二十一世紀の国立病院成育ネットに期待される母子保健サービスに関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000348A
報告書区分
総括
研究課題名
二十一世紀の国立病院成育ネットに期待される母子保健サービスに関する研究(総括研究報告書)
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
谷村 雅子(国立小児病院小児医療研究センター小児生態研究部長)
研究分担者(所属機関)
  • 北川道弘(国立大蔵病院・産婦人科・医長)
  • 伊藤裕司(国立小児病院・新生児科・医長)
  • 中井博史(国立療養所西多賀病院・臨床研究部・部長)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児・母性・父性医療を包括する成育医療の実現のため、国立成育医療センターの開設(平成14年)および全国50の国立病院(現、39国立病院と28国立療養所、計67施設)からなる成育医療ネットワーク(以下、成育ネット)の構築準備が進められている。本研究班は、わが国の成育医療・母子保健サービスにおける成育ネットの役割を検討し、試行を通して活動の準備を進めることを目的とする。
研究方法
本年度は、各ネット病院の特色と当該分野の既存の全国調査の実施状況を調査し、成育ネットの役割を考察した。
結果と考察
1.成育ネット病院の特色と利点:各施設の小児科、産科、事務部へのアンケート調査の結果、下記の特色が示された。 1) 病院は全国35都道府県にて各種医療の中核:北海道から鹿児島県まで35都道府県に配置され、救急、防災・災害、エイズ、僻地医療の拠点病院、養育、育成、療育医療などの指定 医療機関、成育医療以外の政策医療ネットの基幹病院として、地域の中核を担っている。現在の入院定床は26408、小児科は63病院が合計約4000床、産科は35病院が約600床を提供し、患者の約8-9割が県内から受療している。2) 多様な人的資源と物理的資源・機能:多くの病院が理学・作業療法施設、幾つかはデイケア施設、看護婦、助産婦、理学・作業療法士等の養成校を有し、併設・隣接の養護学校がある。院内に関連職種を擁し、小児科、産科においても臨床心理士、ケースワーカー、理学 ・作業・言語療法士、保健婦、助産婦、保育士、児童指導員、栄養士等のコメディカルとの 連携体制の基に診療が行われており、臨床研修指定病院・臨床修練指定病院として医師の研修を受け入れる他、専門医療技術者の養成、研修指導を行い、ホームページ他、各種メディアを通して関係者や市民に啓発活動を行っている。3) 小児科、産科における他職種の協力を得た包括的医療の実践・開発:各種の特殊外来を開き、院内外の専門医やコメデイカルの参加を得て、各領域の専門外来、慢性疾患、思春期病、不登校、罹病婦人の妊娠管理などの取り組み、先進医療の実践に加えて、特殊体質児の予防接種、病児の社会生活復帰支援、遺伝相談、タッチケアやNICU退院前の母児入院などの親子関係形成支援、障害の告知と心理的サポートなどに包括的に取り組んでいる。また、初産婦の育児や病児の家庭看護の習得の為の親子入院、ショートステイ、親のカウンセリング、子どもへのインフォームドコンセントのあり方など、社会変容の要請に応じた治療対応の開発に取組んでいる。こころの問題に対する養護学との連携も注目される。4) 地域の医療・保健・福祉・教育との連携による地域医療:在宅人工換気療法、在宅酸素療法などの先進的な在宅医療や地域の訪問看護を利用した在宅ケアへの取り組み、引きこもり児の在宅訪問医療や新生児科退院一週間後の看護婦による電話訪問などの家庭訪問・電話相談・巡回相談による在宅医療指導、保健所や児童相談所・教育委員会・養護学校等の地域の保健福祉教育との連携、2次救急、専門病院や診療所との病病・病診連携による地域医療支援、措置入院・一時保護、患児の乳幼児健診など、地域の状況に応じた連携が行われている。しかし、公務員の職務専念義務への抵触問題や多忙のため、充分には行われていない。
2.以上の様に、成育ネット施設は、周産期・小児科領域の2次医療機関として地域の中核を担う他、施設により、リハビリ施設、コメディカル、専門医療技術員養成施設などを擁しており、これらの資源を活用して、地域医療行政・保健・福祉・教育と連携して地域の実状に応じた医療、保健活動に取り組んでいた。成育ネット施設は全国に配置され、それぞれの地域社会の実状・要請を把握し易い立場にある。ネット病院間や地域の他機関との情報交換を通して、病児や健常児、家庭の育成に必要な医療機関としての取り組みを開発・試行・評価・普及させることによって、地域の子ども・家庭が真に必要とする医療、保健サービスが可能となり、少子・高度専門医療時代のわが国の成育医療環境の過疎化を回避できる。具体的な重点課題としては、多職種との連携及び地域の保健・福祉・教育等の関連領域との連携を必須とする、慢性疾患児の妊娠・出産期までの長期的包括医療、障害児の療育、思春期医療が適していると考えられる。これらは健やか親子21で選定された重要課題であり、成育ネットの地域の要請に応じた取り組みの開発・普及による推進が期待される。
3.成育医療・母子保健に関する全国調査は単発の調査は多いが、継続調査、縦断調査は少ない。罹病統計の対象疾患の拡充や各種の縦断調査など追加すべき課題は少なくない。国による統計は各省庁HPにリスト及び統計表の一部が掲載されているが、実施省庁が判らないと該当のHPに到達することは容易でなく、研究者による継続的全国調査も雑誌発表が少ないため、文献検索では把握が不完全と推察された。広い領域からの統計の利用並びに調査企画の為、当該領域の全国調査を紹介するHPが必要である。
結論
成育ネット施設は、地域の2次医療の中核機関としての実績、多職種との連携、地域の医療・保健・福祉・教育との連携、専門医療技術員の養成などの活動実績を重ねており、今後、ネット構築と系統的方向付けにより、先進医療の普及と共に、病児、地域の子ども、家庭の育成の問題点の把握、医療機関としての取り組みの開発・試行・評価・普及に、ネット病院の機能が効果的に発揮されると考えられる。特に、21世紀のわが国の成育医療・母子保健で求められている ①慢性疾患児の妊娠期までの長期的健康管理指導、②障害児の療育、③思春期医療、の技術開発、標準化、普及、長期的継続調査を通し、わが国の当該領域の充実を推進するものと期待される。当該領域の継続的全国調査の概要を紹介するHPを開設し、幅広い領域からの利用と関連調査研究の推進を図ると共に、成育ネットの規模に適した継続的調査課題を選定したい。次年度は上記3課題を中心に、各領域の専門家の参加を得て、先進的取り組みの紹介や各種情報・意見交換のための手段の整備、多施設共同研究を開始したい。

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