福山型先天性筋ジストロフィーの病態解明と治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000450A
報告書区分
総括
研究課題名
福山型先天性筋ジストロフィーの病態解明と治療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
清水 輝夫(帝京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 戸田達史(大阪大学)
  • 砂田芳秀(川崎医科大学)
  • 松村喜一郎(帝京大学)
  • 武田聖(大塚製薬)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
初年度(平成12年度)は、①フクチン分子の生理機能の解明、②フクチン分子に直接機能連関する物質の機能解明、③FCMDの蛋白分子病態の解明、④FCMD治療法の開発のためのモデル動物の確立を目的とした。
研究方法
①フクチン分子の生理機能の解明:
a. 抗フクチン抗体の確立:合成ペプチド、fusion proteinからのウサギ抗血清、マウス単クローン抗体を作成する。
b. 糖鎖修飾に関する研究が行われている酵母の実験系をもちいて、フクチンのマンノースリン酸転移酵素活性を調べる。 
c.膜蛋白の糖鎖修飾状況をDIGグリカン検出法で調べる。②フクチン分子に直接機能連関する物質の機能解明:
a. 細胞外基底膜蛋白と組み換えフクチンとの結合をオーバーレイ法で検する。
b. ウサギ骨格筋基底層からの抽出成分(pH 12抽出分画)に対するマウスモノクローン抗体を作成し、FCMDで欠損している分子をイムノブロット法および免疫組織学により検討する。
③FCMDの蛋白分子病態の解明:
もっとも重要な筋接着因子α/βdystroglycanの分子病態を検索する。牛の大脳・小脳・末梢神経・筋・肺・腎の全ホモジェネートについてイムノブロットでα/βdystroglycanの分解過程を調べ、蛋白分解酵素阻害薬から分解酵素の同定を行う。
④モデル動物の確立:
a. すでに作成されたへテロ間交配後得られたフクチン遺伝子欠損マウスは胚致死で、胎生8.5日以前に死亡する。従って、これはFCMDの動物モデルとはならず、6.5日および7.5日胚について組織検索をおこなう。
b. ヒト変異型エクソン置換マウスの作成:マウス第10エクソン上流と中流の2箇所にloxP配列をknock-inしたベクター(FCMD患者にみられる3'非翻訳領域へのレトロポゾン挿入と類似変異)を構築し、マウスES細胞株へ導入後、キメラマウスを作成する。
c. ホモ欠損ES細胞株の樹立:マウスフクチン遺伝子の第2エクソンをpuromycin耐性遺伝子で置換したターゲッテイングベクターを作成して、フクチンへテロ欠損ES細胞株に導入後、キメラマウスを作成する。
結果と考察
①フクチン分子の生理機能の解明:
a. 抗フクチン抗体は依然成功していない。
b. 酵母S.cerevisiae、線虫およびいくつか種の細菌の細胞表面の糖鎖修飾酵素と相同性のあるドメインG[TS]hhGhhxxxxhhxaxxDxDが見い出されたことから、フクチンのマンノースリン酸転移酵素活性を調べたが検出できなかった。 
c. FCMD患者および正常者のリンパ球の膜蛋白の糖鎖修飾状況を調べたところ、FCMDで高分子量領域に反応の低下している分子があった。
②フクチン分子に直接機能連関する物質の機能解明:
a. 筋細胞外基底膜蛋白type IV collagen、fibronectin、merosinを含むlaminin 3種について検討したが、結合するものはみつかっていない。
b. ウサギ骨格筋基底層からの抽出成分(pH 12抽出分画)に対するマウスモノクローン抗体のうち、M1抗体はヒト筋細胞膜蛋白(分子量180kDa、p180)を認識し、FCMD患者3例の生検筋でp180が選択的に欠損/著減していた。これは他の神経・筋疾患には観察されず、従ってp180はフクチンと何らかの機能連関する蛋白でFCMDで著減すると推定される。
c. ウサギ骨格筋でM1抗体が認識するのは分子量160 kDa 蛋白(p160)であり、その分解産物のアミノ酸配列検索では3種類の配列があり、うち2つはsarcoplasmic reticulum histidine-rich binding proteinとショウジョウバエの大脳皮質の層構造形成の制御因子disabled proteinのhomologであった。
d. ヒトp180は EDTA添加・triton X存在下・アルカリ条件下で可溶化されることから、Ca依存性の筋細胞外基底層蛋白であり、筋細胞から分泌される。また、神経系にも存在し、特に末梢神経髄鞘の最外層(基底膜)に豊富に局在し、Schwann細胞から分泌されることが証明された。脳・眼について検討を始めている。
③FCMDの蛋白分子病態の解明:
牛の大脳・小脳・末梢神経・筋・肺・腎の全ホモジェネートからイムノブロットでα/βdystroglycanを調べた。
a.αdystroglycanとともに43kDa βdystroglycan(full size)と30kDa βdystroglycanが存在している。
b. matrix metalloproteinase(MMP)阻害薬存在下で実験を行うと、α dystroglycanとfull sizeの43kDa βdystroglycanのみが認められる。
c.αdystroglycanは43kDa βdystroglycan と30kDa βdystroglycanの両者に結合する。    
以上から、膜結合型MMPによる(43kDa βdystroglycan)→(N端13kDa) + (C端30kDa)の分解経路が判明し、FCMDでの筋変性・脳奇形にこの機序が関与するか検討を始めた。
④FCMDモデル動物の確立:
a. へテロ間交配後得られたフクチン遺伝子欠損マウスは胚致死で、6.5 日および7.5日胚を組織検索したところ、外ー内胚葉間の基底膜構造は良く保たれていた。従って、フクチン自身は基底膜の形成・維持に必須の蛋白ではないことがわかった。いずれにしても、このマウスはFCMDモデルとはなりえない。
b. FCMD患者にみられる3'非翻訳領域へのレトロポゾン挿入と同じ変異をもつマウスを作成するため、マウス第10エクソン上流と中流の2箇所にloxP配列をknock-inしたベクターを構築、マウスES細胞株へ導入したところ、ES細胞6株が相同体と判定され、ヒト変異型エクソン置換キメラマウス作成の第一段階が終了した。
c.マウスフクチン遺伝子の第2エクソンをpuromycin耐性遺伝子で置換したターゲッテイングベクターを作成して、フクチンへテロ欠損ES細胞株に導入。そこから2株のホモ欠損ES細胞株が得られ、もう一つのキメラマウス作成の第一段階が終了した。
平成13年度(2年目)はフクチンが基底層のどの蛋白をどのような糖鎖修飾過程に関与するか、dystroglycanのMMPによる分解過程への影響があるか、2系統のキメラマウスの確立に全力を注ぐ。
結論
初年度の結論として、
①フクチン生理機能として、基底膜蛋白の糖鎖修飾能を検討したところ、FCMDリンパ球の膜蛋白高分子量領域に糖鎖修飾の低下している分子がみつかり、同分子の同定と他組織での病態の検討を開始した。
②FCMD筋基底層で未知の180kDa蛋白(p180)欠損/著減が明かとなり、フクチン関連蛋白としてp180蛋白の同定を行っている。
③p180は神経系にも発現しており、末梢神経ではSchwann細胞から分泌され、髄鞘最外層の基底層に分布している。中枢神経における分布を検討はじめた。
④FCMDでの筋細胞死の機序として接着因子dystroglycanの異常を検討する中で、dystroglycanの分解過程として膜結合型のmetalloproteinaseが重要な役割を果たしていることが判明し、FCMDでの病態について検討を始めた。
⑤モデル動物の確立:フクチン遺伝子欠損マウスは胎生致死のためモデル動物としては使えない。代わって、ヒト変異型エクソン置換マウスあるいはホモ欠損ES細胞由来キメラマウスが有望であり、モデル動物確立に第1段階が達成できた。

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