文献情報
文献番号
200000491A
報告書区分
総括
研究課題名
新規機能を付与した人工プロトロンビン製剤の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
森田 隆司(明治薬科大学生体分子学教室)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究はプロトロンビンの活性化中間体であるメイゾトロンビンの持つ抗血液凝固促進作用に注目し、プロトロンビン遺伝子に変異を導入することにより安定なメイゾトロンビンを大量発現させ、ウィルス汚染などの危険の少ない抗血栓製剤を開発することを目的とする。また、遺伝子変異導入によりプロトロンビンの血中での寿命を制御することにより、持続的効果の期待できる血液製剤を開発することを目的とするものである。
研究方法
1. ヒトプロトロンビン遺伝子への変異導入
ヒト肝臓のcDNAライブラリーをテンプレートとして、ヒト血液凝固第II因子 (Genbank Accession No. NM_000506) の全長cDNAクローニングを行った。実際のクローニングは翻訳領域である開始メチオニンから停止コドンまでの1.9 kb領域を、PCR法により増幅し、増幅産物をクローニングベクター (pUC19) に組み込んだ。作成したpUC19/prothrombin (pUC/PT) コンストラクトの挿入塩基配列部分をDNAシークエンサーで決定し、ヒトプロトロンビン遺伝子であることを確認した。
次に、pUC/PTをテンプレートとして停止コドン部分に変異を導入したプライマーを用いてPCRを行い、発現プロトロンビンのC末端に検出・精製用タグとしてmyc-tagならびにHis-tagを導入した(pUC/PT-tag)。さらに、pUC/PT-tagをテンプレートとし、部位特異的変異導入法を利用して、プロトロンビンのGlaドメインとKringle 1を含むフラグメント1と、Kringle 2を含むフラグメント2のそれぞれの切断部位である155番目のアルギニン残基を、グリシンもしくはアラニン残基にそれぞれ変異させた。同時に、フラグメント2とトロンビンA鎖の切断点である271 (同時に284) 番目のアルギニン残基をグリシンもしくはアラニン残基にそれぞれ変異させた変異体を作製した。両変異体の塩基配列を確認し、変異が導入されているクローンとして155番目のアルギニンがアラニン、271 と(284番目) のアルギニンがアラニンに置換されているクローンを得た (PT-RA155, PT-RA271)。さらにPT-RA271の155番目のアルギニン残基をアラニンに置換し、155、271、284番目のアルギニン残基がすべて置換されているPT-Doubleを得た。
2. 変異導入プロトロンビンの発現
1で作製したプロトロンビンコンストラクトを哺乳動物細胞株にて発現させるために、哺乳動物細胞で発現可能なCMVプロモーターの下流にプロトロンビン遺伝子を組みこんでコンストラクトを作製した。ベクターにはSV40トランスフォーム細胞で高複製されるSV40oriをもつ発現用プラスミドを使用した。
以上の操作を4クローン (PT-tag、PT-RA155、PT-RA271、PT-Double) すべてに対しておこない、作成した発現コンストラクト (pEXP/PT-tag, PT-RA155, PT-RA271, PT-Double) をアフリカミドリザル腎臓由来でSV40でトランスフォームされた線維芽細胞株であるCOS-7細胞に一過性に導入し、組換えタンパク質の発現をおこなった。発現した組換えプロトロンビンは、プロトロンビン本来の持つシグナル配列を利用して培地中に分泌されるため、遺伝子導入後のCOS-7細胞を無血清培地で培養し、48時間ごとに培地を交換して発現したプロトロンビンを回収した。同様に他の変異プロトロンビンコンストラクトについてもCOS-7細胞に発現させ、電気泳動、免疫染色をおこなって確認した。発現した組換えプロトロンビンのN末端アミノ酸配列をアミノ酸シークエンサーを用いて決定した。
また、発現タンパク質を含む培地をヘビ毒由来のプロトロンビンアクチベーターであるエカリン (ecarin) を用いて37℃、15分間活性化し、Boc-Val-Pro-Arg-pNAを用いた切断活性を測定した。
エカリンはサメハダクサリヘビ毒よりゲルろ過と陽イオン交換及びブルーセファロースクロマトグラフィーにより精製した。
ヒト肝臓のcDNAライブラリーをテンプレートとして、ヒト血液凝固第II因子 (Genbank Accession No. NM_000506) の全長cDNAクローニングを行った。実際のクローニングは翻訳領域である開始メチオニンから停止コドンまでの1.9 kb領域を、PCR法により増幅し、増幅産物をクローニングベクター (pUC19) に組み込んだ。作成したpUC19/prothrombin (pUC/PT) コンストラクトの挿入塩基配列部分をDNAシークエンサーで決定し、ヒトプロトロンビン遺伝子であることを確認した。
次に、pUC/PTをテンプレートとして停止コドン部分に変異を導入したプライマーを用いてPCRを行い、発現プロトロンビンのC末端に検出・精製用タグとしてmyc-tagならびにHis-tagを導入した(pUC/PT-tag)。さらに、pUC/PT-tagをテンプレートとし、部位特異的変異導入法を利用して、プロトロンビンのGlaドメインとKringle 1を含むフラグメント1と、Kringle 2を含むフラグメント2のそれぞれの切断部位である155番目のアルギニン残基を、グリシンもしくはアラニン残基にそれぞれ変異させた。同時に、フラグメント2とトロンビンA鎖の切断点である271 (同時に284) 番目のアルギニン残基をグリシンもしくはアラニン残基にそれぞれ変異させた変異体を作製した。両変異体の塩基配列を確認し、変異が導入されているクローンとして155番目のアルギニンがアラニン、271 と(284番目) のアルギニンがアラニンに置換されているクローンを得た (PT-RA155, PT-RA271)。さらにPT-RA271の155番目のアルギニン残基をアラニンに置換し、155、271、284番目のアルギニン残基がすべて置換されているPT-Doubleを得た。
2. 変異導入プロトロンビンの発現
1で作製したプロトロンビンコンストラクトを哺乳動物細胞株にて発現させるために、哺乳動物細胞で発現可能なCMVプロモーターの下流にプロトロンビン遺伝子を組みこんでコンストラクトを作製した。ベクターにはSV40トランスフォーム細胞で高複製されるSV40oriをもつ発現用プラスミドを使用した。
以上の操作を4クローン (PT-tag、PT-RA155、PT-RA271、PT-Double) すべてに対しておこない、作成した発現コンストラクト (pEXP/PT-tag, PT-RA155, PT-RA271, PT-Double) をアフリカミドリザル腎臓由来でSV40でトランスフォームされた線維芽細胞株であるCOS-7細胞に一過性に導入し、組換えタンパク質の発現をおこなった。発現した組換えプロトロンビンは、プロトロンビン本来の持つシグナル配列を利用して培地中に分泌されるため、遺伝子導入後のCOS-7細胞を無血清培地で培養し、48時間ごとに培地を交換して発現したプロトロンビンを回収した。同様に他の変異プロトロンビンコンストラクトについてもCOS-7細胞に発現させ、電気泳動、免疫染色をおこなって確認した。発現した組換えプロトロンビンのN末端アミノ酸配列をアミノ酸シークエンサーを用いて決定した。
また、発現タンパク質を含む培地をヘビ毒由来のプロトロンビンアクチベーターであるエカリン (ecarin) を用いて37℃、15分間活性化し、Boc-Val-Pro-Arg-pNAを用いた切断活性を測定した。
エカリンはサメハダクサリヘビ毒よりゲルろ過と陽イオン交換及びブルーセファロースクロマトグラフィーにより精製した。
結果と考察
1. ヒトプロトロンビン遺伝子への変異導入
本研究でクローニングしたプロトロンビン遺伝子はデータベースに報告されている配列と2塩基の置換が見られた。しかし、アミノ酸配列上はまったく変化がなく、SNP (single nucleotide polymorphism)であると思われる。変異体作製はアルギニン残基の置換にはグリシンとアラニンへの置換を試みたが、グリシン置換体を得ることは出来ず、アラニン置換体のみを得た。いずれの変異によっても、各ドメイン間が切断されなくなるため、アラニン置換体とグリシン置換体の間には本質的な差はないと思われる。
2. 変異導入プロトロンビンの発現
動物細胞で発現し、回収したプロトロンビンを電気泳動し、抗myc-tag抗体を利用した免疫染色法により、プロトロンビンの発現を確認したところ、COS-7細胞では培地を48時間おきに3回交換した時点でもまだプロトロンビンの発現がみられた。組換えプロトロンビン遺伝子の一過性発現においても、6日間連続して発現が見られたので、導入した遺伝子はかなり安定して細胞内で働いているものと思われる。また、一過性発現を用いた理由は、発現プラスミドに存在するSV40oriの高複製による発現量の増加を目的としたためである。
プロトロンビン組換体を発現した際に、PT-tag野生型とPT-RA271組換体は同じ泳動度を示した。一方、PT-RA155組換体とPT-Double組換体は若干泳動度の低下を示した。PT-tag (もしくはPT-RA271)とPT-RA155 (PT-Double)のみかけの分子量の違いは約4 kDa程度あった。この原因として、成熟過程での切断部位が異なるかどうかを発現産物のN末端アミノ酸配列を決定することで検討した。その結果、血漿中に分泌されたプロトロンビンのN末端アミノ酸配列はAla-Asn-でありプロトロンビンのそれとまったく同一配列であり、4変異体のシグナル配列領域の切断部位に変化はないことが判明した。従って、フラグメント1と2の間に変異を導入することにより変化した分子量は、糖鎖修飾などの成熟過程で生じたものと思われ、現在その原因を解析している。
発現後、回収したすべての組換え体についてエカリンによる活性化活性を有し、またトロンビン活性の指標であるBoc-VPR-pNA水解活性を有しており、変異体のプロテアーゼ活性は保たれていることを確認した。
本研究でクローニングしたプロトロンビン遺伝子はデータベースに報告されている配列と2塩基の置換が見られた。しかし、アミノ酸配列上はまったく変化がなく、SNP (single nucleotide polymorphism)であると思われる。変異体作製はアルギニン残基の置換にはグリシンとアラニンへの置換を試みたが、グリシン置換体を得ることは出来ず、アラニン置換体のみを得た。いずれの変異によっても、各ドメイン間が切断されなくなるため、アラニン置換体とグリシン置換体の間には本質的な差はないと思われる。
2. 変異導入プロトロンビンの発現
動物細胞で発現し、回収したプロトロンビンを電気泳動し、抗myc-tag抗体を利用した免疫染色法により、プロトロンビンの発現を確認したところ、COS-7細胞では培地を48時間おきに3回交換した時点でもまだプロトロンビンの発現がみられた。組換えプロトロンビン遺伝子の一過性発現においても、6日間連続して発現が見られたので、導入した遺伝子はかなり安定して細胞内で働いているものと思われる。また、一過性発現を用いた理由は、発現プラスミドに存在するSV40oriの高複製による発現量の増加を目的としたためである。
プロトロンビン組換体を発現した際に、PT-tag野生型とPT-RA271組換体は同じ泳動度を示した。一方、PT-RA155組換体とPT-Double組換体は若干泳動度の低下を示した。PT-tag (もしくはPT-RA271)とPT-RA155 (PT-Double)のみかけの分子量の違いは約4 kDa程度あった。この原因として、成熟過程での切断部位が異なるかどうかを発現産物のN末端アミノ酸配列を決定することで検討した。その結果、血漿中に分泌されたプロトロンビンのN末端アミノ酸配列はAla-Asn-でありプロトロンビンのそれとまったく同一配列であり、4変異体のシグナル配列領域の切断部位に変化はないことが判明した。従って、フラグメント1と2の間に変異を導入することにより変化した分子量は、糖鎖修飾などの成熟過程で生じたものと思われ、現在その原因を解析している。
発現後、回収したすべての組換え体についてエカリンによる活性化活性を有し、またトロンビン活性の指標であるBoc-VPR-pNA水解活性を有しており、変異体のプロテアーゼ活性は保たれていることを確認した。
結論
平成12年度の目標である、プロトロンビン遺伝子のクローニング、変異体作製及び動物細胞を利用した発現に成功し、変異プロトロンビンの作製と発現は完全に達成できた。また、変異体間において見られた分子量の変化については、これまでに見出されていない新知見であり、プロトロンビンの成熟過程の解明に非常に役立つものと考えている。平成13年度は研究計画である組換え体の大量発現とその精製を試みる予定であり、現在大量発現系を構築している。また、平成12年度で観察された分子量の差については、平成13年度に平行して詳細な検討を行なう予定である。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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