文献情報
文献番号
200000355A
報告書区分
総括
研究課題名
児童虐待および対策の実態把握に関する研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
小林 登(国立小児病院名誉院長)
研究分担者(所属機関)
- なし
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
17,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
虐待には様々の様態があり、多くの機関・職種が関わっていて虐待の概念が機関間で異なるため、虐待の発生実態に関する機関別の調査は幾つかあるが、国の対策の策定に必要不可欠な全体像が把握されていない。社会的介入が必要な虐待の発生および各機関の取り組みの実態把握のため、福祉、保健、医療、教育、警察、司法の関係機関を対象として統一方法で調査を行い、全体像と各機関が遭遇する虐待像と対策・対応の実状を把握することを目的として、数地域における関係機関の悉皆的調査および主な機関の全国調査を行う。本年度は第1回地域調査(平成12年度前期調査)を行った。
研究方法
1) 国内の虐待防止活動団体に調査の可否及び機関連携状況に関するアンケート調査を行い、対象地域を選定し、各団体の責任者に研究協力を依頼し、また、多領域に跨る調査であるので関係領域の専門家・代表者に推進のための参画を依頼した。
2) 虐待は同一事例に多くの機関が関わるので、頻度把握には異なる機関からの重複報告の特定が不可欠である。特定の3桁郵便番号と出生年月と性の該当者は平均55名と算出され、地域集団中の特定は不可能だが虐待例中では特定可能と考えられるので、この3項目を調査票に設定した。
3) 9地域(3県、3政令市、3市;0~17歳 281万、日本同年齢人口の約12%)の虐待に関わる約40種類18,000機関を対象として、平成12年4~9月に把握した、家庭内虐待、その疑い、並びに虐待に類する行為の事例(虐待の定義は児童虐待防止法に準拠)と虐待への取組みについて郵送法で調査した。平成12年9月に調査票を事務局より郵送し、各地域責任者の元に回答を回収した。2月末迄に返送された回答について事務局及び地域責任者が解析した。
2) 虐待は同一事例に多くの機関が関わるので、頻度把握には異なる機関からの重複報告の特定が不可欠である。特定の3桁郵便番号と出生年月と性の該当者は平均55名と算出され、地域集団中の特定は不可能だが虐待例中では特定可能と考えられるので、この3項目を調査票に設定した。
3) 9地域(3県、3政令市、3市;0~17歳 281万、日本同年齢人口の約12%)の虐待に関わる約40種類18,000機関を対象として、平成12年4~9月に把握した、家庭内虐待、その疑い、並びに虐待に類する行為の事例(虐待の定義は児童虐待防止法に準拠)と虐待への取組みについて郵送法で調査した。平成12年9月に調査票を事務局より郵送し、各地域責任者の元に回答を回収した。2月末迄に返送された回答について事務局及び地域責任者が解析した。
結果と考察
1) 回収率は児童相談所は100%であったが、保健福祉機関6割、教育機関5割、医療機関3割、弁護士6%と機関により大きく異なっていた。事例は2115例報告され、期間または地域が対象外が135例で、該当例は1980例であった。事例の37%は児童相談所から報告され、保健所(以下、保健センターを含む)17%、学校9%、保育所7%、民生児童委員7%の順であった。3桁郵便番号と出生年月と性による照合で約1割が重複例と推定された。機関間連携率に比して非常に低い。現在、この機械的照合結果の真偽を各地域で確認中であるため、本報告では重複例を含めた解析結果を報告する。
2)半年間に把握された事例は重複例を含めて、虐待1069例(54%)、疑い809例(41%)、類する行為88例(5%)、計1980例で、0~17歳人口比に地域差がみられた(0.44~1.35/1000)。正確な推定には回収率、重複率、連携率による補正が必要であるが、社会的介入を要する虐待の発生数は、概ね年間3万例、0~17歳1000対1.4と推定された。
3) 事例は身体的虐待を含む例が51%、ネグレクト37%、心理的虐待10%、性的虐待2%で、死亡・受療を要する重症例は11%を占めていた。虐待者は実親が90%で、児の年齢は0歳が7%、1~5歳40%と乳幼児が多いが、年長児も少なくなく、13~17歳が12%、18歳以上も0.5%存在した。44%はきょうだい中で児のみが虐待対象となっていた。57%は援助を受けながら家庭での養育が継続され、15%が施設入所、13%は転帰不明であった。
事例の虐待像に地域差は少なかったが、機関による違いがみられた。虐待疑い例は児童相談所例に比してその他の機関の事例に多く、身体的虐待は医療機関、保育所、学校、警察、民間虐待防止団体例に多く、保健所例ではネグレクトの割合が他機関に比して多かった。児の状態は、受療を要する重症あるいは発達の遅れ、行動問題、軽傷などの症状を有する例が医療機関、保育所、学校、施設、警察、民間防止団体例に多く、保健所、福祉事務所、児童相談所、民生児童委員例には児に大きな問題が現れていない例も多く含まれていた。児の年齢は保健所、保育所は乳幼児が多く、学校は学齢児が多かった。転帰は学校、医療、警察例の施設入所率が他機関例に比して高かった。
4) 保健所、保育所、学校・幼稚園、医療機関、民生児童委員による発見が多く、職員が気付いた他、虐待者や被虐待児本人からの相談で判明したものも少なくなかった。児童相談所例ではこれらの機関や市民からの通報が多く、保健所、福祉事務所、民生児童委員、施設例にも他機関からの紹介が含まれていた。少数だが、人権擁護委員、婦人相談所、児童館、教育委員会の就学相談、少年相談センター、高齢者の介護士、弁護士、補導委員、保護司、救急隊、カウンセリング機関による発見例もあり、子どもとの接触や家庭訪問の機会をもつ職種の暖かい目が地域に広く存在することが示された。
5) 機関連携には対象・率ともに地域差があり機関間でも異なっていた。児童相談所との連携率は施設が最も高く8割、福祉相談機関7割、学校、民生児童委員6割、警察、保健所5割、医療機関4割、保育所は3割、民間防止団体1割であった。児童相談所との連携が無かった例の方が疑い例、乳幼児、児に問題が表出していない例、虐待者からの相談で把握された例が多く、初期あるいは軽度の事例が多いものと考えられる。児童相談所で把握される事例以外に多くの機関で種々の程度・種類の虐待に対応している実態が示された。
6) 事例になされた主な対応は保健所では相談が最も多く、その他、見守り、指導、他機関紹介が行われ、保育所は見守り、相談、児のケア、学校は相談、指導、見守り、児のケア、他機関紹介、医療機関は児と親の治療、民生児童委員は見守りと調査、児童相談所は調査の他、相談、指導、見守り、他の福祉相談機関は相談、調査、見守り、他機関紹介、福祉施設は児の保護とケア、相談、警察は法的対応、相談、他機関紹介、民間防止団体は相談、他機関紹介、見守りであった。親の治療や親子関係の修復に専門的に取り組んでいる機関が少なかった。保育所、学校、医療機関では軽症段階での改善例の紹介や児童相談所への通告のタイミングの戸惑いが記されていた。
7) 半年間の地域別の0~17歳人口中の発生率には約3倍の開きがあり、児童相談所例のみでも人口対の頻度に地域差がみられた。地域によって報告機関の内訳が異なり、また、児童相談所との連携率にも地域差がみられた。虐待の種類、虐待者、年齢、児の状態、転帰における地域差は少なかったが、きょうだい中で児のみが虐待対象となった例の割合には地域差があり、家庭背景の地域差を反映しているものと推察される。頻度の地域差は地域の対応システムと地域の社会的背景の両者の相違によるものと思われる。
8) 以上の如く、地域の虐待の実状に詳しい複数地域の虐待防止活動団体による統一方法での関係機関の悉皆的調査の結果、虐待発生頻度の概数、地域で虐待に関わる機関、各機関と児童相談所との連携は予想以上に低く社会的介入が必要な児童虐待は児童相談所で扱う事例以外に少なくないこと、児童相談所との連携率の地域差、虐待像には虐待対応システムと社会的背景の両者が関係していると考えられる地域差があることが判明した。
2)半年間に把握された事例は重複例を含めて、虐待1069例(54%)、疑い809例(41%)、類する行為88例(5%)、計1980例で、0~17歳人口比に地域差がみられた(0.44~1.35/1000)。正確な推定には回収率、重複率、連携率による補正が必要であるが、社会的介入を要する虐待の発生数は、概ね年間3万例、0~17歳1000対1.4と推定された。
3) 事例は身体的虐待を含む例が51%、ネグレクト37%、心理的虐待10%、性的虐待2%で、死亡・受療を要する重症例は11%を占めていた。虐待者は実親が90%で、児の年齢は0歳が7%、1~5歳40%と乳幼児が多いが、年長児も少なくなく、13~17歳が12%、18歳以上も0.5%存在した。44%はきょうだい中で児のみが虐待対象となっていた。57%は援助を受けながら家庭での養育が継続され、15%が施設入所、13%は転帰不明であった。
事例の虐待像に地域差は少なかったが、機関による違いがみられた。虐待疑い例は児童相談所例に比してその他の機関の事例に多く、身体的虐待は医療機関、保育所、学校、警察、民間虐待防止団体例に多く、保健所例ではネグレクトの割合が他機関に比して多かった。児の状態は、受療を要する重症あるいは発達の遅れ、行動問題、軽傷などの症状を有する例が医療機関、保育所、学校、施設、警察、民間防止団体例に多く、保健所、福祉事務所、児童相談所、民生児童委員例には児に大きな問題が現れていない例も多く含まれていた。児の年齢は保健所、保育所は乳幼児が多く、学校は学齢児が多かった。転帰は学校、医療、警察例の施設入所率が他機関例に比して高かった。
4) 保健所、保育所、学校・幼稚園、医療機関、民生児童委員による発見が多く、職員が気付いた他、虐待者や被虐待児本人からの相談で判明したものも少なくなかった。児童相談所例ではこれらの機関や市民からの通報が多く、保健所、福祉事務所、民生児童委員、施設例にも他機関からの紹介が含まれていた。少数だが、人権擁護委員、婦人相談所、児童館、教育委員会の就学相談、少年相談センター、高齢者の介護士、弁護士、補導委員、保護司、救急隊、カウンセリング機関による発見例もあり、子どもとの接触や家庭訪問の機会をもつ職種の暖かい目が地域に広く存在することが示された。
5) 機関連携には対象・率ともに地域差があり機関間でも異なっていた。児童相談所との連携率は施設が最も高く8割、福祉相談機関7割、学校、民生児童委員6割、警察、保健所5割、医療機関4割、保育所は3割、民間防止団体1割であった。児童相談所との連携が無かった例の方が疑い例、乳幼児、児に問題が表出していない例、虐待者からの相談で把握された例が多く、初期あるいは軽度の事例が多いものと考えられる。児童相談所で把握される事例以外に多くの機関で種々の程度・種類の虐待に対応している実態が示された。
6) 事例になされた主な対応は保健所では相談が最も多く、その他、見守り、指導、他機関紹介が行われ、保育所は見守り、相談、児のケア、学校は相談、指導、見守り、児のケア、他機関紹介、医療機関は児と親の治療、民生児童委員は見守りと調査、児童相談所は調査の他、相談、指導、見守り、他の福祉相談機関は相談、調査、見守り、他機関紹介、福祉施設は児の保護とケア、相談、警察は法的対応、相談、他機関紹介、民間防止団体は相談、他機関紹介、見守りであった。親の治療や親子関係の修復に専門的に取り組んでいる機関が少なかった。保育所、学校、医療機関では軽症段階での改善例の紹介や児童相談所への通告のタイミングの戸惑いが記されていた。
7) 半年間の地域別の0~17歳人口中の発生率には約3倍の開きがあり、児童相談所例のみでも人口対の頻度に地域差がみられた。地域によって報告機関の内訳が異なり、また、児童相談所との連携率にも地域差がみられた。虐待の種類、虐待者、年齢、児の状態、転帰における地域差は少なかったが、きょうだい中で児のみが虐待対象となった例の割合には地域差があり、家庭背景の地域差を反映しているものと推察される。頻度の地域差は地域の対応システムと地域の社会的背景の両者の相違によるものと思われる。
8) 以上の如く、地域の虐待の実状に詳しい複数地域の虐待防止活動団体による統一方法での関係機関の悉皆的調査の結果、虐待発生頻度の概数、地域で虐待に関わる機関、各機関と児童相談所との連携は予想以上に低く社会的介入が必要な児童虐待は児童相談所で扱う事例以外に少なくないこと、児童相談所との連携率の地域差、虐待像には虐待対応システムと社会的背景の両者が関係していると考えられる地域差があることが判明した。
結論
社会的介入を要する虐待発生の概数は年間約3万例、0~17歳1000人中1.4人、児童相談所で把握される事例はこの中の約37%と推定され、地域で虐待防止に関わる多くの機関・人々の存在が示された。各機関の虐待像や機関連携における機関差および地域差があり、国の施策策定の資料としての全国の実態把握のためには、全国調査と同年度後半の地域調査を加えた詳細解析が必要である。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-