効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の開発に関する研究   

文献情報

文献番号
200000498A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的な感染症発生動向調査のための国及び県の発生動向調査の開発に関する研究   
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
岡部 信彦(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 永井正規(埼玉医科大学)
  • 廣田良夫(大阪市立大学医学部)
  • 平賀瑞雄(鳥取県米子研究所)
  • 加藤一夫(福島県衛生研究所)
  • 山下和予(国立感染症研究所)
  • 小坂健(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
41,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行に伴って、感染症発生動向調査の充実・強化が図られた。とくに全数届出個票のオンライン化およびデータベース化、定点届出数からの全国年間罹患数の推計、感染症発生動向調査への警報システムの導入、病原体個票のオンライン及びデータベース化が進められた。これらの充実・強化は情報の解析と還元という面から、いずれも世界的に通用する画期的なものである。しかし、それらの実施、さらにより有効な運用に向けて不可欠 な検討課題も少なくない。全数届出システムには、報告の遅れによる毎週のデータの整合性の問題、異常発生数と判断をする基準の欠如があり、全国年間罹患数に関する検討課題としては、推計の妥当性や精度および全国の月別や都道府県別推計の可能性が挙げられる。警報システムに関する検討課題としては、現在計画中の警報システムの試行についての分析およびその分析結果に基づく基準値等の見直しの要否判定が挙げられる。病原体システムには、分離数の異常に基づく集団発生の探知あるいは多地域における同時多発の探知方法などが検討課題として考えられる。さらに、全体のシステムとして、国レベルでの解析と地域レベルでの解析の方法論、中長期的な動向把握、流行の異常性などの考慮などが重要な課題である。 また、異常発生が認められたあとの保健所等、第一線機関での対応方針を定める必要がある。
本研究班は、これらについて総合的に調査研究を行い、より有効な感染症対策に結びつくためのより質の高い感染症サーベイランス構築にむけて提言を行うことを目的として構成された。
研究方法
感染症法に基づいてサーベイランスが行われた4類感染症定点報告疾患について、1999年についての罹患率推定や警報設定について検討した。
保健所の意見としては全国保健所長会を通じて各保健所へのアンケート調査を行った。
病原体サーベイランスについては、全国の地方衛生研究所の協力を得て現状の調査を行った。
インフルエンザサーベイランスについては、現行のサーベイランスでは対象外となる老人保健施設でのインフルエンザのインパクトについてサーベイランスを行った。また警報注意報あるいは死亡の状況について、全国自治体の協力を得て調査を行い、その結果について感染症情報センターのホームページなどを介して広く一般への情報の還元と提供を行った
全数届け出疾患として、未報告の問題を取り上げ特にA型肝炎についてのこのサーベイランスでの補足率を計算するための基礎的なデータを収集し検討した。
定点把握疾患の代表としては麻疹を取り上げ、我が国における麻疹の現状を把握するとともに、米国における麻疹対策について調査報告を行った。また現行の全数届け出疾患では無いが公衆衛生学的なインパクトが大きいと考えられるビブリオ・バルニフィカス感染症について実態把握のための基礎的な情報として医師側の認知度について救急医を対象としたアンケート調査を行った。性感染症(STD)のサーベイランスについての評価方法の検討及びに一部の地域での全数調査について、地域(岡山市)の医療機関の協力の下に比較検討を行った。
結果と考察
定点サーベイランスの評価についての研究結果は「定点サーベイランスの評価に関するグループ」研究報告書― 感染症発生動向調査に基づく流行の警報・注意報および全国年間罹患数の推計 ―として、別の報告書(A4版、約150頁)にまとめられている(グループ長・永井正規)。その中には、定点選定上の問題点として、定点数が少ない地域があること、特定の診療科の定点が不十分であること、必ずしも無作為に設定されていないことなどが述べられている。感染症の警報・注意報については、当面、従来の発生方法を継続することを提案し、その意味、発生の仕方と発生のための基準値などを、保健所・地方感染症情報センター・中央感染症情報センターなどの専門家に対してより一層周知すること、それら専門家からの意見を広く聴取することの必要性が指摘されている。全国年間罹患数の推計については、2000年からの実施に向けて、それを可能とするようなデータを整備すること、推計方法の検討(妥当性を含む)を課題としてあげられている。
また警報注意報については、インフルエンザについて広く公表するものとして、感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/index-j.html)を通じて一般への情報提供を行った。
サーベイランスに直接関与する保健所の意見については、476保健所からアンケート結果を得たが、感染症発生動向調査事業について独自の解析や四類感染症の疫学調査の実施を行う保健所が少なからずあり、保健所としての積極的姿勢が伺われた。一方、情報収集を行う上で医療機関との連携や情報還元の在り方などについては課題が多く、保健所長自身重要と考えている事が明らかになった。
インフルエンザ様疾患発生動向調査が感染症法の基づくものと平行して一地域(大阪市)における高齢者施設において実施されたが、インフルエンザ流行の規模等から平成12年度では急峻な熱発者の増加を観察することはできなかったが、今後このような病院以外でのサーベイランスが行われる必要があるとの指摘がなされた。
A型肝炎について、感染症サーベイランスからは平成11年度には883例の報告があったが、商業ラボの協力を得て行われた本研究班における調査ではS社だけでも3814例の報告があり、全数届けで出疾患ではかなりの未報告例があることが推定された。またビブリオバルニフカスについて全国救急医の意識調査及び我が国における発生状況の調査を行ったところ、年間約260例の存在と約100例の死亡があり得ることが推計され、我が国における本症の重要性を指摘した。性感染症(STD)については、地域において定点報告の状況と全数報告との比較を行ったと頃、現在の定点サーベイランスは地域においては全数報告状況を反映するものであった。しかし一部乖離ないし実状を反映しないのではないかと思われるものを考慮する必要はあり、今後のさらなる検討が必要であると考えられた。またこれらの結果は今後のより有効なSTDサーベイランスに結びつけられるものである。麻疹については、我が国における麻疹の現状についてまとめ、さらに米国などの制圧対策を参考に我が国での麻疹制圧にむけて取り組む必要があることを提言した。
結論
現行のサーベイランスにおける問題点が明らかになってきており、更に問題点の解析や改善方法についての検討が必要であると考えられた。本研究班は、これらについて続けて総合的に調査研究を行い、より有効な感染症対策に結びつくためのより質の高い感染症サーベイランス構築にむけて提言を行う予定である。

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