ひとり親家族施策に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200000358A
報告書区分
総括
研究課題名
ひとり親家族施策に関する総合的研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
湯澤 直美(立教大学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
2,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、わが国では離婚率・離婚件数が上昇しており、ひとり親家族が増えつつある。ひとり親家族への社会的支援策の方向性を検討することは政策課題のひとつであり、21世紀に向けたひとり親家族施策として「総合的な支援制度」という方向性が示されている。本研究グループでは、わが国のひとり親家族の実態とこれまでの政策効果の検討をふまえ、ひとり親家族施策の再編成の方向性を明らかにすることが重要な課題であることに着目し、ひとり親家族の自立支援策をめぐる大規模調査を計画している。本研究は、そのための予備的研究として、①ひとり親家族に関する先行研究の整理・検討、②都道府県および政令指定都市・中核市におけるひとり親家族施策に関する基礎的資料の収集・分析を中心として実施し、具体的課題と分析枠組みを確立することを目的としている。
研究方法
具体的な研究計画と研究方法は、①ひとり親家族に関する先行研究の整理・検討、②自治体におけるひとり親家族施策に関する基礎的データおよび資料の収集・分析である。後者においては、都道府県・政令指定都市および中核市・東京23区におけるひとり親家族施策の実態を把握するために、自治体を対象とした郵送によるアンケート調査を実施した。また、同時に、自治体が実施している既存の実態調査や統計資料、およびひとり親家族に向けたパンフレットを収集し分析の対象とした。 
結果と考察
郵送によるアンケート調査は回収率が85%と高く、自治体におけるひとり親福祉施策の位置づけと施策の実情を把握するうえで貴重な知見と示唆を得ることができた。調査結果から析出された課題について以下に列記していく。まず、ひとり親世帯については、実数の把握という点において課題があることが明らかにされた。すなわち、①把握方法②把握の際の世帯の定義③把握年は自治体において多様であった。そのなかで課題とされる点は、①寡婦の場合には世帯の定義が年齢規定において多様であること、②独自に把握していない自治体の方が把握数を更新する作業が遅い傾向にあること、③3世代同居型のひとり親世帯の把握が難しいこと、などである。このような点に加えて、ひとり親世帯の場合には、生活実態を把握するための実態調査の実施状況においても課題がみられた。すなわち、①政令市・中核市では8割強が実施していない実情があること、②母子世帯については殆どの自治体が調査対象としているのに比して父子世帯・寡婦世帯はやや低い傾向にあること、③定期的に調査を実施している自治体の方が少ないこと、などである。  次に、自治体におけるひとり親世帯の福祉施策の実施状況から、幾つかの検討課題を整理していくと、第一に、ひとり親世帯の自立支援という場合、どのような視点とサービスが必要であるかを多面的に検討する必要がある、という点があげられる。第二に、ひとり親世帯の生活実態をどのように認識しているか、という点があげられる。ひとり親世帯の生活実態を把握するための調査の実施頻度や実施率を改善し、現代のひとり親世帯像をより明確にしていくことが必要である。第三に、自治体の各施策の実施状況について、更に詳細な把握と検討をする必要性があげられる。ひとり親世帯の福祉施策は補助事業であるものが多く、また自治体の単独事業として展開されているものもある。そのため、自治体内における実施市町村の割合や世帯種別による実施割合が自治体間で格差があることに加え、助成内容や所得制限などにおいても多様な設定がなされている。そこで、施策のニーズや効果を測定していくためには、実施状況を詳細に把握し、地域間格差をふまえておくことが重要である。第四に、父子世帯への福祉施策の内容を再検討し、生活実態にみ
あった施策を講じていくことが必要である。父子福祉の必要性については、施策編調査での自由記述やひとり親福祉施策についての意見欄においても多くの回答者が指摘している。①父子世帯の福祉ニーズをより明らかにしていくこと、②ニーズにみあった父子福祉施策を検討すること、③父子世帯が行政へアクセスしやすい方策を検討すること(所管名の検討・父子相談員やひとり親家庭相談員の設置など)、④父子世帯が利用しやすい地理的・時間的サービス提供の検討、などが必要である。第五に、就労支援策を再検討することがあげられる。①技能習得や職業訓練制度のあり方、②養育をはじめとする生活の遂行と両立できる就労支援関連事業の実施方法の検討、③就労支援事業の実施主体の検討、などが求められる。第六に、効果的な事業の実施方法の検討、という点があげられる。ひとり親福祉においては、施策がありながらも利用率が低く、ニーズがどの程度あるのかが疑問視される傾向がみられる。この点について、本調査の回答からは、施策を提供する実施主体の地域的偏在の解消とともに、利用方法を当事者のニーズや生活実態に合わせて改善する必要性が明らかにされた。第七に、事業実施にあたって委託方式のあり方について検討する必要性があげられる。本調査においては、自治体において母子福祉団体への事業委託が多くなされていることが明らかにされている。事業実施において母子福祉団体が担っている役割は大きく、重要なものである。一方、本調査のなかでは、母子福祉団体の会員の高齢化と若年母子家庭等の入会の少なさや、父子世帯への事業の提供における課題などが指摘されている。事業の地域的偏在の解消や父子世帯になじみやすい委託先の多元化、委託先への補助のあり方など、委託の実施方法について検討することが必要であろう。第八に、現代的な変化に対応したニーズの把握と施策の展開、という点があげられる。ひとり親世帯をめぐる時代的な変化のひとつとしてドメスティック・バイオレンスが社会問題として認知されてきたが、本調査ではDVを理由とする利用の統計把握が不十分であることや、夜間等の警備体制を強化する必要性があることなどが把握された。事業の効果や必要性を明らかにしていくためにも、現代的なニーズをふまえて、利用実績の統計の取り方や事業の実施方法について検討を深めていくことが必要である。
結論
今後の課題=以上のような結果をふまえ、今後の研究課題を整理する。まず、ひとり親世帯の動向と生活実態により接近できる調査方法を開発することが必須である。モデル的なアンケート調査の開発と共に、郵送調査による限界もふまえ多様な調査方法を検討する必要がある。特に3世代同居型のひとり親世帯の実情を把握すること、親子分離型のひとり親世帯の実情を把握することが必要である。児童養護施設利用により親子分離型の生活をするひとり親世帯は、父子世帯の方が割合が高く、その要因を分析することにより、在宅型福祉の課題を明らかにすることができよう。次に、各施策の実施状況を地域間格差をふまえながらより地域的特性に即して詳細に把握すること、また、事業の内実があまり明らかでない事業についてより綿密に把握するとともに、実施率が低い事業については、その要因の解明と改善策を提言することが必要である。さらに、事業の委託先として大きな役割を担ってきた母子福祉団体について、団体の存立基盤や今後の方向性を視野に入れた調査を実施することが必要である。また、その他の自助団体についてもヒアリング調査を実施し、特に父子世帯が行政にアクセスしにくい現状についても解明することが求められる。

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