リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000351A
報告書区分
総括
研究課題名
リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
武谷 雄二(東京大学医学部産科婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 堤 治(東京大学医学部産科婦人科)
  • 寺川直樹(鳥取大学医学部産科婦人科)
  • 星合 昊(近畿大学医学部産科婦人科)
  • 林邦彦(群馬大学医学部保健学科疫学医学統計学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子宮内膜症等の月経に関連する疾患において疼痛をはじめとする随伴症状は勤労女性の就労に種々の支障をきたしている。特に子宮内膜症による月経随伴症状は慢性化しやすく長期的な管理が必要である。なかでも子宮内膜症は診療を受けている患者のみでも本邦で12万人以上にのぼる。そこで、本研究は社会経済学的側面より子宮内膜症等の実状を把握し、それに対する医学的介入の効果および長期的管理指針の開発を目的として以下の課題を取り上げた。(1)勤労女性の就労を妨げる諸因子の分析ならびに特に月経困難症の勤労女性の就労に及ぼす影響の実態を解明すること。(2)月経困難症を訴える患者における治療様式と就労の改善度との関連を解析し有効な管理指針を検討する。(3)子宮内膜症患者において月経期またはこれ以外の疼痛が就労状況等の生活の質(QOL)におよぼす影響を疾患の進行度との関連より多角的に解析し、疼痛対策を含めた総合的、長期的管理の方法を創案する。以上、3点のうち特に(1)の実態調査は重要であり、医療経済学的側面よりも十分な検討を加えた。
研究方法
1.わが国の20歳~49歳までの女性人口を想定母集団とした。都市規模別に重み付けし関東地域から100地点を無作為抽出し、各地点から20歳~49歳の女性100人を住民台帳から無作為に抽出した。なお、地点・対象者の抽出および住民台帳の閲覧は、社団法人新情報サービスが行った。抽出された10,000人の対象者に、2000年10月に調査票(資料参照)を郵送した。記入された調査票は、事務局(東京大学医学部産科婦人科)まで返送され、計4,230名から回答を得ることができた(回答率42.3%)。また、未回答者のうち62人については、抽出時から郵送時までの転居などにより宛先不明で未着であった。回答は単純集計するとともに年齢層により層別化し解析を行った。労働損失の推計は、職種別の1日あたり労働価値に、仕事を休んだ日(以下、休業日数)および仕事量を減らした日(以下、仕事減日数)を集計した数値を掛け合わせて行った。常勤職および非常勤職の賃金に関しては、労働省政策調査部編「平成11年賃金構造基本統計調査」における一般労働者(パート除く)とパート労働者のデータを用いた。常勤職については、一般労働者の1カ月の所定内賃金と所定内実労働時間の合計を用いて、1日あたりの所定内労働時間を8時間として、1日あたり賃金を算出した。非常勤職については、パート労働者の1時間あたり所定内賃金と1日あたり所定内実労働時間を掛けて、1日あたり賃金の推定値とした。主婦に関しては、経済企画庁による「無償労働者の貨幣評価について」(平成9年)の資料における、有配偶かつ無職の女性の1人あたり年間無償労働評価額を365日で割って1日あたり労働評価額とした。ただし、この推計値は、平成3年の調査結果を基に推計されているため、社会における労働価値の変化を調整するため、1日あたり労働評価額に「賃金構造基本統計調査」における平成3年と平成11年の大学卒初任給の比率(1.10)をかけて、平成11年における労働評価額の推計値とした。年齢に関しては、常勤職および非常勤職は、5才ごとの年齢層に分け、20-24、25-29、30-34、35-39、40-44、45-49の6区分とした。主婦に関しては、労働評価額の資料にあわせるために、20-24、25-29、30-39、40-49の4区分とした。休業日数の算出は、常勤職、非常勤職、専業主婦別に、各年齢階級について、6カ月間の休業日数別回答人数を集計した。ま
た、仕事減日数も同様に、各年齢階級について、6カ月間の仕事減日数別回答人数を集計した。仕事を減らした場合には、減らした程度についての回答を得ているため、常勤職、非常勤職、専業主婦の各職種別に、仕事を減らしている割合に応じて、仕事を1/4程度にしている場合は0.75、半分程度にしている場合は0.5、3/4程度にしている場合は0.25のスコアを与え、年齢階級別に仕事を減らしている程度のそれぞれの回答者数をウェイトにして仕事を減らしている程度の加重平均値を算出した。仕事減日数にこの加重平均値をかけて、仕事を減らしている日数とした。集計は、常勤職、非常勤職、主婦別に、年齢階級ごとに、休業日数および仕事減日数を合計し、さらに各職種ごとの調査対象者1人あたりの労働損失日数を算出した。また、年齢階級別の調査対象者数と日本の女性人口を用いて、全国での6カ月間の労働損失金額の試算を行った。なお、人口は平成11年10月1日時点の推計人口を用いている。
2. 子宮内膜症における疼痛に対する治療後の長期予後を調査した。平成6年に腹腔鏡または開腹手術により子宮内膜症の確定診断をされた606症例(17施設より登録)の内、疼痛症状を伴ういわゆる有痛症例410例の予後を後方視的に調査した。
結果と考察
1. 月経痛をある程度生理的な現象と考えれば、67.3%、すなわち一般女性の3人に2人は、月経痛が社会生活に影響を与えることはないと考えられた。一方、鎮痛剤を飲むと日常生活が普通に行える程度の月経痛があるものは26.8%であり、鎮痛剤服用にも関わらず日常生活に支障をきたしているものは6%存在した。また、2%の女性は月経時に寝たきりのような状態になっていることがわかった。すなわち、月経痛に何らかの医学的介入を必要としている女性は全体の約3分の1であり、月経痛が医学的、社会的に重要な問題であることが再認識された。さらに、月経痛を左右する重要な因子と考えられる経産回数と年齢で2重に層別化して解析した結果、同一の経産回数のなかでも年齢とともに月経痛が減少していく傾向が認められた。また、同じ年齢層の中で見ると、経産回数の増加とともに月経痛が減少する傾向が認められた。すなわち、若年齢かつ未産なものほど月経困難を強く訴えており、勤労女性の社会的QOLを低下させる可能性が示唆された。月経痛が就労に与える影響として、月経痛のため半年のうちに一日でも仕事を減らしたり、休んだりする女性が27.3%存在することがわかった。また、月経中の自分の状態について周囲から理解されていないと答えたものは、全体の4割を超えており、月経に関する社会的啓蒙の必要性も伺われた。次に、分担研究者林邦彦ならびに研究協力者小林廉毅を中心として、上記の回収された調査票をもとに月経困難症のもたらす労働損失の推計を行った。この結果、平成11年の人口全体で推計すると、6カ月間での労働損失額は、合計で1,890億円と推計された。月経困難症のもたらす経済学的損失には、この他に医療費も重要な項目であるが、この件については現在通院患者を対象とした調査を施行中である。
2. 全体において疼痛症状の再発率は46.8%で、うち38.5%は治療終了後3ヶ月以内に再発おり、逆に、2年以上経てからの再発例も15.6%存在した。次に、有痛症例における臨床進行期、治療法と再発率との関連性を解析した。臨床進行期別、かつ、手術療法ならびに薬物療法の有無により再発率の比較検討を行ったが1期症例でやや再発率が低い傾向が認められた他には明らかな差を示す因子は見出せなかった。子宮内膜症に伴う疼痛は種々の治療に抵抗性のものが約半数を占めているのが現状であり、長期的管理法の創案のためには前方視的な研究を含めた検討が今後必要であることが明らかとなった。
結論
一般女性のうち約3分の1は、月経痛に何らかの医学的介入を必要としており、月経痛が医学的、社会的に重要な問題であることが再認識された。月経困難の症状は若年齢かつ未産なものほど強く、月経痛のため半年のうちに一日でも仕事を減らしたり、休んだりする女性が27.3%存在するなど、勤労女性の社会的QOLを低下させるている現状が把握された。一方で、月経中の自分の状態について周囲から理解されていないと答えたものは、全体の4割を超えており、月経に関する社会的啓蒙の必要性も伺われた。また、月経困難症のもたらす社会経済学的損失のうち、労働損失のみで年間約3800億円と推計された。婦人科疾患のなかで月経困難他の疼痛を伴う代表的疾患である子宮内膜症に注目してみると種々の治療に抵抗性のものが約半数を占めている現状が明らかとなった。以上より、子宮内膜症等の月経困難をもたらす疾患の長期的管理法の創案は、医学的のみならず社会学的にも重要で前方視的な研究を含めた検討が今後必要であることが明らかとなった。

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