文献情報
文献番号
200000437A
報告書区分
総括
研究課題名
血管平滑筋細胞形質転換と血小板活性化機転に基づく脳血管性痴呆の病因解明と治療法の開発
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
祖父江 憲治(大阪大学大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 荻原俊男(大阪大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
二十年後に推定される我が国の超高齢化は世界に類をみないものであり、これに伴い痴呆発症数の急増が予想される。欧米と異なり我が国の痴呆症例の半数以上は脳血管性痴呆であり、その発症原因を含めた分子機構は依然不明である。本研究は、脳血管性痴呆の発症原因を、大・中・小血管閉塞性要因とそれに随伴する血管梗塞性要因を血管平滑筋細胞形質転換と血小板活性化機転から解明するとともに、脳血管性痴呆の発症前診断・予防および発症・進行阻止に向けた治療法の開発を目的としている。
研究方法
(1)血管内膜肥厚因子(血管平滑筋細胞脱分化因子)の検索; 分化型血管平滑筋細胞培養系を用いて、血管内膜肥厚因子をヒト血清より分離・精製した。飽和・不飽和LPAは、ガスクロマトグラフィーにて定量した。(2)細胞内シグナル伝達系の解析; 細胞内シグナル伝達系は、各種MAPK系、PI3キナーゼPKB(Akt)系などについて、酵素活性を測定した。(3)血管内膜肥厚モデルラットの作製; 短時間、不飽和LPA処理により血管内膜肥厚ラットの作製を行った。(4)血管内膜肥厚増悪因子の特性検討と検索; 培養血管平滑筋細胞に活性型MEK1とMKK6を感染あるいは不飽和LPA刺激後、その培養系を分離し、脱分化能・細胞内シグナル伝達系を解析した。(5)シナプス機能の解析; 培養海馬神経細胞にGFP:PSD-Zip45を発現し、グルタミン酸刺激下でGFP:PSD-Zip45のシナプスターゲティングをphotobleach法によるtime-lapse測定により行った。
結果と考察
1)血管内膜肥厚因子と脳血管内膜肥厚モデル動物
分化型血管平滑筋細胞培養系を用いて、ヒト血清に存在する脱分化因子の検索を行い、不飽和LPAが主要かつ強力な脱分化因子であること、血管平滑筋細胞のレセプターは不飽和LPA特異的であることを見い出した。不飽和LPAによる脱分化は、細胞内シグナル伝達系(ERKとp38MAPK系の協調的活性化)によることを明らかにした。酸化LDLおよび動脈硬化病巣中に、各々1-2.4mMおよび2mMの不飽和LPAが存在することを明らかにした。また、LPA群を無傷血管内に投与し、不飽和LPA特異的血管内膜肥厚形成による血管内膜肥厚モデルラットの作製に成功した。このモデルラット解析の結果、不飽和LPAによる血管内膜肥厚もERKとp38MAPKの協調的活性化による誘導されること、血管内膜肥厚の主体は血管中膜平滑筋細胞に由来する脱分化細胞により構成されることを明らかにした。
2)細胞内シグナル伝達系異常による脳血管性痴呆モデル動物
血管特異的発現tTAについてはF2レベルで4系統の作製を終了し、活性化ERKとp38MAPKの同時発現系も、4系統の作製を終了している。今後、各系統のmatingと薬剤コンディショニングにより、脳血管性痴呆モデルマウスの解析を行う。
3)血管内膜肥厚増悪因子
不飽和LPAによりERKとp38MAPKの協調的活性化で血管平滑筋細胞脱分化により、脱分化した細胞は新たに蛋白質性因子(血管内膜肥厚増悪因子)を放出し、周辺の正常な血管平滑筋細胞の脱分化カスケードを増大することを見い出した。この因子は、EGF様作用を有し、EGFレセプターを介することを明らかにした。
4)シナプス機能と脳血管性痴呆
脳血管性痴呆における最終病態は、虚血・酸化ストレス・グルタミン酸過刺激などによる神経細胞傷害と細胞死である。シナプス機能を指標として、各種刺激による神経細胞障害性の検討を開始した。主任研究者らが発見したシナプス特異的蛋白質(PSD-Zip45)のシナプス局在化について検討を行い、PSD-Zip45のシナプス特異的局在と電位差依存性Ca2+チャネルによるCa2+流入に伴う局在変化を見い出した。
以上の結果より、血小板活性化により形成・放出される不飽和LPAと血管内に取り込まれたLDLの酸化ストレスにより生じた不飽和LDLが、血管中膜平滑筋細胞の脱分化・増殖と運動能の獲得により血管内膜肥厚を形成すること、また不飽和LPAによる血管平滑筋細胞脱分化はERKとp38MPAKにより誘導されることを解明した。本モデルラットは不飽和LPAが血管内膜肥厚の病因因子であることを証明した最初の例である。また、不飽和LPA予備蓄積能についても、脳血管性痴呆のポストゲノム発症前診断の可能性を検討している。これらの研究により、脳血管性痴呆の主要な病因が解明されるのみならず、発症前診断・予防および発症・進行阻止に向けた治療法の開発に大きく寄与するものと考えられる。
分化型血管平滑筋細胞培養系を用いて、ヒト血清に存在する脱分化因子の検索を行い、不飽和LPAが主要かつ強力な脱分化因子であること、血管平滑筋細胞のレセプターは不飽和LPA特異的であることを見い出した。不飽和LPAによる脱分化は、細胞内シグナル伝達系(ERKとp38MAPK系の協調的活性化)によることを明らかにした。酸化LDLおよび動脈硬化病巣中に、各々1-2.4mMおよび2mMの不飽和LPAが存在することを明らかにした。また、LPA群を無傷血管内に投与し、不飽和LPA特異的血管内膜肥厚形成による血管内膜肥厚モデルラットの作製に成功した。このモデルラット解析の結果、不飽和LPAによる血管内膜肥厚もERKとp38MAPKの協調的活性化による誘導されること、血管内膜肥厚の主体は血管中膜平滑筋細胞に由来する脱分化細胞により構成されることを明らかにした。
2)細胞内シグナル伝達系異常による脳血管性痴呆モデル動物
血管特異的発現tTAについてはF2レベルで4系統の作製を終了し、活性化ERKとp38MAPKの同時発現系も、4系統の作製を終了している。今後、各系統のmatingと薬剤コンディショニングにより、脳血管性痴呆モデルマウスの解析を行う。
3)血管内膜肥厚増悪因子
不飽和LPAによりERKとp38MAPKの協調的活性化で血管平滑筋細胞脱分化により、脱分化した細胞は新たに蛋白質性因子(血管内膜肥厚増悪因子)を放出し、周辺の正常な血管平滑筋細胞の脱分化カスケードを増大することを見い出した。この因子は、EGF様作用を有し、EGFレセプターを介することを明らかにした。
4)シナプス機能と脳血管性痴呆
脳血管性痴呆における最終病態は、虚血・酸化ストレス・グルタミン酸過刺激などによる神経細胞傷害と細胞死である。シナプス機能を指標として、各種刺激による神経細胞障害性の検討を開始した。主任研究者らが発見したシナプス特異的蛋白質(PSD-Zip45)のシナプス局在化について検討を行い、PSD-Zip45のシナプス特異的局在と電位差依存性Ca2+チャネルによるCa2+流入に伴う局在変化を見い出した。
以上の結果より、血小板活性化により形成・放出される不飽和LPAと血管内に取り込まれたLDLの酸化ストレスにより生じた不飽和LDLが、血管中膜平滑筋細胞の脱分化・増殖と運動能の獲得により血管内膜肥厚を形成すること、また不飽和LPAによる血管平滑筋細胞脱分化はERKとp38MPAKにより誘導されることを解明した。本モデルラットは不飽和LPAが血管内膜肥厚の病因因子であることを証明した最初の例である。また、不飽和LPA予備蓄積能についても、脳血管性痴呆のポストゲノム発症前診断の可能性を検討している。これらの研究により、脳血管性痴呆の主要な病因が解明されるのみならず、発症前診断・予防および発症・進行阻止に向けた治療法の開発に大きく寄与するものと考えられる。
結論
生きとし生ける人生をより充実したものにする事こそがQOLの本質であり、本疾患の発症ならび進行阻止は超高齢化時代への突入に向けた重大な課題である。本研究において、脳血管性痴呆発症因子の検索により見い出した不飽和LPAとその特異的レセプターに関する知見は、阻害剤開発の有力な標的であり、現在研究を進行中である。これにより脳血管痴呆発症阻止が大いに期待される。このように本研究は、脳血管性痴呆の発症前診断・予防・さらに治療という新戦略で対応するもので、我が国の保健・医療・福祉向上への有用性は大きい。
公開日・更新日
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