文献情報
文献番号
200000354A
報告書区分
総括
研究課題名
病院における子ども支援プログラムに関する研究2 家族中心ケアと病院環境のあり方
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山城 雄一郎(順天堂大学医学部小児科)
研究分担者(所属機関)
- 野村みどり(都立保健科学大学・作業療法学科助教授)
- 帆足英一(東京都立母子保健院・院長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
【研究要旨】
家族中心ケアを推進するためには、子どもと家族の診療への参加を促すトータルな支援、病院環境の整備、社会全体による医療文化の構築が求められている事が明らかになった。
A. 研究目的=病院における支援プログラムについて、特に家族中心ケアと、それを受け入れる病院環境のあり方をより具体化する。
家族中心ケアを推進するためには、子どもと家族の診療への参加を促すトータルな支援、病院環境の整備、社会全体による医療文化の構築が求められている事が明らかになった。
A. 研究目的=病院における支援プログラムについて、特に家族中心ケアと、それを受け入れる病院環境のあり方をより具体化する。
研究方法
B. 研究方法=a-1 ヨーロッパ調査:2000年8月、スウェーデン・オランダ・英国・スイスのヨーロッパ子ども協会(EACH)加盟の代表的な子ども病院を訪問し、「病院のこども憲章」すなわちEACH憲章の到達度や課題を知るための視察調査を実施した。a-2 小児病棟の療養環境についての国内外の比較:日本の小児総合医療施設協議に加盟している25施設の病棟の療養環境の実情を調査すると共に、海外の小児病棟事例との比較検討を実施した。b. 全国の小児病院における入院環境についての実態調査:小児総合医療施設協議会に加盟している25施設を対象に、院長と保護者へのアンケート調査を実施した。c. ヒアリング調査:11名の専門家を招いてヒアリング研究会を5回開催した。
(倫理面への配慮)a- 職員を対象とするヒアリング調査、および許可された範囲内の病院施設見学を行うのみで、個々の子どもや家族に対する調査は実施していないため、倫理面の問題はないと考える。b- アンケート調査であり、問題はないと考える。c- 専門家を招いてのヒアリング研究会であり、倫理面での問題はないと考える。
C. 研究結果=a-1 ヨーロッパ調査:視察したヨーロッパ4カ国の先進的6病院では、「病院のこども憲章(EACH憲章)」のうち、家族中心ケアや遊び・教育プログラムは履行済みで、インフォームドコンセント、プリパレーションの定着には更なる努力が求められていることが判明した。入院期間が短期化し、デイケアが進展する中、病院において家族が歓迎され、家庭と同様の方法で、親が子どものケアを行えるように、広い病室や充実したファミリールームが整備されてきている。一方、診療を行うにあたっても、親が付き添うことが最良であると考えられている。全診療科の協力によるプリパレーションツールの開発、専門の看護スタッフが学校で病気の説明を行うことでクラスメートの不安を緩和、学童の検査や処置の放課後実施、教師が医療チームの一員としてプリパレーションに参加、地域の幼稚園児を対象とした病院紹介のホスピタルツアーの実施などが試みられており、病院環境と診療に関する情報を子どもと、家族・教師・クラスメート・地域の子どもにまでオープン化している実態を把握した。また、子どもたちの空想をかきたてる芸術的環境の整備を充実させると共に、総合病院においても、思春期病棟、小児デイケア病棟、小児救急部待合室、小児外来部待合室等が設置・運営され、注目されていた。a-2 小児病棟の療養環境についての国内外比較:いくつかの海外の事例をみると、個室の面積は平均20m(トイレ・バスユニットを含む)であり、我が国の1.5倍であった。また、多床室では平均15m2/床で、我が国の2倍以上、プレイルームは平均45m2で、我が国の1.3-1.4倍大きいことが明らかになった。医療法改正(平成13年3月1日施行)において、一般病棟の病室面積の基準が多床室において、4.3m2/床から6.4へと約5割増に改められたが、小児専用の病室では、この面積の2/3でよいとする規定は外されなかった。我が国においては、この基準に満たない病室がまだ3割近くあり、より豊かな病院環境の構築が求められているといえよう。b 全国の小児病院における入院環境についての実態 子どもが入院した際に、保護者の希望があれば付き添いを認めるべきであるいう回答が、病院長の約8割、付き添い者の約9割であった。現行の医療保険制度における付き添い禁止とは著しく異なった回答であり、付き添う権利を認めるべく早急に制度改革が求められる。多くの患者は4?6人部屋で付き添う実態にあった。これらの環境改善として、病院長は付き添い者のための休憩室やベット・寝具、シャワールームの整備を必要と考えていた。一方、付き添い者は食事の提供、保育士の導入やシャワールーム、ベット、寝具の整備を求めてきた。付き添いを前提とした親子病室の整備が必要という回答は、病院長、付き添い者ともに75%であった。病院に隣接したファミリーハウスの整備が必要という回答は、病院長は100%、付き添い者は60%であった。付き添いのための看護休暇制度は、病院長は75%、付き添い者は70%が必要としていた。病棟に保育士を導入することについては、病院長は100%、付き添い者は95%必要と考えていた。子どものインフォームド・コンセントを工夫している病院は半数であった。c ヒアリング調査家族中心ケアを推進するためには、親が疲れ切ってしまう従来の方法を改め、親が医療スタッフのパートナーと位置づけられる同伴入院への転換が求められる。同伴入院の可能な広い個室・多床室、ファミリールーム、ファミリーハウス、ファミリーソースセンター等の整備は勿論のこと、ファミリーハウスには、小児慢性疾患以外の多様な患者家族の受け入れ、ターミナルケア、クリーンルームの導入等も求められている。家族に対しては、制度や病気に関する情報提供や相談体制、交通費や看護手当等の経済的支援、有給看護休暇の取得、兄弟の面会や保育の提供が求められ、一方、入院する子どもには、保育やプレイセラピーの提供(医療保険制度の中で保育士加算等)、病院内教育への改革(転校なしの二重籍)等が求められている。インフォームドコンセントについては、子どもと家族への的確な説明や、処置の開始と終了
を明確に知らせたり、わかりやすい目標設定・簡単な選択肢提供などから着手すべき段階である。「ユニセフ子どもにやさしいヘルスケア・イニシャティヴ」とは、子どもが不必要な苦痛から保護される権利と、情報を与えられた上で治療に参加していく権利を実践するためのツールとして、現在作成検討中の世界基準である。基準1、に家族中心ケア、基準4、7は診療ケアに関わる。基準8では遊びと学習について、プレイリーダーの配置、入院期間が数日以上の子どもを対象に個別教育が求められている。基準9、12は健康評価、虐待対策、スタッフ、母乳哺育支援に関わるものである。この世界基準ツールの活用検討が重要課題である。
(倫理面への配慮)a- 職員を対象とするヒアリング調査、および許可された範囲内の病院施設見学を行うのみで、個々の子どもや家族に対する調査は実施していないため、倫理面の問題はないと考える。b- アンケート調査であり、問題はないと考える。c- 専門家を招いてのヒアリング研究会であり、倫理面での問題はないと考える。
C. 研究結果=a-1 ヨーロッパ調査:視察したヨーロッパ4カ国の先進的6病院では、「病院のこども憲章(EACH憲章)」のうち、家族中心ケアや遊び・教育プログラムは履行済みで、インフォームドコンセント、プリパレーションの定着には更なる努力が求められていることが判明した。入院期間が短期化し、デイケアが進展する中、病院において家族が歓迎され、家庭と同様の方法で、親が子どものケアを行えるように、広い病室や充実したファミリールームが整備されてきている。一方、診療を行うにあたっても、親が付き添うことが最良であると考えられている。全診療科の協力によるプリパレーションツールの開発、専門の看護スタッフが学校で病気の説明を行うことでクラスメートの不安を緩和、学童の検査や処置の放課後実施、教師が医療チームの一員としてプリパレーションに参加、地域の幼稚園児を対象とした病院紹介のホスピタルツアーの実施などが試みられており、病院環境と診療に関する情報を子どもと、家族・教師・クラスメート・地域の子どもにまでオープン化している実態を把握した。また、子どもたちの空想をかきたてる芸術的環境の整備を充実させると共に、総合病院においても、思春期病棟、小児デイケア病棟、小児救急部待合室、小児外来部待合室等が設置・運営され、注目されていた。a-2 小児病棟の療養環境についての国内外比較:いくつかの海外の事例をみると、個室の面積は平均20m(トイレ・バスユニットを含む)であり、我が国の1.5倍であった。また、多床室では平均15m2/床で、我が国の2倍以上、プレイルームは平均45m2で、我が国の1.3-1.4倍大きいことが明らかになった。医療法改正(平成13年3月1日施行)において、一般病棟の病室面積の基準が多床室において、4.3m2/床から6.4へと約5割増に改められたが、小児専用の病室では、この面積の2/3でよいとする規定は外されなかった。我が国においては、この基準に満たない病室がまだ3割近くあり、より豊かな病院環境の構築が求められているといえよう。b 全国の小児病院における入院環境についての実態 子どもが入院した際に、保護者の希望があれば付き添いを認めるべきであるいう回答が、病院長の約8割、付き添い者の約9割であった。現行の医療保険制度における付き添い禁止とは著しく異なった回答であり、付き添う権利を認めるべく早急に制度改革が求められる。多くの患者は4?6人部屋で付き添う実態にあった。これらの環境改善として、病院長は付き添い者のための休憩室やベット・寝具、シャワールームの整備を必要と考えていた。一方、付き添い者は食事の提供、保育士の導入やシャワールーム、ベット、寝具の整備を求めてきた。付き添いを前提とした親子病室の整備が必要という回答は、病院長、付き添い者ともに75%であった。病院に隣接したファミリーハウスの整備が必要という回答は、病院長は100%、付き添い者は60%であった。付き添いのための看護休暇制度は、病院長は75%、付き添い者は70%が必要としていた。病棟に保育士を導入することについては、病院長は100%、付き添い者は95%必要と考えていた。子どものインフォームド・コンセントを工夫している病院は半数であった。c ヒアリング調査家族中心ケアを推進するためには、親が疲れ切ってしまう従来の方法を改め、親が医療スタッフのパートナーと位置づけられる同伴入院への転換が求められる。同伴入院の可能な広い個室・多床室、ファミリールーム、ファミリーハウス、ファミリーソースセンター等の整備は勿論のこと、ファミリーハウスには、小児慢性疾患以外の多様な患者家族の受け入れ、ターミナルケア、クリーンルームの導入等も求められている。家族に対しては、制度や病気に関する情報提供や相談体制、交通費や看護手当等の経済的支援、有給看護休暇の取得、兄弟の面会や保育の提供が求められ、一方、入院する子どもには、保育やプレイセラピーの提供(医療保険制度の中で保育士加算等)、病院内教育への改革(転校なしの二重籍)等が求められている。インフォームドコンセントについては、子どもと家族への的確な説明や、処置の開始と終了
を明確に知らせたり、わかりやすい目標設定・簡単な選択肢提供などから着手すべき段階である。「ユニセフ子どもにやさしいヘルスケア・イニシャティヴ」とは、子どもが不必要な苦痛から保護される権利と、情報を与えられた上で治療に参加していく権利を実践するためのツールとして、現在作成検討中の世界基準である。基準1、に家族中心ケア、基準4、7は診療ケアに関わる。基準8では遊びと学習について、プレイリーダーの配置、入院期間が数日以上の子どもを対象に個別教育が求められている。基準9、12は健康評価、虐待対策、スタッフ、母乳哺育支援に関わるものである。この世界基準ツールの活用検討が重要課題である。
結果と考察
D. 考察=a-1 ヨーロッパ調査:視察したヨーロッパ4カ国の先進的病院では、「病院のこども憲章(EACH憲章)」のうち、家族中心ケアや遊び・教育プログラムは概ね履行済みで、インフォームドコンセント、プリパレーションの定着には更なる努力が求められていること、「ユニセフこどもにやさしいヘルスケア・イニシャティヴ」の12の基準は既に実践済みと認識されていることがわかった。家族中心ケアを推進するための、各病院および病棟における独自の理念や哲学、目標の明確化が必要になる。それに基づき、子どもと家族を受け入れる待合室・診察室・病室、家族室、プレイルームなどの空間確保および各スペースにおける楽しく豊かなインテリア、遊具、装飾による子どもにやさしい環境づくりが重要であることが判った。a-2およびb 小児病棟の療養環境の国内外比較と我が国の小児病院の療養環境実態:総じて我が国の小児病棟の病室やプレイルームの面積は海外に比べ狭い。現在の入院環境、病室環境は保護者が付き添うことを前提とした環境整備が図られておらず、それらの問題を含めて付き添い環境の整備が望まれる。いずれにしろ我が国の小児医療の場の現実は非常に貧しい状況であることが判る。c 子どもと家族の診療への参加をうながすトータルな支援、病院環境の整備、社会全体による医療文化の構築が求められているといえる。
結論
E. 結論=日本の子ども病院においては、親が疲れ切ってしまうような付き添いを改め、親の同伴入院を受け入れる抜本的な制度改革、より広い病室確保、保育士等による遊び支援とプレイルーム整備、ファミリールーム、ファミリーハウス等の設置、同伴家族の日常生活支援や情報提供・相談、経済的・心理的支援制度の充実等が課題であることがわかった。ヨーロッパの先進的子ども病院では、既に家族中心ケアとそれを受け入れる病院環境が整備されており、プリパレーションツールの開発等により、子どもと家族、および関連多分野との情報の共有化やオープン化が一層推進されていることを把握できた。日本においても「病院の子ども憲章」等の目標を高く掲げて、その実現に向けて、子ども・家族・医師・看護婦・保育士・教師等が連携できるように、共通言語としてのプリパレーションツールの開発に病院全体で取り組むことが求められている。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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