臨床応用に向けた抗 HCV ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000488A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用に向けた抗 HCV ヒト型抗体の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
松浦 善治(大阪大学微生物病研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 森石恆司(大阪大学微生物病研究所)
  • 鈴木哲朗
  • 宮村達男(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
104,582,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
C型肝炎ウイルス(HCV) は輸血後感染症の最も大きな問題であったが、高感度抗体検出系の開発によりその感染者は激減した。しかしながら、我が国には二百万人以上もの HCV のキャリヤーが存在すると推定され、HCV 感染と肝癌発症の相関も血清学的に証明されている。HCV を増殖できる細胞培養系が存在しないため、これまでのウイルス感染症で用いられてきた感染の中和やウイルスの排除を担う液性及び細胞性免疫反応の解析は進んでいない。我々はこれまでに慢性C型肝炎からの自然治癒例に HCV の二つのエンベロープ蛋白(E1 と E2)のうちの E2 蛋白が細胞表面の CD81 分子に結合するのを阻止できる抗体(NOB 抗体)が高率に出現することを見出した。この成績を基にしてファージディスプレー法を用いて、また、ヒト型抗体を産生できるトランスジェニックマウスを組換えエンベロープ蛋白で免疫し、HCV のエンベロープ蛋白の細胞融合活性を阻害できるヒト型抗体を取得し、そのin vitro および in vivo での性状を解析し、将来の治療用抗体としての可能性を検討することを目的とした。また、ワクチンの国際的な開発状況を把握するため、各国への電話及びメールによるヒアリング調査を実施し、対HCV措置に対する包括的・総合的な考察を試みる。この様な調査によってC型肝炎に関する諸外国の現状を明示することは、日本における対C型肝炎感染・及び感染者政策及び研究を推進させるものであると考えられる。
研究方法
1) ヒト型抗体の作製:高い結合阻止抗体価を示し、慢性C型肝炎から自然治癒された方の末梢リンパ球から組換え抗体のライブラリーを作製した。その中から結合阻止活性を指標にして高い活性を示すものを選別した。また、ヒト抗体を作製できるトランスジェニックマウスを HCV のエンベロープ蛋白を発現させた細胞の膜画分を抗原として免疫して、HCV のエンベロープ蛋白に対するヒト型抗体を作製した。得られた抗体が認識しているエピトープを各種組換え抗原を用いて同定する。2) ヒト型抗体の大量生産とin vivo での活性評価へ向けた検討:ヒト型抗HCVエンベロープ抗体をHCV に持続感染しているチンパンジーに投与し、その抗ウイルス活性を検討できるよう、抗体の大量培養と精製、さらに動物実験のプロトコールを作製する。3) 諸外国における肝炎対策の状況調査:諸外国において行われている肝炎治療薬の開発状況等の肝炎対策を調査し、本研究で進めているヒト型抗 HCV 抗体の活用方法について検討を行う。
結果と考察
慢性C型肝炎から自然治癒された方からインフォームドコンセントを得た後、末梢リンパ球を採取して NOB 活性を示す単鎖抗体を得た。これをもとに完全なヒト抗体を構築した。この抗体は NOB 活性だけでなく、細胞融合活性を中和した。ヒト抗体を作るトランスジェニックマウスを HCV のエンベロープ蛋白を発現させた細胞膜画分を抗原として免疫し、中和活性を保持したHCV のエンベロープ蛋白に対するヒト型抗体の作製を試みた。その結果、 E1 に対する抗体が 6 種、E2 に対する抗体が 3 種得られた。いずれの抗体も NOB 活性およびシュードタイプウイルスの中和活性を示さなかったが、いくつかの抗体は HCV のエンベロープ蛋白による細胞融合を中和した。これらの抗体のエピトープをマッピングしたところ、リニヤーエピトープを認識するのものが4クローン、コンフォメーショナルなエピトープを認識するものが6クローンであった。HCVに唯一感受性を示す実験動物はワシントン条約で保護されているチンパンジーしかいないため、実験には細心の注意が必要
となる。ヒトの第一相試験レベルの抗体を準備できれば理想であるが、そのような精度の抗体をチンパンジーの投与量(1 - 3g)作製すると1クローンあたり数千万円必要であることから、現実的なレベルな抗体の生産法を検討する必要があり、委託先と検討を進めている。ワクチンの国際的な開発状況、ワクチンの開発状況と各国の現場における普及状況、及びHCV感染者に対する医療措置・行政措置・医療に関わる行政措置の現状、三点を包括的に把握し、今後のHCV感染への医療、行政措置に対する提言を行うべく実施した。他国同様、日本において感染率が最も高いとされている集団は、未処理の輸血感染者である。1989年にHCVが同定されて以降、医療分野において HCVに対する検査方法や治療方法は精緻化の方向にあり、日本の対血液政策及び医学的予防対策は他国と比肩する。しかし、我が国の輸血での感染に対して行政措置は、国に対する訴訟例がほぼないことから、見舞金、補償など既感染者に対する財政措置は行われていない。また予防対策として医学的対策のほか行政措置が求められるが、国単位のキャンペーン実施、HCV感染防止のためのHCV検査の拡大化・一般化、HCV知識の普及活動、ドナーの登録制度の強化等、対人行政措置においては、他国に比べて遅れている。今後の行政措置として、自覚症状のない患者をも目標に据えた措置が求められる。各国それぞれ様々な面からの措置が行われているが、1999年から2000年にかけてのワクチンの開発により、さらに多方面にわたる対策とHCV啓発活動が求められる。
結論
1) HCV のエンベロープ蛋白を認識するヒト型抗体10クローンを得た。2) これらの抗体はHCV のエンベロープ蛋白による細胞融合を中和した。3) 抗体の認識部位を決定した。4) 動物実験の準備を開始した。5) 諸外国における肝炎対策の状況調査した。

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