児童保護システムと児童福祉法の国際比較研究

文献情報

文献番号
200000357A
報告書区分
総括
研究課題名
児童保護システムと児童福祉法の国際比較研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 博人(茨城大学人文学部)
研究分担者(所属機関)
  • 桐野由美子(京都ノートルダム女子大学人間文化学部)
  • 松田晋哉(産業医科大学医学部公衆衛生教室)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年児童虐待が大きな問題になっている。親等の養育者による子どもの人権侵害が発生したときには、国家社会がどう介入するかは、これまでに十分に明解なものになったとはいいがたい。介入の仕方についても十分な議論がされてこなかった。こうした点を踏まえて行う本研究の第一の目的は、諸外国の児童保護システムと児童福祉法制を比較検討することにある。これは、今後の日本の制度・法律改正の基礎資料を提供することにもつながる。その際、従来アメリカ法に傾きがちだった比較法の対象をヨーロッパ大陸法やオーストラリア法も視野に入れた検討を行う。本研究の第二の目的は、法律制度の検討だけでなく、それらが実際にどう運用されているのかをソーシャルワークの視点から検討する。第3の目的は、虐待対応をも含んだ子育て全般に関する母子保健システムの研究である。具体的にはフランスの母子保健福祉制度の実情を明らかにするものである。この第3の目的だけは、単年度で行うという計画を立てた。これら3つの研究目的のうち、研究計画初年度の主たる研究目的としたのは、前者の比較法的研究のための各国法の資料収集と、第3のフランスの母子保健福祉制度に関する現地での調査と文献研究である。
研究方法
本年度は、基礎資料の収集を主たる目的とするため、海外(具体的にはアメリカ合衆国)での資料収集と関係者への聞き取り調査、ならびに、外国文献による制度研究を行うこととした。また、外国人研究者招へい事業を活用して、アメリカ合衆国弁護士協会子どもと法センター児童福祉局長のマーク・ハーディン氏を招へいし、アメリカ合衆国における児童虐待への法的介入とその後の児童保護手続きについて共同研究を行うことにより、まずは、比較法の対象国の一つであるアメリカ合衆国における児童保護法制を徹底的に理解することを企図した。また、フランスについては、実際に現地での聞き取り調査と文献研究を企図した。
結果と考察
 今年度において、具体的に外国法について資料収集が進んだのは、アメリカ合衆国、ドイツ、フランス、オーストラリアである。これら4つの国の関係では、虐待発生件数が最も多いアメリカ合衆国での法的対応が最も詳細である。これに対して、ヨーロッパ法では、児童虐待のみに対処する法律は存在しない。通常の児童保護法制のなかで児童虐待にも対処するということである(アメリカとヨーロッパとの中間的な位置を占めるのがオーストラリア法であるといえる。ただし、オーストラリア法についての詳細な検討は、第2年度に行うことになっているので、今年度の報告ではこれ以上触れない)。典型的には、日本でも話題になっている特定の専門職に就いている者の通報義務は、アメリカ法にはあるがドイツ法には存在しない(といっても、アメリカ合衆国でもすべての州においてではなく、28州が専門職に通報義務を課している)。しかし、特に危機介入した後の児童の保護手続きについては共通点が多い。つまり、危機介入については、アメリカでの虐待発生件数が桁違いに多いので、通報義務等法的対応が規定されているが、およそ年間虐待通報件数が25万件のドイツでは、専門家の守秘義務の方が優先している。反面、児童を保護した後は、できるだけ家庭復帰・親子統合をはかりつつ、それが無理な場合には養子縁組により児童に永続的な家庭を保障するという点は同じである。また、手続きの節目ごとに裁判所による司法判断が下されるという点も同じである。フランスについては、母子保健制度のうえでいかなるサービスが提供されているのを見た。これは虐待に対する危機介入のような
直接的対応ということではないが、妊娠前からの望まない妊娠の予防策、出産・育児支援により親を援助して、その結果子どもの生活状況を良好な状態に置くという、出産・子育て全般に関して社会保障制度を充実させることの重要性を指摘するものである。
結論
児童虐待をめぐる法制度については、危機介入の側面では虐待発生件数が各国ごとに異なるので、法的対応のあり方に違いがある。通報義務が強く課されているとされるアメリカ合衆国でも、専門職に通報義務が課されているのは28州にすぎない。それを考えると、最近の日本での議論のように(あるいは児童虐待防止法のように)、専門職の守秘義務をはずしてまで通報義務を課すというのは、日本での虐待通報もしくは発生件数からすると、決して国際的動向に沿ったものではないということになる。むしろ、虐待を含んだ児童保護システムに携わる福祉期間の専門性やスタッフの人数の拡充を欧米諸国なみにすることの方が先決であろう。危機介入した後の児童保護システムは、調査した国々では同一方向を目指していた。それはパーマネンシープランニングの重要性と子どもに対する永続的な家庭環境の確保ということである。パーマネンシーという用語自体は、ドイツ・フランスではほとんど用いないが、援助計画をたてて親子分離を極力回避しつつ、家庭復帰が無理と判断された場合には、養子縁組の可能性が追求されるという点は共通である。また、養育家庭、つまり里親制度が充実しているため、一連の児童保護手続きでは里親制度の存在が前提になっているので、里親制度が非常に低調な日本では、この点を何とかしないと、欧米諸国の制度を直ちには導入できないということになる。さらに、日本と決定的に異なるのは、一連の保護手続きのなかで頻繁に、節目ごとに司法判断が下されるということである。この点は、親の権利制限に関連して必然的に必要になることである。なお、親の権利が強すぎるという議論はない。

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