文献情報
文献番号
200000453A
報告書区分
総括
研究課題名
中枢神経損傷後の機能回復機構の解明、治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
杉本 壽(大阪大学)
研究分担者(所属機関)
- 嶋津岳士(大阪大学)
- 田中裕(大阪大学)
- 鍬方 安行(大阪大学)
- 塩崎忠彦(大阪大学)
- 速形 俊昭(大阪大学)
- 種子田護(近畿大学)
- 吉峰 俊樹(大阪大学)
- 西川 隆(大阪大学)
- 玉谷 実智夫(大阪大学)
- 喜多村 祐里(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、受傷から社会復帰までを見通した総合的な視点に立って重症頭部外傷の治療法を開発することである。『重症頭部外傷患者の長期追跡による脳機能回復機構の解明と機能回復を積極的に促進する慢性期治療法の開発』をメインテーマにして、以下の研究を行なった。臨床研究では、1.長期植物状態からの回復時期の解明:植物状態を呈している重症頭部外傷患者の長期予後追跡調査と、キセノンCTを用いた脳血流量の評価。2.長期植物状態からの回復予知法の開発:近赤外光トポグラフィーを用いた中枢神経系機能と血流動態の解析。3.意識回復例での高次脳神経機能の解析。4.外傷後遅発性進行性脳萎縮(delayed neuronal loss)の機序の解明。5.急性彌慢性脳腫脹の発生機序の解明と治療法開発。基礎研究では、1.動物ならびに培養細胞を用いた脳損傷モデルにおける神経損傷と修復機序の解明:①瀰慢性脳損傷モデルにおける脳由来神経栄養因子(BDNF)の投与効果。②小胞体ストレス蛋白150kDa oxygen regulated protein (ORP150)の機能解析。③二次的脳損傷におけるmicrogliaの役割。2.急性彌慢性脳腫脹動物モデルの開発。
研究方法
臨床研究では、1.長期植物状態からの回復時期の解明:受傷後1ヶ月の時点で植物状態を呈している重症頭部外傷患者21例の長期予後追跡調査をprospectiveに行い、長期植物状態からの自然回復過程を明らかにした。さらに6例に、キセノンCT法を用いて受傷から6週間後まで脳血流量を各週ごとに測定した。2.長期植物状態からの回復予知法の研究:中枢神経系損傷患者を対象とし、近赤外光トポグラフィーを用いた脳機能の可視化を行った。近赤外光トポグラフィーの測定には、日立メデイコ社製光トポ脳機能計測装置ETG-100を用いた。3.意識回復例での高次脳神経機能の解析:頭部外傷患者9例を対象とした。各患者に一般的な神経心理検査、認知機能の評価としてMMSE、言語機能の評価としてSLTA、記銘力の評価としてWMS-R、前頭葉機能の評価としてRCPM、WCST、go-no go test、行為の評価として信号動作、パントマイム、手指命名を行った。4.外傷後遅発性進行性脳萎縮の機序の解明:1998年2月から2000年1月の2年間にわたって行われた多施設研究(平成10・11年度脳科学研究事業)にエントリーした91例(34℃群45例と37℃群46例)を対象として、受傷後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月、可能なら18ヶ月と24ヶ月後に追跡調査し、患者の回復度合いの確認と頭部CT検査を施行した。基礎研究では、1.瀰慢性脳損傷モデルにおける行動異常とBDNF投与効果に関する研究:瀰慢性脳損傷モデルを作成した。同モデルを用い、直径1mの円形フィールド中央にラットを放置した後の90秒間について自発行動、探索行動をモノクロCDカメラで記録、解析した。さらにBDNFの脳室内投与の効果について検討した。2. 小胞体ストレスタンパクORP150と虚血性神経細胞死との関係についての研究:低酸素時に特異的に誘導されるORP150を脳特異的に強制発現させたトランスジェニックマウスを作製し、野生型マウスと脳梗塞での神経細胞障害を比較した。3.脳血管の破綻に伴う二次的脳損傷におけるmicrogliaの役割について:マウス鋭的脳損傷モデルを用い、損傷脳のprotease mRNAの発現および活性を測定した。また、PAI-1遺伝子欠損マウスを作成し、脳損傷の程度を評価した。さらにmicroglia細胞の各種刺激に対するprotease, iNOS, COX-2 mRNAの発現を検討した。
結果と考察
1.21例で追跡調査を行い、14例(67%)で意識が平均4.1±
2.8ヶ月で回復した。しかし、Moderate Disability(MD)以上のレベルに改善したのは2例(14%)であり、意識回復後もADL(日常生活動作)は障害されていた。認知能力のうち、摂食に関しては14例中6例(43%)が自分で食事できる程度にまで回復していたが、排泄に関しては2例(14%)、整容動作も2例(14%)しか自分で出来るレベルには回復していなかった。この結果から、摂食に関する能力は意識回復とともに比較的早期に回復するが、排泄及び整容動作に関する能力は回復が困難であることが判明した。意識回復と年齢との関係では、若年者で意識回復の頻度が高い傾向を認めた。キセノンCT法を用いて受傷から6週間後まで脳血流量を各週ごとに6例で測定した。その結果、重症頭部外傷患者では、頭部外傷の重症度が高いほど、脳血流量が低下しており、しかも低下した脳血流量がさらに経日的に減少する症例が存在することが判明した。また高次脳機能障害を来した症例では、脳血流量が低下している傾向を示し、脳血流量の低下が高次脳機能障害に関係することが示唆された。2.疼痛刺激、正中神経刺激、光刺激、等の多様な刺激入力に対する脳血液量の変化を光トポグラフィーを用いて計測する方法を確立し、実際の測定を開始した。その結果、機能障害と脳循環の自動調節機能の破綻との関係が示唆され、脳機能障害の予後診断法として、近赤外光トポグラフィーは有用であると考えられた。3.意識回復例の高次脳神経機能を検討した結果、現段階では明瞭な傾向を抽出するには至っていない。今回の症例群では左半球損傷が多く、機能面では言語性の記憶障害が多い傾向であった。今後症例を蓄積し頭部外傷後の脳機能障害の傾向や、追跡調査による回復過程の探索の必要性が示唆された。4. 遅発性進行性脳萎縮の機序には、中等度脳低温療法によって頭蓋内の温度を34℃に冷却したことではなく、中等度脳低温療法を併用しなければコントロールできない程の高い頭蓋内圧がその発生に強く関与していると考えられた。1. 瀰慢性脳損傷モデルにおけるBDNF投与効果では、脳室内にBDNFを持続投与することにより動物の行動性が活発となることが定量的に確認された。今後の臨床応用に向けて、投与時期、投与量、安全性など検討を加える必要がある。2.小胞体に局在するORP150が虚血耐性にとってのkey factorであることがわかった。今後小胞体とミトコンドリアのクロストーク、特に小胞体ストレスによる細胞死にミトコンドリアの機能変化が如何に関わっているかを明らかにすることが重要と思われる。3.外傷性脳損傷後の脳内微小血管の破綻に伴う脳浮腫の増強,遅発性脳出血などの二次的脳損傷にproteaseであるuPAやmicroglia由来のMMP-9が関与することが明らかとなった。
2.8ヶ月で回復した。しかし、Moderate Disability(MD)以上のレベルに改善したのは2例(14%)であり、意識回復後もADL(日常生活動作)は障害されていた。認知能力のうち、摂食に関しては14例中6例(43%)が自分で食事できる程度にまで回復していたが、排泄に関しては2例(14%)、整容動作も2例(14%)しか自分で出来るレベルには回復していなかった。この結果から、摂食に関する能力は意識回復とともに比較的早期に回復するが、排泄及び整容動作に関する能力は回復が困難であることが判明した。意識回復と年齢との関係では、若年者で意識回復の頻度が高い傾向を認めた。キセノンCT法を用いて受傷から6週間後まで脳血流量を各週ごとに6例で測定した。その結果、重症頭部外傷患者では、頭部外傷の重症度が高いほど、脳血流量が低下しており、しかも低下した脳血流量がさらに経日的に減少する症例が存在することが判明した。また高次脳機能障害を来した症例では、脳血流量が低下している傾向を示し、脳血流量の低下が高次脳機能障害に関係することが示唆された。2.疼痛刺激、正中神経刺激、光刺激、等の多様な刺激入力に対する脳血液量の変化を光トポグラフィーを用いて計測する方法を確立し、実際の測定を開始した。その結果、機能障害と脳循環の自動調節機能の破綻との関係が示唆され、脳機能障害の予後診断法として、近赤外光トポグラフィーは有用であると考えられた。3.意識回復例の高次脳神経機能を検討した結果、現段階では明瞭な傾向を抽出するには至っていない。今回の症例群では左半球損傷が多く、機能面では言語性の記憶障害が多い傾向であった。今後症例を蓄積し頭部外傷後の脳機能障害の傾向や、追跡調査による回復過程の探索の必要性が示唆された。4. 遅発性進行性脳萎縮の機序には、中等度脳低温療法によって頭蓋内の温度を34℃に冷却したことではなく、中等度脳低温療法を併用しなければコントロールできない程の高い頭蓋内圧がその発生に強く関与していると考えられた。1. 瀰慢性脳損傷モデルにおけるBDNF投与効果では、脳室内にBDNFを持続投与することにより動物の行動性が活発となることが定量的に確認された。今後の臨床応用に向けて、投与時期、投与量、安全性など検討を加える必要がある。2.小胞体に局在するORP150が虚血耐性にとってのkey factorであることがわかった。今後小胞体とミトコンドリアのクロストーク、特に小胞体ストレスによる細胞死にミトコンドリアの機能変化が如何に関わっているかを明らかにすることが重要と思われる。3.外傷性脳損傷後の脳内微小血管の破綻に伴う脳浮腫の増強,遅発性脳出血などの二次的脳損傷にproteaseであるuPAやmicroglia由来のMMP-9が関与することが明らかとなった。
結論
重症頭部外傷患者の長期追跡による脳機能回復機構の解明と、機能回復を積極的に促進する慢性期治療法の開発』をメインテーマにして、以下の研究を行なった。臨床研究では、長期植物状態からの回復時期の解明を目的に、植物状態を呈している重症頭部外傷患者の長期予後追跡調査と、キセノンCTを用いた脳血流量の評価を行った。その結果、全体の67%で意識が平均4.1±2.8ヶ月で回復した。MD以上のレベルに改善したのは2例(14%)であり、意識回復後もADL(日常生活動作)は障害されていた。認知能力のうち、摂食に関する能力は意識回復とともに比較的早期に回復するが、排泄及び整容動作に関する能力は回復が困難であることが判明した。また若年者で意識回復の頻度が高い傾向を認めた。キセノンCT法を用いた脳血流量の評価では、頭部外傷の重症度が高いほど、脳血流量が低下しており、しかも低下した脳血流量がさらに経日的に減少する症例が存在することが判明した。また脳血流量の低下が高次脳機能障害に関係することが示唆された。植物状態からの回復予知法の開発を目的として、近赤外光トポグラフィーを用いた中枢神経系機能と血流動態の解析を行った。その結果、機能障害と脳循環の自動調節機能の破綻との関係が示唆され、脳機能障害の予後診断法として近赤外光トポグラフィーは有用であると考えられた。意識回復例での高次脳神経
機能の解析を行ったが、現段階では明瞭な傾向を抽出するには至っていない。今後症例を蓄積し頭部外傷後の脳機能障害の傾向や、追跡調査による回復過程の探索の必要性が示唆された。また外傷後遅発性進行性脳萎縮(delayed neuronal loss)の機序には、中等度脳低温療法が直接関与するのではなく、同療法を併用しなければコントロールできない程の高い頭蓋内圧がその発生に強く関与していると考えられた。基礎研究では、脳室内にBDNFを持続投与することにより動物の行動性が活発となることが定量的に確認された。今後の臨床応用に向けて、投与時期、投与量、安全性など検討を加える必要が示唆された。また、小胞体に局在するORP150が虚血耐性にとってのkey factorであることがわかった。今後小胞体とミトコンドリアのクロストーク、特に小胞体ストレスによる細胞死にミトコンドリアの機能変化が如何に関わっているかを明らかにすることが重要と思われる。さらに外傷性脳損傷後の脳内微小血管の破綻に伴う脳浮腫の増強,遅発性脳出血などの二次的脳損傷にproteaseであるuPAやmicroglia由来のMMP-9が関与することが明らかとなった。
機能の解析を行ったが、現段階では明瞭な傾向を抽出するには至っていない。今後症例を蓄積し頭部外傷後の脳機能障害の傾向や、追跡調査による回復過程の探索の必要性が示唆された。また外傷後遅発性進行性脳萎縮(delayed neuronal loss)の機序には、中等度脳低温療法が直接関与するのではなく、同療法を併用しなければコントロールできない程の高い頭蓋内圧がその発生に強く関与していると考えられた。基礎研究では、脳室内にBDNFを持続投与することにより動物の行動性が活発となることが定量的に確認された。今後の臨床応用に向けて、投与時期、投与量、安全性など検討を加える必要が示唆された。また、小胞体に局在するORP150が虚血耐性にとってのkey factorであることがわかった。今後小胞体とミトコンドリアのクロストーク、特に小胞体ストレスによる細胞死にミトコンドリアの機能変化が如何に関わっているかを明らかにすることが重要と思われる。さらに外傷性脳損傷後の脳内微小血管の破綻に伴う脳浮腫の増強,遅発性脳出血などの二次的脳損傷にproteaseであるuPAやmicroglia由来のMMP-9が関与することが明らかとなった。
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