才女性に検出されるはずである。それを証明すべく行った研究方法で述べた18~19才女性101名の検討では陽性率が4.2%であり、ほぼ推定通りの陽性率であった。ただ性交経験例のみでの検討では陽性率6.8%と高くなっていた。なお、別にかなり活発に性生活を行っていると考えられる各種性問題を抱える15~18女子高校生75例での陽性率は14.7%(1/7人)とかなりの高率となっている。これは昨年度の10才代後半の未婚妊娠での陽性率27.3%(1/3.6人)の約半分の値ではあるが、一般人口女性群よりかなり高い値であり、たまたま妊娠してもまた妊娠していなくても、性生活活発な10才代後半女性でのクラミジア感染率は(1/7~1/3.7人)位の高さにあることが証明されたといってよい。
結論
すでに3年継続しているセンチネル・サーベイランスによる性感染症罹患率算出は、厚生労働省による全国900定点よりの報告をまとめた性感染症動向調査と異なり、かなり女性優位、ことに10才代後半から25才位までの若い女性人口内に著しく浸透していることを明確に証明し、極めて性感染症予防啓発のために重要な資料を作成していると自負している。ことにセンチネル・サーベイランス以外に施行している10才代後半女性人口内への無症候性のクラミジア感染流行度がセンチネル・サーベイラスで推定される通りの実際に存在することが証明されていることから、益々われわれの疫学研究成果の正しさが証明されたと言ってよい。なお、われわれのセンチネル・サーベイランスが3年継続されていることから、わが国での各種性感染症の10万人・年対罹患率の年次推移が明らかになりつつあり、ことにクラミジアや淋菌、ヘルペスなどの感染症が増加の一途をたどりつつあることが極めて注目すべき所見として特記しておきたい。そこで明年度は特に各種性感染症の年次推移の分析に焦点を合わせて行い、医療先進国で唯一この様に性感染症罹患率が鰻上りに上昇している実態を詳細に分析してみたいと計画している。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-