文献情報
文献番号
200000486A
報告書区分
総括
研究課題名
臨床応用可能な人工赤血球の創製に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
土田 英俊(早稲田大学大学院 理工学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 池田久實(北海道赤十字血液センター)
- 小林紘一(慶應義塾大学医学部)
- 末松 誠(慶應義塾大学医学部)
- 高折 益彦(岡山県赤十字血液センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 高度先端医療研究事業(人工血液開発研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
55,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、第1期厚生科研の成果を基礎として、体内への必要充分量の酸素運搬と高い安全度を有する、臨床応用可能な人工赤血球の創製を目標とする。平成12年度ではヘモグロビン(Hb)小胞体 と 全合成系のリコンビナントアルブミン-ヘム(rHSA-FeP)複合体を対象に、製造方法、物性測定、in vitro、in vivo 評価を行い、必要に応じた改良を行いながら、充分量の酸素を安全に体内組織に輸送できる、人工赤血球を創製する。
研究方法
新しい脂質処理法として、混合脂質粉末を水和後、凍結融解を繰り返し、最後に凍結乾燥粉末とした。これにHb溶液を混合後、Extrusion法における膜透過性を評価した。/グルタミン酸を出発物質として新規負電荷脂質を合成。この混合脂質粉末よりHb小胞体を調製した。/同様にグルタミン酸から新規PEG脂質を合成し小胞体表面を修飾、小胞体凝集抑制効果を検討した。 / フラビンモノヌクレオチド溶液を含むメト化したHb小胞体に可視光照射し、光還元を試みた。 /ヒト血清とHb小胞体の混合液、また超遠心分離後の上清液を回収して血液生化学検査を行った。/rHSA-FePのNO錯体の配位構造とNO結合パラメータを決定した。/ポルフィリン誘導体8種を合成し、rHSAに包接させて配位子結合パラメータを測定した。/血小板とHb小胞体を混合後のRANTESレベルとp-selectinの発現率を測定した。/補体活性化の指標としてTerminal Complement Complexを測定した。/ヒト血清をHbVと混和し、遠心上清のSC5b-9レベルを測定した。/血漿とHb小胞体を混合し、血液凝固時間を測定した。/Hb溶液にvirusを添加。加熱処理(60℃)を行い、感染価を求めた。また、ジメチルメチレンブルーを添加し、発光ダイオード照射によるvirus光不活化を行った。/ラットにHb小胞体を投与、2週間の組織病理学的検討を行った。/ラット胸壁に窓枠を固定し、肺微小循環を観察した。Hb小胞体を静注し、心拍数や細小肺動脈径を計測した。/ ラットにrHSA-FePを静注し、血圧と心拍数を測定した。 /Ascites hepatoma LY80をラット大腿に移植し、総腸骨動脈分岐部から人工赤血球を動注、腫瘍酸素分圧を測定した。/ラットに内毒素を腹腔内投与、分離灌流肝モデル門脈からHb小胞体を灌流した。HbやmetHbの捕捉分解を胆汁中ビリルビンとして定量、HO-1, iNOSの発現を確認した。/各分担研究者の研究計画の有効性を検討し、追加検討すべき項目を指摘した。/将来的に臨床治験の可能性のある全国の研究機関に調査表を配布。訪問して研究進捗状況を説明した。/諸外国の臨床プロトコールを参考に独自の臨床治験計画を作成した。
結果と考察
Hb小胞体の効率高い製造法として、前調製した小胞体の凍結乾燥粉末を用いて造粒の所要時間を飛躍的に短縮できた。多段式造粒装置を試作、数十 LのHb小胞体を短時間で収率高く処理できる目途が立った。/Hb小胞体の構成成分である負電荷リン脂質を簡便で高収率に合成できるカルボン酸型脂質に代替し、従来と同等の物性を有するHb小胞体が得られた。しかも血小板凝集や白血球活性化を全く認めない。/Hb小胞体の表面修飾剤であったリン脂質結合型PEG脂質を、安価に量合成できるグルタミン酸結合型PEG脂質で代替した。従来と同等の凝集抑制能が確認された。/メトHbを酸化型フラビンの利用で可視光照射により高い量子収率で行える条件を見出した。更にメト化したHb小胞体の酸素配位機能を復元できた。/血清中に混在するHb小胞体の濁度や吸収が血液生化学検査の測定誤差の原因となる。測定前の超遠心分離操作により
、殆ど全ての測定項目で阻害作用を解消できた。/rHSA-FeP複合体の6配位ニトロシル錯体形成を確認した。NO親和性はHbより9倍高いが、血管収縮作用は無い。/rHSA-FeP複合体の酸素錯体寿命の延長を検討。軸塩基としてヒスチジン、酸素配位座近傍の置換基としてシクロヘキサノイル基を導入しすることで半減期が従来の12倍も長くなった。/Hb小胞体の負電荷脂質成分を改良したDPEA-HbVは、血小板との混合率が増えるに従い、RANTESの自発的放出量が減少した。コラーゲン刺激によるRANTES放出にはDPEA-HbVの影響はみられなかった。補体に関しては、コントロールに比べ2-10倍程度のSC5b-9複合体形成がみられた。またプロトロンビン時間は混合比率が上昇するにつれ遅延する傾向がみられ、生理的食塩水の場合と相違は無かった。DPEA-HbVは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)においてコントロールと同程度の遅延をもたらした。しかし、DPPG-HbVは凝固を促進しAPTTを短縮した。/ウイルス不活化処理としてCO雰囲気下Hb溶液を加熱処理(60℃、1時間)した。 メトHb含量を増大させることなくVSVは5.8 log10以上不活化された。/ジメチルメチレンブルーを用いたHb溶液のウイルス光不活化処理では、VSVが3.3log10、HIVは3.7 log10不活化された。/Hb小胞体投与1日後の肝・脾の電顕写真から、貪食細胞の食胞内に小胞体構造が認められたが、1週間後には完全に消失。また遊離鉄や脂質沈着が1週間後に僅かに認められたが、2週間後には完全に消失、構成成分は速やかに代謝される。/ラット肺微小循環への影響をレーザー共焦点顕微鏡にて観測、Hb小胞体の投与では肺循環に明らかな変化を惹起しない。/rHSA-FeP複合体のNO親和性はHbより9倍高いが、ラットに静注しても、血圧と心拍数の変化は無かった。Hbと比較して等電点が負に大きいアルブミンの低い血管壁透過性に拠る。/ラット移植腫瘍モデルに、人工酸素運搬体を投与すると、腫瘍内酸素分圧の上昇が認められた。各種がん治療の抗腫瘍効果増強に応用できる可能性がある。/肝臓は人工赤血球の主要な代謝臓器である。生体内の主要なヘム分解系であるheme oxygenaseは肝臓に豊富に存在する酵素であり本来メト化したHbの代謝に適した臓器デザインが明らかになった。ショック病態では本酵素がストレス応答の結果誘導されるため非細胞型Hbの投与は内因性COを消去しビリルビンの過剰生成と胆汁分泌機能の低下が招来した。他方、細胞型Hb小胞体にはこのような作用を認めず、高い安全性が支持された。/研究班会議において、各分担研究者の研究計画を聴取、検討し、具体的な実施案の提言を行った。また全国関係施設への研究参加の可能性を検討した。さらにまた実施可能な治験計画案の作製を実施した。
、殆ど全ての測定項目で阻害作用を解消できた。/rHSA-FeP複合体の6配位ニトロシル錯体形成を確認した。NO親和性はHbより9倍高いが、血管収縮作用は無い。/rHSA-FeP複合体の酸素錯体寿命の延長を検討。軸塩基としてヒスチジン、酸素配位座近傍の置換基としてシクロヘキサノイル基を導入しすることで半減期が従来の12倍も長くなった。/Hb小胞体の負電荷脂質成分を改良したDPEA-HbVは、血小板との混合率が増えるに従い、RANTESの自発的放出量が減少した。コラーゲン刺激によるRANTES放出にはDPEA-HbVの影響はみられなかった。補体に関しては、コントロールに比べ2-10倍程度のSC5b-9複合体形成がみられた。またプロトロンビン時間は混合比率が上昇するにつれ遅延する傾向がみられ、生理的食塩水の場合と相違は無かった。DPEA-HbVは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)においてコントロールと同程度の遅延をもたらした。しかし、DPPG-HbVは凝固を促進しAPTTを短縮した。/ウイルス不活化処理としてCO雰囲気下Hb溶液を加熱処理(60℃、1時間)した。 メトHb含量を増大させることなくVSVは5.8 log10以上不活化された。/ジメチルメチレンブルーを用いたHb溶液のウイルス光不活化処理では、VSVが3.3log10、HIVは3.7 log10不活化された。/Hb小胞体投与1日後の肝・脾の電顕写真から、貪食細胞の食胞内に小胞体構造が認められたが、1週間後には完全に消失。また遊離鉄や脂質沈着が1週間後に僅かに認められたが、2週間後には完全に消失、構成成分は速やかに代謝される。/ラット肺微小循環への影響をレーザー共焦点顕微鏡にて観測、Hb小胞体の投与では肺循環に明らかな変化を惹起しない。/rHSA-FeP複合体のNO親和性はHbより9倍高いが、ラットに静注しても、血圧と心拍数の変化は無かった。Hbと比較して等電点が負に大きいアルブミンの低い血管壁透過性に拠る。/ラット移植腫瘍モデルに、人工酸素運搬体を投与すると、腫瘍内酸素分圧の上昇が認められた。各種がん治療の抗腫瘍効果増強に応用できる可能性がある。/肝臓は人工赤血球の主要な代謝臓器である。生体内の主要なヘム分解系であるheme oxygenaseは肝臓に豊富に存在する酵素であり本来メト化したHbの代謝に適した臓器デザインが明らかになった。ショック病態では本酵素がストレス応答の結果誘導されるため非細胞型Hbの投与は内因性COを消去しビリルビンの過剰生成と胆汁分泌機能の低下が招来した。他方、細胞型Hb小胞体にはこのような作用を認めず、高い安全性が支持された。/研究班会議において、各分担研究者の研究計画を聴取、検討し、具体的な実施案の提言を行った。また全国関係施設への研究参加の可能性を検討した。さらにまた実施可能な治験計画案の作製を実施した。
結論
細胞型のHb小胞体に関しては、原料Hbの効率高いウィルス不活化と小胞体造粒法の確立、安価な合成脂質への代替が可能となった。また、in vivo, in vitro試験からHb小胞体の血液適合性、代謝過程、微小循環動態の詳細研究から安全度が確認できた。他方、全合成のアルブミン-ヘム複合体・関しては、血圧亢進が起らない特徴が明らかとなり、分子設計と精密合成から酸素錯体寿命の更なる延長ができた。腫瘍組織酸素化に人工赤血球が有効であることも明らかになるなど、人工赤血球の新たな適用例の開発もできた。 量産工程の効率を更に向上させ、得られる試料の効力と安全度の確認を実施し、臨床試験プロトコール並びに各種ガイドラインを完成させて、臨床試験への円滑な移行を期待する。
公開日・更新日
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