精神・神経・筋疾患に対する画期的な治療法に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000460A
報告書区分
総括
研究課題名
精神・神経・筋疾患に対する画期的な治療法に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
田中 惠子(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中正美(国立療養所西新潟中央病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
-
研究終了予定年度
-
研究費
5,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
傍腫瘍性神経症候群とは、担癌患者に特徴的な神経症候と特異的な抗神経抗体が認められる一群である。神経症候と抗体出現が癌の発見に先立つことが多く、また癌と神経症候および抗体の種類との間に一定の傾向があることから、抗体は癌早期発見のマーカーとして極めて優れている。各病型に特異的な抗体を検出することにより一定の癌に焦点を絞って検索ができるため、結果として癌の早期発見、治療が可能となる。特異的な抗神経抗体の診断のため、申請者はこれまで頻度の高い一部の病型に対応するリコンビナント蛋白抗原を作成し、抗体診断を行ってきたが、本研究ではさらに他の病型を診断するため、それぞれに特異的なリコンビナント抗原蛋白を作成し、より多くの病型を含めた特異的診断システムを確立する。
一方、本症の神経傷害は進行性・難治性であり、腫瘍の治療と並行して神経傷害に対する治療が必要である。この場合の神経障害は我々のこれまでの研究により細胞傷害性T細胞 (CTL) が関与する機序が考えられる。神経細胞内の抗原蛋白はペプチドとしてMHC分子上に呈示され、T細胞受容体(TCR)に認識される。ペプチドワクチン療法は病因と深く関連するペプチドをワクチンとして用いることで、疾患特異的な治療法としての期待が高い。CTLが病因に関わる動物モデルでは、MHC分子上に呈示され、TCRが結合するペプチドのアミノ酸を置換することで発症を抑制できるが、実際の患者では抗原エピトープが不明であることが多い。本研究では本症患者のHLAを解析し、HLAに結合しうる候補ペプチドをreverse immunogenetics法によりスクリーニングし、その発症への関与を動物モデルでの再現で確認した上でアミノ酸を置換したアナログペプチドでの発症抑制を試みる。
研究方法
従来からの免疫組織化学、ウェスタンブロット,リコンビナント蛋白を用いた抗Yo/Hu抗体の特異的診断を継続するとともに、あらたにRi抗原およびMa抗原について、報告された塩基配列からcDNA断片をプラスミドベクターに組み込んで大腸菌にトランスフォーム後、リコンビナント蛋白を作成し、抗体認識部位を含む抗原を精製する。ペプチドワクチン療法に向けての病因ペプチド同定については、本症患者のHLAをNIH lymphocyte microcytotoxicity法で解析し、各病型に共通のHLA 型を明らかにする。これらのHLA classI分子上に提示されうるペプチドをYoおよびHu抗原のアミノ酸配列から求め、複数のペプチドを合成して、本症患者リンパ球をそれぞれのペプチドで刺激し、同一のclass I分子を発現する本人の線維芽細胞を同ペプチドでパルスした後、感作リンパ球の標的になりうるかを51Cr放出試験により確認し、CTLを誘導する候補ペプチドを同定する。
結果と考察
これまでYoおよびHu抗原のリコンビナント蛋白を作成して診断に寄与してきたが、本研究でYo/Huに次いで頻度が高いと考えられるRiおよびMa抗原のリコンビナント蛋白を新たに作成した。これにより全国諸施設から診断のために寄せられる検体について、より多くの病型で特異的抗体診断が可能になり、背景癌の的確な早期診断および治療に寄与することとなった。しかしながらさらに新たな抗原分子が標的となる未知の病型がまだ多数存在する可能性が考えられ、これまで集積した患者検体のウェスタンブロットおよび免疫組織化学の結果に詳細な解析を加えることで、新たな抗原分子の同定が必要と考えられる。一方、本症の神経傷害の早期病巣形成にはCTLの関与が考えられる.抗原特異的な治療法を開発するために、ペプチドレベルでの特異的抗原分子の同定、当該ペプチドの病因への関与の証明、効率的な治療導入方法など様々な基礎的研究の積み重ねが必要である。これまで抗Yoおよび抗Hu抗体陽性患者のHLAにもとづき、A24分子上に提示されうるペプチドの一部を明らかにし、患者末梢血リンパ球がこれらのペプチドと反応して細胞傷害性T細胞活性を示すことを明らかにしている。本研究では、さらに多数のペプチドについて病因候補ペプチドとしての可能性をスクリーニングした。この結果、Yo抗体陽性例ではA*2402のみではなくB27 supertypeを有する例でも共通のペプチドに反応すること、これまで共通のHLAが見出されていなかったHu抗体陽性例にも共通のペプチドモチーフを有するHLA supertypeが存在し、共通に反応する候補ペプチドがあることが明らかになった。次いでペプチドモチーフが同一のマウスにCTL活性の高いペプチドで刺激した樹状細胞を移植し、マウスのリンパ球を採取し、細胞傷害能を有するT細胞クローンの樹立を行っている。 今後このクローンによる動物モデルを作製し、本症発症機序の解析を目指し、さらにin vitroでこのT細胞の反応性を抑制しうるアナログペプチドをスクリーニングし、治療に応用できるペプチドを同定することが必要である。
結論
傍腫瘍性神経症候群に特異的な抗体を検出することで腫瘍および神経傷害の早期治療を行うために、これまで特異的診断が
可能であった抗Yo抗体陽性亜急性小脳変性症、抗Hu抗体陽性感覚性ニューロパチー/辺縁系脳炎に加えて、同様の小脳失調を生じる一群の抗原となるRi蛋白、Ma蛋白のリコンビナント蛋白を作製して診断範囲を広げることができた。一方、本症の神経傷害は我々のこれまでの研究により細胞傷害性T細胞 (CTL) が関与する機序が考えられことから、標的として認識される抗原ペプチドを明らかにすることは、ペプチドワクチン療法への道を開くものと考えられ、疾患特異的な治療を可能にするものである。本研究では本症患者のHLAを解析し、HLAに結合しうる候補ペプチドをスクリーニングし、候補ペプチドで患者リンパ球を刺激して自己細胞への傷害活性を調べることにより、候補ペプチドの免疫原性を解析した。その結果、HLA A*2402に提示されうるペプチドがB27 supertypeにも共通に存在して標的となること、これまで共通のHLAがないとされていたHu抗体陽性例でもB7 supertypeのなかで共有するペプチドに反応するCTL活性を見出した。今後これらのペプチドの神経組織における標的としての可能性について動物モデルを作成して検討を行うとともに、T細胞の反応性を抑制しうるアナログペプチドを明らかにして、治療法開発への検討を行う。

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