文献情報
文献番号
200000419A
報告書区分
総括
研究課題名
血管新生と血管保護療法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(東京大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 宮田哲郎(東京大学大学院医学研究科)
- 山崎 力(東京大学医学部薬剤疫学講座)
- 佐田政隆(東京大学医学部附属病院)
- 森下竜一(大阪大学大学院医学系研究科)
- 室原豊明(久留米大学循環器病研究所)
- 上野 光(産業医科大学医学部)
- 松原弘明(関西医科大学第二内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 ヒトゲノム・再生医療等研究(再生医療研究分野)
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
62,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
血管新生は、虚血性心疾患、閉塞性動脈硬化症、癌、糖尿病性網膜症などの病態形成に密接に関与する。近年、この考えを基にして、血管再生や血管新生の面から難治性疾患に対する治療法が提唱されるようになった。血管新生・再生だけでなく、血管内皮保護も動脈硬化予防と循環障害改善に重要である。そこで本研究は、血管新生・再生・保護を制御する血管医学の展開をはかり、これを応用した虚血性心疾患、血行再建術後再狭窄、閉塞性動脈硬化症、心筋症、癌などに対する新しい治療法の開発を目的とする。本研究の成果は、虚血性疾患の患者の生命予後、QOLを改善すると考えられる。また、従来から行われてきたバイパス手術や経皮的血管形成術といった高額医療の代替療法として普及し、医療費の削減に貢献すると期待される。
研究方法
(1) 骨髄細胞移植による血管新生療法
骨髄細胞、末梢幹細胞、臍帯静脈血から内皮前駆細胞を単離し、内皮細胞への分化制御法を開発する。また、このような内皮前駆細胞が血管新生促進性サイトカインを分泌する機序を解明する。さらに、虚血組織の血管新生を促進するために最適な骨髄細胞移植法を開発する。大型動物で有効性と安全性を確認したうえで、下肢閉塞性動脈硬化症に対して臨床治験を行う。また、ブタ心筋虚血モデルにおいて、内皮前駆細胞を経カテーテル的に心内膜側から投与する方法を開発し、ヒト虚血性心疾患への適用を検討する。
(2) 遺伝子導入による血管新生の促進と抑制療法
A. HGFによる血管新生療法
動物実験を基に閉塞性動脈硬化症とバージャー病に対するヒト臨床試験の準備中である。また、非ウイルス性新規遺伝子導入方法ならびにHGFの血管新生作用を増強する薬物療法を開発し、治療法の有効性と安全性を向上させる。
B. bFGFを発現する自己細胞の樹立と血管新生療法
動物の自己線維芽細胞にアデノウイルスを用いて分泌型bFGFを導入する。細胞を増殖後、虚血下肢と虚血心筋の局所に注入、血流改善作用を検討する。
C. 可溶型受容体による腫瘍血管新生抑制療法
血管新生因子受容体のうち細胞外領域のみの可溶型受容体を発現するアデノウイルスベクターを作製する。ヌードマウスへの癌細胞移植モデルを用いて、腫瘍血管新生抑制効果を検討する。
(3) 遺伝子およびアンチセンスを用いた血管保護療法A. E2FおよびNFkBデコイによる再狭窄予防
E2FとNFkBデコイによる血管再狭窄防止効果を大型動物で確認後、臨床例に適用する。
B. 平滑筋形質転換因子BTEB2のアンチセンスと抑制薬を用いた血管形成術後の再狭窄予防
血管平滑筋細胞の活性化因子BTEB2のアンチセンスによる血管形成術後の再狭窄防止法を開発する。BTEB2拮抗薬は蛋白構造を決定後、分子デザインにより開発する。
C. Fasリガンド遺伝子を用いた再狭窄予防
Fasリガンドを血管病変導入すると内皮細胞を抑制せずに平滑筋細胞のアポトーシスを誘導する。全身への影響の少ないベクターを開発し、大動物を用いて効果と副作用を検討し、臨床応用を目指す。さらに移植臓器の保護に対しても効果を検討する。
骨髄細胞、末梢幹細胞、臍帯静脈血から内皮前駆細胞を単離し、内皮細胞への分化制御法を開発する。また、このような内皮前駆細胞が血管新生促進性サイトカインを分泌する機序を解明する。さらに、虚血組織の血管新生を促進するために最適な骨髄細胞移植法を開発する。大型動物で有効性と安全性を確認したうえで、下肢閉塞性動脈硬化症に対して臨床治験を行う。また、ブタ心筋虚血モデルにおいて、内皮前駆細胞を経カテーテル的に心内膜側から投与する方法を開発し、ヒト虚血性心疾患への適用を検討する。
(2) 遺伝子導入による血管新生の促進と抑制療法
A. HGFによる血管新生療法
動物実験を基に閉塞性動脈硬化症とバージャー病に対するヒト臨床試験の準備中である。また、非ウイルス性新規遺伝子導入方法ならびにHGFの血管新生作用を増強する薬物療法を開発し、治療法の有効性と安全性を向上させる。
B. bFGFを発現する自己細胞の樹立と血管新生療法
動物の自己線維芽細胞にアデノウイルスを用いて分泌型bFGFを導入する。細胞を増殖後、虚血下肢と虚血心筋の局所に注入、血流改善作用を検討する。
C. 可溶型受容体による腫瘍血管新生抑制療法
血管新生因子受容体のうち細胞外領域のみの可溶型受容体を発現するアデノウイルスベクターを作製する。ヌードマウスへの癌細胞移植モデルを用いて、腫瘍血管新生抑制効果を検討する。
(3) 遺伝子およびアンチセンスを用いた血管保護療法A. E2FおよびNFkBデコイによる再狭窄予防
E2FとNFkBデコイによる血管再狭窄防止効果を大型動物で確認後、臨床例に適用する。
B. 平滑筋形質転換因子BTEB2のアンチセンスと抑制薬を用いた血管形成術後の再狭窄予防
血管平滑筋細胞の活性化因子BTEB2のアンチセンスによる血管形成術後の再狭窄防止法を開発する。BTEB2拮抗薬は蛋白構造を決定後、分子デザインにより開発する。
C. Fasリガンド遺伝子を用いた再狭窄予防
Fasリガンドを血管病変導入すると内皮細胞を抑制せずに平滑筋細胞のアポトーシスを誘導する。全身への影響の少ないベクターを開発し、大動物を用いて効果と副作用を検討し、臨床応用を目指す。さらに移植臓器の保護に対しても効果を検討する。
結果と考察
(1) 骨髄細胞移植による血管新生療法
室原と松原は、血管内皮前駆細胞を豊富に含有する自己骨髄単核球の虚血臓器(下肢・心筋)への自家移植により血管新生が増強することを動物モデルで確認した。移植骨髄単核球細胞は新生血管の構成細胞に分化するだけでなく、血管新生効果を持つ種々の炎症性サイトカインを豊富に分泌することも見いだした。所属大学倫理員会の承認を受けたのち、慢性閉塞性動脈硬化症患者に対する「自家骨髄単核球細胞移植による末梢性血管疾患への血管新生治療」の臨床治験を開始した。現在までに関西医科大学において三例、久留米大学において一例施行した。適用は内科的・外科的血行再建術の困難な安静時疼痛・壊死の存在するFontaine分類 III-IVの症例であった。患者腸骨より骨髄液を採取し単核細胞を分離・濃縮の後、虚血下肢に筋肉内注射を行なった。移植3週間後には下肢血流改善効果とともに安静時疼痛は消失した。
骨髄細胞移植は、虚血疾患患者に対する有効な血管再生医療と考えられる。今後、効果の持続性、骨髄細胞の他の間葉系細胞への分化、有効注入細胞数を評価する予定である。下肢虚血疾患患者で安全性と治療効果が確認されれば、虚血性心疾患患者へ適応を拡大する予定である。
(2) 遺伝子導入による血管新生の促進と抑制療法
森下は、虚血臓器へのHGF遺伝子導入が血管新生を促進することを確認した。臨床応用に関しては厚生労働・文部科学両省において審査中である。また、マイクロバブルと超音波を用いてプラスミドDNAの遺伝子導入効率が劇的に上昇すること、プロスタサイクリンがHGFの血管新生作用を増強することを見出した。このような発見は臨床において、より有効で安全な第二世代の血管新生療法を可能にすると考えられる。宮田はbFGF遺伝子を導入した線維芽細胞の移植が血管新生を促進することを見出した。上野は血管新生因子の可溶型受容体の遺伝子導入が腫瘍増殖を抑制することを確認した。
(3) 遺伝子およびアンチセンスを用いた血管保護療法
森下は、転写因子E2Fに対するおとり型核酸医薬(デコイ)投与が平滑筋細胞の増殖による新生内膜形成を抑制することを動物モデルで確認した。平成12年4月から閉塞性動脈硬化症に対して血管拡張術を施行した5症例にE2Fデコイの投与を行った。安全性が確認されており、全症例とも再狭窄が認められていない。今後は、冠動脈形成術後の再狭窄予防に適応を拡大し、安全性と有効性を検討する予定である。
永井は老化関連遺伝子Klotho遺伝子の内皮細胞に対する保護作用を明らかにした。また、BTEB2のアンチセンスアデノウイルスベクター作製に成功した。その血管保護作用を動物実験で検討中である。
佐田は、Fasリガンド遺伝子が傷害後血管狭窄や移植後動脈硬化症を抑制することを確認した。
室原と松原は、血管内皮前駆細胞を豊富に含有する自己骨髄単核球の虚血臓器(下肢・心筋)への自家移植により血管新生が増強することを動物モデルで確認した。移植骨髄単核球細胞は新生血管の構成細胞に分化するだけでなく、血管新生効果を持つ種々の炎症性サイトカインを豊富に分泌することも見いだした。所属大学倫理員会の承認を受けたのち、慢性閉塞性動脈硬化症患者に対する「自家骨髄単核球細胞移植による末梢性血管疾患への血管新生治療」の臨床治験を開始した。現在までに関西医科大学において三例、久留米大学において一例施行した。適用は内科的・外科的血行再建術の困難な安静時疼痛・壊死の存在するFontaine分類 III-IVの症例であった。患者腸骨より骨髄液を採取し単核細胞を分離・濃縮の後、虚血下肢に筋肉内注射を行なった。移植3週間後には下肢血流改善効果とともに安静時疼痛は消失した。
骨髄細胞移植は、虚血疾患患者に対する有効な血管再生医療と考えられる。今後、効果の持続性、骨髄細胞の他の間葉系細胞への分化、有効注入細胞数を評価する予定である。下肢虚血疾患患者で安全性と治療効果が確認されれば、虚血性心疾患患者へ適応を拡大する予定である。
(2) 遺伝子導入による血管新生の促進と抑制療法
森下は、虚血臓器へのHGF遺伝子導入が血管新生を促進することを確認した。臨床応用に関しては厚生労働・文部科学両省において審査中である。また、マイクロバブルと超音波を用いてプラスミドDNAの遺伝子導入効率が劇的に上昇すること、プロスタサイクリンがHGFの血管新生作用を増強することを見出した。このような発見は臨床において、より有効で安全な第二世代の血管新生療法を可能にすると考えられる。宮田はbFGF遺伝子を導入した線維芽細胞の移植が血管新生を促進することを見出した。上野は血管新生因子の可溶型受容体の遺伝子導入が腫瘍増殖を抑制することを確認した。
(3) 遺伝子およびアンチセンスを用いた血管保護療法
森下は、転写因子E2Fに対するおとり型核酸医薬(デコイ)投与が平滑筋細胞の増殖による新生内膜形成を抑制することを動物モデルで確認した。平成12年4月から閉塞性動脈硬化症に対して血管拡張術を施行した5症例にE2Fデコイの投与を行った。安全性が確認されており、全症例とも再狭窄が認められていない。今後は、冠動脈形成術後の再狭窄予防に適応を拡大し、安全性と有効性を検討する予定である。
永井は老化関連遺伝子Klotho遺伝子の内皮細胞に対する保護作用を明らかにした。また、BTEB2のアンチセンスアデノウイルスベクター作製に成功した。その血管保護作用を動物実験で検討中である。
佐田は、Fasリガンド遺伝子が傷害後血管狭窄や移植後動脈硬化症を抑制することを確認した。
結論
虚血疾患の新規治療法として血管新生療法、血管保護療法を考案し、その有用性を実験で証明した。また、そのうちの二治療法を末梢血管疾患に対して世界に先駆けて臨床治験を開始した。有望な結果を得ており、今後、心疾患治療への応用が期待されている。本研究の成果は、虚血性疾患の患者の生命予後、QOLを改善すると考えられる。また、従来から行われてきた高額医療の代替療法として普及し、医療費の削減に貢献すると期待される。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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