人工ポリクローナルFvグロブリン製剤の開発に関する研究

文献情報

文献番号
200000490A
報告書区分
総括
研究課題名
人工ポリクローナルFvグロブリン製剤の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 和男(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 新井孝夫(東京理科大学)
  • 大野尚仁(東京薬科大学)
  • 佐々木次雄(国立感染症研究所)
  • 内田隆史(東北大学)
  • 武曾恵理(京都大学)
  • 中田 光(国立国際医療センター研究所)
  • 田之倉優(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
28,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高度高齢社会に入り、生活習慣病に加えて、アレルギー、生体防御異常による自己免疫疾患の増加が懸念されている。自己免疫疾患は、神経系疾患、橋本病、糖尿病、自己免疫性肝炎、血管炎、肺胞症、シェーグレンなど様々な難病疾患としてあらわれる。これら疾患は、好中球やマクロファージを主体とした炎症性細胞の浸潤が組織に見られる一方、免疫複合体の形成による炎症性細胞の活性化が重篤化の方向に進展させる。治療には、免疫非特異的抑制としてステロイドなどが使用されている。新たな抗炎症薬の開発が強く望まれているなかで、ガンマグロブリン製剤治療の有効性が実証されていることから、ヨーロッパでは、好中球抗体MPO-ANCA関連血管炎の自己免疫疾患でもガンマグロブリン製剤が使用されはじめ好成績を得ている。これまで、MPOの特定のエピトープに結合したMPO-ANCAのみに病因性が高く、他のMPO部位に結合したものは病因性が弱いことが知られている。そこで、疾病特異的モノクローナル抗体治療を目的として、ScFv抗体を使った人工合成免疫グロブリン製剤を開発することを目的とした。我々が作成したMPOノックアウトマウスにMPOを免疫し、そのマウスのB細胞および抗自己抗体モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ細胞のmRNAをもとに可溶性ScFvを得る。本方法によりScFvを大量にしかも品質を一定にして調整することが可能となる。本年度は、ScFv用のcDNAライブラリーを作成し、病因特異的なマウスモノクローナル抗体を作製とエピトープ部位の立体構造を解析することにした。また、治療実験には、モデルマウスを使用することから、モデルマウスを作成し、臨床では、ガンマグロブリンの治療マーカとしての好中球機能と特定することにした。さらに、NPO-ANCA以外の自己免疫疾患として注目されているGM-CSFについても検討することを目的とした。
研究方法
1)リコンビナントマウスMPOを作成し、それをMPOノックアウトマウスに投与し、脾臓からB細胞を得、ハイブリドーマを作成してモノクロナール抗体を得た。また、そのB細胞からRNAを調製し、ファージに導入しcDNAライブラリーを作成した。また、分子構造解析から、エピトープ部位の立体構造を解析する。2)各種MPO-ANCA産生のマウスを作成した。真菌成分を調製し、冠状動脈炎を発症する成分を精製した。3)免疫グロブリン治療、非治療での腎炎患者の好中球機能を解析した。
結果と考察
1)抗体作成班:ScFv抗体作製技術の検討した後、マウスMPO抗体のcDNAライブラリーを作製して、人工合成抗体ScFvの作成の準備は完了した。一方、MPO-ANCA自己免疫疾患治療に有効な抗体作製についても検討した。MPOノックアウトマウスおよび野生のマウスC57BL/6マウスに、MPOで免疫したB細胞を材料とし抗MPOモノクローナル抗体を作製した。この様に、われわれが作成したMPOノックアウトマウスを利用した新たな研究の展開と簡便な治療効果を検討する準備が整った。ScFv やmAbを臨床に適用する際の国際的規制(WHO, FDA, ICH, CPMP)内容も整理した。さらに、抗体と反応するMPO部位の立体構造を解析した。MPO分子の立体構造上の特徴とMPOフラグメントのリスクの実験結果と比較し、MPOのMPO-ANCA結合部位はMPOの活性部位周辺で、MPO-ANCAがMPOの活性部位を覆うようにして結合する可能性が高いと結論した。2)臨床研究・モデル動物作成班:治療検討を目的としてモデル動物を作成検討した。まず、Candida albicans‐derived substances (CADS)誘導の血管炎を
つくるモデルマウスにMPO欠損遺伝子を導入し、CADS誘導の冠状動脈血管炎発症に伴う血中MPO-ANCA値の上昇は、MPO-KOマウスでは野生型マウスに比べ低下し、血管炎の頻度も低下した。これらの結果から、CADS誘導によるMPO-ANCA関連血管炎は、MPOが主因となっていることが明らかにした。さらに、自己抗体を誘導する真菌由来糖構造解析を行い、C. albicansから得たCADSおよびCaNaClO画分、CAWSのいずれの画分でも高頻度に心冠状動脈などの血管炎が認められた。これらのことから、自己抗体産生血管炎誘発には誘導物質と宿主応答性の両面が必要であることが示唆された。一方、臨床班では、自己抗体産生とガンマグロブリン製剤の有効な症例について、好中球機能を検討した。腎炎患者では好中球からのMPO 放出能は炎症性反応の程度に応じて高値を示し、組織活動性と相関した。活性酸素産生は重篤な活動型病変発症例では低下する結果が得られ、治療指標として利用できる可能性を示した。一方、他の自己免疫疾患として発見したGM-CSF自己抗体誘導の特発性肺胞蛋白症において、ガンマグロブリン製剤の有効性を検討する疾患の基礎研究を行った。抗体と競合実験を行った結果、アミノ末端より78番目から96番目までを認識する抗体に有効性が認められた。この様に、臨床面では、自己免疫性血管炎の治療への免疫グロブリン療法を検討し、良好な成績が得られているので、今後は、最終的目標のMPOの多様なエピトープに対応する各種ScFv抗体を作成し、動物モデルにて治療実験を開始する。
結論
疾患特異的な人工化免疫グロブリン製剤としてのScFv抗体開発することを本研究の目的とし、2班に分けて研究した。抗体作成班では、ScFv抗体作製技術の検討とマウスMPO抗体のcDNAライブラリーを作製できた。MPOノックアウトマウスのB細胞から抗MPOモノクローナル抗体を作製し、MPO-ANCA自己免疫疾患治療に有効な抗体作製を検討した。さらに、病因にかかわる抗体抗原反応は3次構造解析により抗体と反応するMPO部位の立体構造を解析した。一方、臨床研究・モデル動物作成班ではMPO欠損遺伝子マウスで自己抗体性血管炎モデルマウスに自己抗体産生がキーとなっていることを示した。臨床面では、免疫グロブリン製剤の有効性を検討し、良好な成績が得られるなど、初年度の研究目標は予定以上に達成できた。

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