多発性硬化症の発症機構解明と治療法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000446A
報告書区分
総括
研究課題名
多発性硬化症の発症機構解明と治療法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山村 隆(国立精神・神経センター神経研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 三宅 幸子(国立精神・神経センター神経研究所)
  • 近藤 誉之(国立精神・神経センター神経研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では多発性硬化症(MS)患者の予後を向上させるために、先端技術を駆使してMSの病態機構解明と治療法開発に関する基盤研究を行う。病態機構に関連して、1)MSの疾患活動性の評価や予後推測に有用なマーカーの同定、2)NK細胞、NKT細胞の異常から見たMS免疫病態の把握、3)MSの遺伝素因の解析を進め、治療法開発に関連して、4)NKT細胞を標的とする治療薬開発の研究を行った。
研究方法
1)患者NK細胞の発現する表面抗原と産生サイトカインの解析:国立精神・神経センター武蔵病院外来通院中のMS患者より採血後2時間以内にリンパ球を分離し、蛍光標識した抗CD3抗体、抗CD56抗体、抗CD95抗体などによる多重免疫染色を行い、NK細胞の発現するCD95分子量をフローサイトメトリーにより評価した。また定性的RT-PCR法および定量的PCR(Light Cyclerシステム)により、磁気分離法(MACS)によって精製したNK細胞におけるIL-4、IL-5、IFN-gamma、IL-12R beta2鎖などのmRNA発現量を測定した。さらに、磁気分離装置(MACS)によって分離したNK細胞を、PMAおよびionomycinで刺激し、その培養上清中のサイトカインをELISAで測定した。2)NK2細胞の機能に関する解析:in vitroで誘導したNK1細胞またはNK2細胞と同一人から分離したT細胞を共培養してPMAとionomycinで刺激し、8時間後に細胞内サイトカイン(IL-4とIFN-gamma)を蛍光標識した特異抗体で染色し、フローサイトメトリーにより解析した。NK1細胞の誘導にはrecombinant IL-12と抗IL-4抗体を添加した培養液を、NK2細胞の誘導にはrecombinant IL-4と抗IL-12抗体を添加した培養液を用いた。3)NKT細胞ライン樹立法の確立と機能評価:NKT細胞のリガンドであるアルファ・ガラクトシルセラミド(alpha-GC)によってCD1d拘束性NKT細胞を刺激し、IL-2を含む培地で1-2週間増殖させた。誘導したNKT細胞ラインの細胞表面抗原発現を確認するとともに、PMA/ionomycinで刺激した後、その細胞内サイトカイン発現をフローサイトメトリーで評価した。4)alpha-GCアナログによるEAE治療実験:EAEはB6マウスをMOG35-55 ペプチドで感作することにより誘導し、アナログは経口、または腹腔内投与した。アナログ投与後血清中のサイトカインを経時的に測定し、T細胞増殖反応、抗MOG抗体価測定は通常の方法によった。
結果と考察
1) MS寛解期の末梢血NK細胞では、健常者、MSの再発、甲状腺炎、他の神経疾患に比較して、CD95分子の発現が有意に亢進していることがわかった。さらに、再発による入院直後、ステロイド・パルス療法直後、治療開始1ヶ月後に同一患者におけるNK細胞のCD95発現を検討したところ、入院直後に低下したCD95発現が、1ヶ月後には寛解期MSのそれと同じレベルまで上昇することが判明した。RT-PCR法によりIL-4、IL-5、IFN-gamma、IL-12R beta2鎖などのmRNA発現を検討したが、定性的な方法ではMSと健常人間で明らかな差を認めなかった。そこで、Light Cyclerシステムを導入して定量的PCRを行った。その結果、MS寛解期では再発時に比べてIL-5 mRNAが約50倍に上昇していること、IFN-gammaやIL-12Rbeta 2鎖は低下傾向にあることがわかった。蛋白レベルでIL-5産生の亢進が見られるかどうか調べるために、磁気分離装置(MACS)によって分離したNK細胞を、PMAおよびionomycinで刺激し、その培養上清中のサイトカインをELISAで測定した。その結果、寛解期MSにおいてIL-5産生の著明な亢進が認められたが、IFN-gammaの産生についてはMS寛解期と対照間で有意差を認めなかった。以上の結果は定量的PCRの結果をサポートし、MSの寛解期においてNK細胞がNK2(IL-5産生優位)に偏
倚していることを示唆した。2)NK2偏倚の機能的な意義を明らかにするために、in vitroで誘導したNK1細胞またはNK2細胞と同一人から分離したT細胞を共培養して、PMAとionomycinで刺激した。PMA/ionomycin刺激8時間後に、細胞を固定し細胞内サイトカイン(IL-4とIFN-gamma)を蛍光標識した特異抗体で染色したところ、NK2と共培養したT細胞では細胞内IFN-gamma陽性細胞数が対照に比べ減少することが判明した。この結果は、NK2細胞がTh1細胞の誘導を抑制することを意味し、MS寛解期におけるNK細胞のNK2偏倚は寛解維持に積極的な役割を果たしていることを示唆した。3)大多数のNKT細胞がVbeta 11とValpha 24遺伝子を使用することから、MSおよび対照の末梢血リンパ球中、抗V beta 11抗体と抗V alpha 24抗体でdouble-positiveに染まる細胞の割合を算定した。これまで申請者たちがSSCP法で示してきた結果に一致し(J. Immunol. 164:4375-4381, 2000)、寛解期のMSでは対照およびMS再発時に比べてNKT細胞の著明な減少が見られた。NKT細胞のリガンドであるalpha-GCによってNKT細胞を刺激し培養すると、健常者の血液リンパ球からNKT細胞が急速に増殖することが確認された。しかし、MS寛解期の末梢血サンプルをalpha-GCで刺激した場合には、NKT細胞の増殖が見られる場合(レスポンダー)とまったく増殖の見られない場合(ノン・レスポンダー)があった。NKT細胞ラインをPMA/ionomycinで刺激後、細胞内のIFN-gammaとIL-4の発現をフローサイトメトリーで評価したところ、健常者から樹立したラインに比較して、MS寛解期患者より樹立したラインでは、IL-4陽性細胞数が圧倒的に多いことを見いだした。この結果は、患者寛解期においてNKT細胞がTh2に偏倚していることを示唆した。また寛解期患者由来のNKTラインではCD4陽性細胞の頻度が増加していた。以上の結果は、寛解期にはNK細胞はNK2に偏倚するが、NKT細胞はTh2に偏倚していることを意味する。NK2もTh2もともにTh1脳炎惹起性T細胞を抑制する能力を持つので、両者は協力して脳炎惹起性Th1細胞の活性化を抑制しMSの寛解維持に関与しているものと考えられる。4)MSの遺伝素因マーカーの候補としてCD1d多型は重要でないことが判明した。5)申請者らは、NKT細胞のリガンドであるalpha-GCの投与法を工夫して、EAE を抑制することにはじめて成功した(J. Immunol. 166:662-668, 2001)。本年度は、alpha-GCのアナログの中からNKT細胞にIL-4の産生のみを選択的に誘導する物質を同定することに成功した(特許申請準備中)。本物質を経口的に投与することにより、MSの動物モデルであるEAEの臨床症状は著明に抑制され、抗原特異的免疫応答がTh2偏倚していることもわかった。またこの新規物質は、ヒトのNKTラインに対してTh2偏倚を誘導することがわかり、MS治療薬としての可能性が示唆された(論文投稿準備中)。
結論
MS寛解期においてNK細胞はNK2に偏倚し、NKT細胞はTh2に偏倚していることが明確になった。再発に伴ってNKのNK2偏倚とNKTのTh2偏倚は解除されるので、NK細胞とNKT細胞が MS寛解の維持に積極的に関与していることが推測される。NK細胞、NKT細胞の変化はMSの病態を反映し、これらの細胞の発現する分子を解析することにより、MSの医療に有用な病態マーカーがさらに増えることが推測される。NK細胞やNKT細胞を標的とする治療法開発は魅力的な研究課題であるが、NKT細胞の糖脂質リガンドの中に、Th1介在性自己免疫病に対して治療効果を発揮する可能性のある物質が存在することが明らかになった。以上、NK細胞、NKT細胞の自己免疫病における調節機構の解明、およびNK細胞、NKT細胞を標的にした治療法開発へ向けた大きな進展が見られた。 

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-