臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000431A
報告書区分
総括
研究課題名
臓器移植の社会基盤に向けての研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大島 伸一(名古屋大学大学院医学研究科病態外科学講座泌尿器科学)
研究分担者(所属機関)
  • 大島伸一(名古屋大学医学部泌尿器科)
  • 澤 宏紀(国立健康栄養研究所)
  • 太田宗夫(大阪府千里救命救急センター)
  • 小中節子(日本臓器移植ネットワーク)
  • 藤原研司(埼玉医科大学第三内科)
  • 堀川直史(東京女子医科大学精神医学)
  • 篠崎尚史(東京歯科大学市川総合病院角膜センター)
  • 大和田隆(北里大学医学部救命救急医学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成16(2004)年度
研究費
67,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臓器移植法の施行以来、脳死下での臓器提供事例は増加しているが、未だ臓器移植を必要とする患者のニーズに対応するには絶対数が不十分である。また献腎数は、脳死臓器提供との混同からむしろ減少傾向にある。脳死臓器提供数および献腎数の拡大は社会的に緊急かつ重要な課題である。本研究では・病院開発のための標準モデルの開発と効果の検証・移植に関わる社会資源の有効活用を図るための役割分担とシステムのあり方 ・臓器提供現場での各関係者の心理、行動特性にもとづいた提供のあり方 について検討を行うことにより 臓器移植医療の着実な推進と臓器提供数を拡大することが主な目的である。
研究方法
結果と考察
研究と結果=1)病院開発モデル作成
平成11年度に研究を開始した静岡県、新潟県、岡山県の3県(先行グループ)に新たに北海道、宮城県、高知県(後行グループ)を加えグループを拡大し研究を行った。その結果先行グループでは協力病院数、献腎情報数の増加(献腎情報の活性化)がみられ、実際の献腎数は前年度並であったが全国比率は高く保たれていた。 後行グループでは病院開発が開始されたところである。
腎バンクの病院開発における役割
都道府県移植コーディネターを対象にした調査では1.移植コーディネターの配置先、身分、活動範囲、24時間対応が可能か否かについて都道府県毎の相違が大きいこと 2.その結果、指揮命令系統に混乱を生じる可能性があること、3.必ずしも十分な経験症例数を有しておらず、教育、研修のニーズが大きいことが示唆された。都道府県腎バンク、都道府県コーディネターの活動が十分に行われていない地域においては 保健所はその行政、地域住民、医療機関との連携を利用して臓器提供病院が臓器提供体制を確立するための環境整備に有効な役割を果たす可能性を有することが示唆された。
3)臓器提供施設の意識調査及び臓器提供施設へのアンケート調査
臓器提供施設の脳死体からの臓器提供に対する体制の整備は着実に進んでおり、殆どの施設で既に倫理委員会の設置、独自のマニュアル作成などを完了していたが、報道機関への対応や、法的脳死判定や臓器提供にかかる費用の問題等に関してなお不安を抱えていることが明らかとなった。
4)コーディネターの教育プログラムに関する研究
救急科医師、脳外科医師、移植コーディネーターからなる専門家によって移植コーディネーターに必要な知識、実務を教育、訓練するための教育方法、評価方法を検討し、教育プログラムを作成した。 4人の新人移植コーディネーターにこの教育プログラムを実施した。
5)臓器移植におけるレシピエント登録に関する研究
臓器移植法実施から平成13年1月までに日本臓器ネットワークに登録された脳死臓器移植希望患者数は肝臓131人、心臓73人、肺42人、膵臓31人、小腸1人であり、そのうち国内で移植を受けたものはそれぞれ、9人、8人、5人、3人、1人であった。膵臓では中央とブロック別の体制で適応が評価されており、今後見直しが必要であると考えられた。
6)ドナー家族の心理的ケアに関する文献的研究
1970年から2000年までに発表された脳死下臓器移植ドナー家族の心理と心理的ケアに関する論文を検討した結果(1)臓器移植は悲哀の過程の進行を助けると回想した家族の比率は70から85%に達したが、(2)臓器提供のリクエストの際にストレスレベルが一時的に上がった家族の比率も20から40%あった。そのため(3)臓器提供のリクエストの際にはdecoupling、 collaboration、 private settingが重要であり、(4)家族内で臓器提供について話し合い、意思を明らかにしておくように薦めるなどのより具体的な啓蒙活動の重要性が明らかにされた。
7)臓器の配分ルール(地域別、全国その他)等の国際比較
ヨーロッパでは各国ごとのレシピエントプールの中で 主に分配が行われていた。米国の場合は地理的に広大であるため、全米を13地域に区分し そのregion内で臓器が配分されているが、アリゾナ州やアラバマ州などでは州法により州内の斡旋を優先させる場合もあった。
8)移植に関する救急医の態度、役割、義務に関する国際比較
臓器移植先進国においては、脳死という事象は純医学的裁量範疇であり、脳死判定後は臓器提供に関して救急医はなんらの関与も必要なく、そのため臓器移植に対する救急医の態度、役割、義務が精神的にも肉体的にも負担となってはいないことが明らかになった。一方本邦では脳死という事象が、臓器提供するときのみ死である特殊な死であり、その概念は一般人の中には浸透していない。このような状況の中での脳死移植の際にはガイドライン等の法的縛りなど救急医の精神的、肉体的負担が大きい。この救急医のストレス軽減が本研究の観点に不可欠であることが判明した。
結論
考察及び結論=平成9年10月に「臓器の移植に関する法律」(臓器移植法)が施行され、我が国においても、脳死下で臓器移植に法律的に途が開かれることとなった。しかしながら脳死臓器移植数は未だ少数であり、献腎移植については平成元年以降減少傾向にある。本研究では、・病院開発についての標準的モデルを開発して、あわせてその効果を検証し、導入へのノウハウを確立すること、・腎バンク、都道府県コーディネーター、日本臓器移植ネットワークなど既存の資源の有効活用を図るための、業務分担のあり方について実態を踏まえて明らかにすること、・臓器提供の現場での種々の関係者、ドナー家族、医療・看護スタッフの心理面、行動面の特性を明らかにして、臓器提供が円滑に行われるための環境作りのあり方を総合的に検討し、日本において移植医療の円滑な発展を図るものである。
・に関しては 平成11年度は、静岡県、新潟県、岡山県の3県を対象に標準モデル導入を試行し、平成12年度には新たに北海道、宮城県、高知県を加え6研究グループで研究を実施した。この結果 先行グループでは協力病院数、献腎情報数の増加(献腎情報の活性化)がみられ、実際の献腎数は前年度並であったが全国比率は高く保たれており、期待された効果があったと考えている。研究グループでの病院開発数とその程度、死亡状況を把握した患者数、うち医学的なドナー適応数、臓器提供意思確認がなされた患者数、ドナー数などの指標などについて分析、検証するとともに、この2年間の研究結果を踏まえ 各県毎の特徴にあった全国展開への取り組みを研究グループ間で行なうことが必要である。
・に関しては 平成7年の日本臓器移植ネットワークの設立以来、現在のところネットワークと腎バンクの役割区分が不明瞭となっているのが現状である。これが献腎移植低迷の原因と考えられる。本研究での都道府県コーディネーターを対象とした調査により、・職務の範囲と優先順位が不明瞭なこと、・身分、活動範囲などに相違があること、・一般に経験に乏しく教育を改善する必要があること、が指摘された。今後は腎バンクの業務、およびネットワークとの望ましい役割分担について明らかにすることが必要である。
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