新規化学修飾ヘモグロビン・α‐1糖蛋白結合体(PHP‐α‐1AGP)の人工血液としての開発研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000493A
報告書区分
総括
研究課題名
新規化学修飾ヘモグロビン・α‐1糖蛋白結合体(PHP‐α‐1AGP)の人工血液としての開発研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西 勝英(熊本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 前田浩(熊本大学医学部)
  • 山本哲郎(熊本大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工酸素運搬体の臨床応用に対する期待は大きく、通常の医療のみならず災害時の緊急医療においてもその利益は計り知れないものがあり、世界的な開発競争が展開されている。中でもヘモグロビンは、人工酸素運搬体の開発にとって最も魅力的な物質であり、我々の研究グル-プがピリドキシル化ポリオキシエチレンヘモグロビン重合体(PHP)の人工酸素運搬体としての開発に成功してきた。当面の人工酸素運搬体の開発・臨床応用の第一義的な目的は、緊急出血時の循環器系の機能維持であり、重要臓器に対しての緊急避難的酸素供給である。したがって、本研究は臨床応用を前提としたより安全性の高い、しかも血液に近い流体力学的性質をもった人工酸素運搬体開発を目的としている。
研究方法
(1)従来のPHPの持つデメリットである酸化ストレスの軽減を目的として、ヘモグロビン分子をニトロソ化したPHPの消化器系への影響を摘出臓器標本、まるごと動物の血行動態でさらに検討を行い、従来の研究でおこなったPHPの消化器作用との比較検討を行った。
(2)PHPのニトロソ化物質の作製
牛ヘモグロビンを用いてヘモグロビンのニトロソ化を行う技術を確立した後、味の素社より提供を受けPHPサンプルのニトロソ化を行った。本研究は、高分子化学に高度の技術を有し各種蛋白のニトロソ化の技術を開発してきた熊本大学医学部微生物学講座前田の研究グループと化学血清療法研究所の栗原研究グループが共同で行った。
(3)ニトロソ化PHPのゼプチック・ショックに対する有用性の検討 ニトロソ化PHPのゼプチック・ショックに対する作用について、熊本大学大学院医学研究科分子病理学山本教授の研究グループが中心となり、循環機能、腺溶系機能、免疫機能の観点から検討を行うための実験系の確立をおこなった。
結果と考察
1.ヘモグロビンをベースにした人工酸素運搬体重合体 の投与により下痢あるいは便秘等の症状が生じるとの報告があり、内臓粘膜に対する人工血液の影響を検討する必要性が生じてきた。今回、PHPの代用血液としての有用性を検討する基礎的研究の一環として、マウス腸管平滑筋、消化運動に関する薬理学的研究を行った。摘出腸管平滑筋標本において、化学修飾ヘモグロビンであるPHPは、その収縮の振幅や筋張力に影響を与えることが明らかとなり、ヘモグロビンと同様のNO消去作用を有すること、更に収縮作動薬を用いた実験からCaキレート作用も有することが分った。本実験結果より、PHPを臨床応用するためには、従来のPHPのもつCaキレート作用を軽減し、ニトロソ化して過剰な過酸化由来の毒性を軽減した新規ヘモグロビン作成の必要性があると示唆された。
2.ニトロソ化PHP-α-1 AGP融合体の作製法に関する検討、昨年度に引き続き、PHPの臨床応用の際問題となるヘモグロビンのNO消去作用を改善させるため、ニトロソ蛋白の作製法を確立し、ヘモグロビンやα-1-acid glycoprotein (a1AG) のみならず、その他の血清蛋白、例えばアルブミンやa1-protease inhibitorのニトロソ化を試みた。さらに、ニトロソ化蛋白およびニトロソ化合物のNO供与体としての活性を、それらの平滑筋弛緩反応、抗アポトーシス作用、抗酸化活性、白血球走化性抑制活性および肝虚血再灌流障害における血流維持および臓器保護作用について検討した。その結果、今回作製したニトロソ化α-1AGなどのニトロソ化蛋白は、強い血管弛緩作用のみならず、抗酸化活性、抗アポトーシス作用や臓器保護作用など多彩な薬理活性を有していることがわかった。この様なニトロソ化蛋白とPHPを併用することにより、より安全な人工酸素運搬体の臨床応用が可能であることが示唆された。
3. PHP-α-1 AGPの微細循環に対する有効性についての基礎研究、多核球浸潤に伴う血管透過性亢進現象をモルモットを用いて検討した。微小循環系の反応のうち、多核球浸潤には血管透過性亢進が伴うのに対し、単球浸潤においては、たとえ末梢血の単球増多症があった場合にも血管透過性は全く亢進しないことを、平成11年度にモルモットを用いた実験により明らかにした。このことは、多核球浸潤に伴う血管透過性亢進が、白血球が後毛細管細静脈壁を通過する際に起こる血漿成分の物理的漏出ではなく、多核球からの能動的シグナルに血管内皮が反応して起こる現象であることを強く示唆した。細胞間における局所的な情報伝達法として、細胞接触によるものと、化学伝達因子のパラクリン作用によるものとが知られている。まず、前者の可能性を検討するために、フコイダンを前投与して、セレクチンと糖質性リガンドとの結合を阻害することによって多核球と血管内皮の接触を抑制しようと考えたが、フコイダンを投与することによりモルモットの多くがショックに陥ったため実験を継続できなかった。後者の可能性を検討するために、ヒスタミンH1受容体アンタゴニスト、ブラディキニンB2受容体アンタゴニスト、及び、システインロイコトリエン受容体アンタゴニストによる多核球依存性血管透過性亢進抑制の有無を観察した。
結論
1)摘出腸管平滑筋標本において、化学修飾ヘモグロビンであるPHPは、収縮の振幅や筋張力に影響を与えることが明らかとなった。また、収縮作動薬を用いた実験からPHPがCa2+キレート作用を有する可能性が示唆された。昨年度より引き続き従来型のPHP(味の素社より提供)のNO消去作用についての詳細な研究結果が得られたので、今後新たなニトロソ化PHP-α-1 AGP融合体との比較検討が可能となった。2)今回作製したニトロソ化α-1AGなどのニトロソ化蛋白は、強い血管弛緩作用のみならず、抗酸化活性、抗アポトーシス作用や臓器保護作用など多彩な薬理活性を有していることがわかった。この様なニトロソ化蛋白とPHPを併用することにより、より安全な人工酸素運搬体の臨床応用が可能であることが示唆された。今後開発にあたるニトロソ化PHP-α-1 AGP融合体の安全性に対して重要な知見を提供した。3)多核球浸潤に伴う血管透過性亢進現象をモルモットを用いて検討し、急性炎症反応の局所的特徴である微小循環系における血管拡張、血管透過性亢進及び多核球浸潤が連鎖していること、更に、それは全身的特徴である末梢血多核球増多症とも連鎖していることを示した。α1酸性糖蛋白が、この多核球依存性血管透過性亢進に影響を与えるかどうかを検討することが可能となった。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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