文献情報
文献番号
200000352A
報告書区分
総括
研究課題名
生殖補助医療の適応及びそのあり方に関する研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
矢内原 巧(昭和大学医学部)
研究分担者(所属機関)
- 吉村泰典(慶應義塾大学医学部)
- 鈴森薫(名古屋市立大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現在、我が国において急速に普及しつつある生殖補助医療について、実態調査に基づきその適応とカウンセリングシステムの構築について検討し、適切な応用並びに運用のガイドライン作成を目的とした。すなわち以下の分担研究課題を定め、総括的に我が国における不妊治療の在り方について検討を行った。
1. 生殖補助医療の実態及びその在り方に関する研究
2. 生殖補助医療の適用に関する研究
3. 生殖補助医療におけるカウンセリングシステムの構築に関する研究
1. 生殖補助医療の実態及びその在り方に関する研究
2. 生殖補助医療の適用に関する研究
3. 生殖補助医療におけるカウンセリングシステムの構築に関する研究
研究方法
1. 生殖補助医療の実態及びその在り方に関する研究
平成10年度に厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師および国民の意識に関する研究」の解析結果、ならびに厚生科学審議会の答申などを考慮に入れ、実施医師の実態及び意識をアンケート方式により調査した。対象は平成12年度10月時点における登録施設516の医師で、14設問88項目について調査した。この中には施設の規模、管理可能な範囲、技術者やカウンセラーを含む望ましい施設の在り方、不妊患者の希望する技術や各施設における1年間の妊娠例の内訳などが含まれる。また、体外受精・胚移植の適用に関する実態についても設問に加えた。
2. 生殖補助医療の適用に関する研究
(1)卵管性不妊症に対する卵管鏡下卵管形成術(FT)の有用性ならびに治療成績 (2)男性不妊に対する各種治療法の妊娠を期待できる実施回数 (3)安全な排卵誘発法の開発 (4)子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術の適応と妊娠率 (5)男性不妊症における精子形成関連遺伝子
以上の5項目について検討した。
3.生殖補助医療におけるカウンセリングシステムの構築に関する研究
不妊に悩むカップルの精神的・心理的負担の大きさを考え、その問題解決のため生殖補助医療に関する正確な情報の提供、本医療行為に特化したカウンセリングシズテムの構築をどのようにするかを検討し、医療側がとるべき基本的姿勢を明確にすることで、今後の不妊医療で役立たせることを目指し、討論及び文献的な考察を加えた。
平成10年度に厚生科学特別研究「生殖補助医療技術に対する医師および国民の意識に関する研究」の解析結果、ならびに厚生科学審議会の答申などを考慮に入れ、実施医師の実態及び意識をアンケート方式により調査した。対象は平成12年度10月時点における登録施設516の医師で、14設問88項目について調査した。この中には施設の規模、管理可能な範囲、技術者やカウンセラーを含む望ましい施設の在り方、不妊患者の希望する技術や各施設における1年間の妊娠例の内訳などが含まれる。また、体外受精・胚移植の適用に関する実態についても設問に加えた。
2. 生殖補助医療の適用に関する研究
(1)卵管性不妊症に対する卵管鏡下卵管形成術(FT)の有用性ならびに治療成績 (2)男性不妊に対する各種治療法の妊娠を期待できる実施回数 (3)安全な排卵誘発法の開発 (4)子宮内膜症に対する腹腔鏡下手術の適応と妊娠率 (5)男性不妊症における精子形成関連遺伝子
以上の5項目について検討した。
3.生殖補助医療におけるカウンセリングシステムの構築に関する研究
不妊に悩むカップルの精神的・心理的負担の大きさを考え、その問題解決のため生殖補助医療に関する正確な情報の提供、本医療行為に特化したカウンセリングシズテムの構築をどのようにするかを検討し、医療側がとるべき基本的姿勢を明確にすることで、今後の不妊医療で役立たせることを目指し、討論及び文献的な考察を加えた。
結果と考察
1. 生殖補助医療の実態及びその在り方に関する研究
生殖補助医療実施登録施設516施設を対象としたアンケート調査に300施設より回答があった(回答率58%)。大学付属病院を含む300床以上の施設が141と多く、ついで一般診療所78、不妊専門クリニック35であった。これらのうち不妊専門クリニックが20%であった以外は、ほぼ80~100 %の施設が分娩可能であった。80%以上母児を生後1年までフォローアップしている施設は17%にすぎなかった。将来認められるべき技術では卵子提供について52%が匿名第三者とし、38%が'姉妹をも'と回答していた。これらの施設に来院した患者のうち、1年間で卵子提供を希望したものは192名、代理母、借り腹はそれぞれ16名、43名であった。不妊カウンセラーは2/3の施設で必要と考えているが、実働の心理療法士は10%に満たず、IVFコーディネーターは1/2が必要と考え、ほぼ30%が実働していた。300施設で平成11年1年間の妊娠症例は25,884例で、その内10,021例(38.7%)は体外受精・胚移植(新鮮、凍結、顕微授精)で、自然妊娠は19%にすぎなかった。これらの実態をもとに生殖補助医療の適応について検討された。
2.生殖補助医療の適用に関する研究
学会の体外受精・胚移植は卵管性不妊および本法以外に妊娠の可能性のない難治性不妊が適応とされている。アンケート調査によれば、IVF-ETを積極的に考慮する症例は卵管性不妊289、男性不妊239、機能性不妊213(複数回答)であった。FTによる治療では370名の患者に対し、691の卵管に本法を施行したところ、卵管通過性の回復は卵管別で89%に、患者別では96%にみられ、さらに2年以上の追跡では24.5%の症例に妊娠が成立した。子宮より10cm以内の卵管内病変には経頚管アプローチによるFTが有効であった。IVF-ET施行前に試みる方法としてその有用性が示唆された。男性不妊で妊娠を期待できる治療法の実施回数は人工授精が7回、IVF-ETが4回、顕微授精(ICSI)が5回であった。無精子症例では精路再建手術の適応や精巣内精子摘出術の適応を判断し、また非配偶者間人工授精は精巣内精子検出が不可能な場合に選択される手段と考えられた。安全な排卵誘発法としては視床下部性排卵障害や多嚢胞性卵巣症候群に対しFSH低用量投与やFSH-GnRH律動的投与法が妊娠率を下げることなく多胎率、卵巣過剰刺激症候群の発症を抑える優れた方法であることが示された。腹腔鏡下手術は侵襲が少なく、子宮内膜症の診断並びに治療に有用であると考えられた。但し卵管機能障害の顕著な症例では手術や薬物療法による妊娠成績は不良であり、早期の生殖補助医療技術の適応が望まれた。重症の造精機能障害(精子濃度106/ml以下)の男性では7.6%にY染色体AZFc領域の微小欠失が認められ、顕微授精により出生した男児3例全例にもその欠失が遺伝することが示された。
3.生殖補助医療におけるカウンセリングシステムの構築に関する研究
生殖補助医療におけるカウンセリングの基本的考え方、在り方、インフォームドコンセントの意味を、医師、看護者、患者サイドより討議を行った。情報の公開、来談者への選択肢の提供方法、遺伝情報、守秘義務の重要性、不妊患者の精神的サポートの重要性などが問題に挙げられ、これらを整理することによってカウンセリングシステムの具体的構築が次年度の課題となった。
生殖補助医療実施登録施設516施設を対象としたアンケート調査に300施設より回答があった(回答率58%)。大学付属病院を含む300床以上の施設が141と多く、ついで一般診療所78、不妊専門クリニック35であった。これらのうち不妊専門クリニックが20%であった以外は、ほぼ80~100 %の施設が分娩可能であった。80%以上母児を生後1年までフォローアップしている施設は17%にすぎなかった。将来認められるべき技術では卵子提供について52%が匿名第三者とし、38%が'姉妹をも'と回答していた。これらの施設に来院した患者のうち、1年間で卵子提供を希望したものは192名、代理母、借り腹はそれぞれ16名、43名であった。不妊カウンセラーは2/3の施設で必要と考えているが、実働の心理療法士は10%に満たず、IVFコーディネーターは1/2が必要と考え、ほぼ30%が実働していた。300施設で平成11年1年間の妊娠症例は25,884例で、その内10,021例(38.7%)は体外受精・胚移植(新鮮、凍結、顕微授精)で、自然妊娠は19%にすぎなかった。これらの実態をもとに生殖補助医療の適応について検討された。
2.生殖補助医療の適用に関する研究
学会の体外受精・胚移植は卵管性不妊および本法以外に妊娠の可能性のない難治性不妊が適応とされている。アンケート調査によれば、IVF-ETを積極的に考慮する症例は卵管性不妊289、男性不妊239、機能性不妊213(複数回答)であった。FTによる治療では370名の患者に対し、691の卵管に本法を施行したところ、卵管通過性の回復は卵管別で89%に、患者別では96%にみられ、さらに2年以上の追跡では24.5%の症例に妊娠が成立した。子宮より10cm以内の卵管内病変には経頚管アプローチによるFTが有効であった。IVF-ET施行前に試みる方法としてその有用性が示唆された。男性不妊で妊娠を期待できる治療法の実施回数は人工授精が7回、IVF-ETが4回、顕微授精(ICSI)が5回であった。無精子症例では精路再建手術の適応や精巣内精子摘出術の適応を判断し、また非配偶者間人工授精は精巣内精子検出が不可能な場合に選択される手段と考えられた。安全な排卵誘発法としては視床下部性排卵障害や多嚢胞性卵巣症候群に対しFSH低用量投与やFSH-GnRH律動的投与法が妊娠率を下げることなく多胎率、卵巣過剰刺激症候群の発症を抑える優れた方法であることが示された。腹腔鏡下手術は侵襲が少なく、子宮内膜症の診断並びに治療に有用であると考えられた。但し卵管機能障害の顕著な症例では手術や薬物療法による妊娠成績は不良であり、早期の生殖補助医療技術の適応が望まれた。重症の造精機能障害(精子濃度106/ml以下)の男性では7.6%にY染色体AZFc領域の微小欠失が認められ、顕微授精により出生した男児3例全例にもその欠失が遺伝することが示された。
3.生殖補助医療におけるカウンセリングシステムの構築に関する研究
生殖補助医療におけるカウンセリングの基本的考え方、在り方、インフォームドコンセントの意味を、医師、看護者、患者サイドより討議を行った。情報の公開、来談者への選択肢の提供方法、遺伝情報、守秘義務の重要性、不妊患者の精神的サポートの重要性などが問題に挙げられ、これらを整理することによってカウンセリングシステムの具体的構築が次年度の課題となった。
結論
生殖補助医療実施登録施設へのアンケート調査結果より実態が明らかとなり、これらの施設が今後具備すべき条件や、母児のフォローアップのシステム構築の必要性が考えられた。医師の意識調査では厚生科学審議会や日本産科婦人科学会の見解と異なった要望もあり、今後の検討課題として残される。これらの施設における妊娠症例の解析から体外受精による妊娠例が多いことが判り、適応の拡大とその妥当性が今後のガイドライン作成の資料となった。生殖補助医療の適応に関してはFTカテーテルによる治療成績から本法の有用性が示された。また男性不妊で妊娠を期待できる治療の実施回数、無精子症例の取り扱い方が示された。卵巣過剰刺激症候群や多胎妊娠などを防止する排卵誘発法としてFSH-GnRH 律動的投与法の有効性が報告された。不妊の原因となる子宮内膜症例に対する腹腔鏡下手術の有用性と体外受精の適応となるべき症例の選択が提示された。重症の造精機能障害と染色体異常と更に児への遺伝との関係が明らかとなった。生殖補助医療におけるカウンセリングについてはあらゆる角度から検討され、その重要性とともに、今後カウンセリングシステム構築の基本的姿勢を明らかにした。以上、我が国における生殖補助医療の実態調査および臨床研究より体外受精の医学的適応、実施施設の具備すべき条件、カウンセリングシステムの構築など今後の生殖医療実施ガイドラインの作成の方向性が明らかとなった。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-