地域における「健やか親子21」の推進に関する研究

文献情報

文献番号
200000347A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における「健やか親子21」の推進に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
藤内 修二(大分県佐伯保健所)
研究分担者(所属機関)
  • 尾崎 米厚(鳥取大学医学部衛生学)
  • 福永 一郎(香川医科大学公衆衛生学)
  • 岩室 紳也(神奈川県厚木保健所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究要旨
本研究は「健やか親子21」を踏まえた市町村母子保健計画の策定からその推進に至るまでのプロセスについて検討し,市町村母子保健計画の見直しとその推進に寄与する知見を提供することを目的とする。
本年度は,平成8年度に策定された母子保健計画において,母子保健統計指標以外に,育児不安や父親の育児への参加などの指標を設定していた212自治体の母子保健計画書から,市町村母子保健計画に盛り込むべきアウトカム指標を抽出した。また,「健やか親子21」を踏まえて,効果的に市町村母子保健計画を見直すプロセスについて検討した。こうした指標の設定が母子保健事業の推進に有効に機能していると考えられる10自治体と8つのNPOに対して訪問調査を行い,母子保健計画が推進されるための要因を検討した。
市町村母子保健計画に盛り込むべき指標として,4領域に210項目の指標を抽出した。
市町村母子保健計画の見直しのプロセスとして,次のような手順を提案した。①既存の母子保健計画や「健やか親子21」に盛り込まれた指標を,栄養・食生活,運動,心の健康(育児不安や虐待防止を含む),喫煙,飲酒,歯科保健,保健医療(予防接種,健康診査を含む),事故防止(SIDSを含む),リプロダクティブヘルスの9領域に分け,更に,QOL・健康の指標,行動・学習の指標,組織・資源・環境の指標の3カテゴリに分類する。②こうして作成した指標の一覧を策定委員会や作業部会に提示し,不足する指標を作業部会等で抽出した上で,現状を把握するための実態調査を行う。③各指標についての現状を踏まえ,将来の目標値を設定するとともに,その達成のために必要な取り組みについて検討し,行動計画を作成する。こうした一連の作業を容易にするためのワークシートを開発した。
市町村における母子保健計画の推進に必要な6つのキーワード(①住民組織と行政の関わり,②ルーチンワークの見直し,③エンパワーメント,④評価プロセスの意義,⑤保健所の役割,⑥都道府県庁の役割)を抽出し,これらのキーワードについて,地域での展開のポイントをまとめた。
A.研究目的
本研究は「健やか親子21」を踏まえた市町村母子保健計画の策定からその推進に至るまでのプロセスについて検討し,市町村母子保健計画の見直しとその推進に寄与する知見を提供することを目的とする。特に,本年度は市町村母子保健計画に盛り込むべき指標とその策定プロセスを提案するとともに,母子保健計画の推進におけるポイントを明らかにした。
研究方法
B.研究方法
1.地方計画に盛り込むべき指標づくり
第1~6回「健やか親子21検討会」で出された議論から指標として盛り込むべき課題を抽出。更に,住民の視点での課題を補うべく,平成8年度に策定された市町村母子保健計画のうち,アウトカム指標を設定していた212自治体の母子保健計画書から指標を抽出した。
こうして抽出された指標を「健やか親子21」の4つの領域に分類した後,更に,QOL・健康の指標,行動・学習の指標,組織・資源・環境の指標の3カテゴリに分類した。これらの指標群について,指標の意味の明確さ,公衆衛生上の重要性,情報収集の容易さ,情報バイアスや精度の観点から絞り込みを行った。
2.市町村母子保健計画見直しのプロセスの検討
目標設定型である「健やか親子21」を踏まえて,市町村母子保健計画が効果的に策定されるためのプロセスを,ヘルスプロモーションの展開の理論的な枠組みの一つであるPRECEDE-PROCEED Modelを応用して,検討した。
3.市町村母子保健事業推進のポイント
平成8年度の母子保健計画でアウトカム指標を設定した212の市町村のうち,その後の母子保健事業の展開が効果的に行われていると考えられた自治体に対して訪問調査を行った。また,障害児の親の会や虐待支援の団体など,NPOへの訪問調査を行い,母子保健計画に基づいて,住民や関係組織・団体を巻き込んで効果的に母子保健事業を展開するためのポイントを検討した。
結果と考察
C.研究結果
1.地方計画に盛り込むべき指標
「健やか親子21」検討会および市町村母子保健計画から抽出された指標から,重複するものを除き,具体的かつ一般的な表現である210項目の指標を抽出した。これらの指標については,4つの課題ごとに,QOL・健康の指標,行動・学習の指標,組織・資源・環境の指標の3カテゴリに分類して,解説を加えて別稿に紹介した。 
また,これらの210項目から,指標の意味の明確さ,公衆衛生上の重要性,情報収集の容易さ,情報バイアスや精度の観点から絞り込み,98項目の指標を選定した。これらの指標の一部(39項目)は「健やか親子21」の指標にも採択された。
2.市町村母子保健計画見直しのプロセス
「健やか親子21」を踏まえた市町村母子保健計画の見直しにおいて,次の点に留意することが必要と考えられた。
1)領域の設定
「健やか親子21」の4つの領域は,市町村母子保健計画としてカバーすべき全ての領域を網羅したものではなく,国として取り組むべき優先順位の高い課題が設定されたものである。こうした意味で,「健やか親子21」の4領域という枠組みよりも,平成8年度の母子保健計画の枠組みをベースにすべきである。また,「健康日本21」地方計画との整合性から,次のような9領域を設定することを提案する。
①栄養・食生活
②運 動
③心の健康(育児不安や虐待防止を含む)
④喫 煙
⑤飲 酒
⑥歯科保健
⑦保健医療(予防接種,健康診査を含む)
⑧事故防止(SIDSを含む)
⑨リプロダクティブヘルス
2)地方レベルの指標の設定
前述したように,「健やか親子21」で設定された61項目をそのまま市町村母子保健計画の指標とする訳にはいかない。各自治体で盛り込むべき指標を住民や関係者と検討するプロセスが不可欠である。特に,QOLの指標は,母子保健事業を通じてめざす究極の目標であり,これを住民や関係者と共有することが重要である。また,望ましい生活習慣や保健行動を実践するために必要な条件の指標についても,地域ごとの特性を考慮した設定が必要である。当研究班が提案する「地方計画に盛り込むべき指標」がその参考になろう。
3)望ましい母子保健計画見直しのプロセス
以上のような点を踏まえ,市町村母子保健計画の見直しのプロセスとして,以下のような手順を提案する。
①既存の母子保健計画や「健やか親子21」に盛り込まれた指標を,栄養・食生活,運動,心の健康(育児不安や虐待防止を含む),喫煙,飲酒,歯科保健,保健医療(予防接種,健康診査を含む),事故防止(SIDSを含む),リプロダクティブヘルスの9領域に分け,更に,QOL・健康の指標,行動・学習の指標,組織・資源・環境の指標の3カテゴリに分類する。
②こうして作成した指標の一覧を策定委員会や作業部会に提示し,不足する指標を作業部会等で抽出した上で,現状を把握するための実態調査を行う。これらのプロセスに住民組織や関係機関の参画を得ることが不可欠である。
③各指標についての現状を踏まえ,将来の目標値を設定するとともに,その達成のために必要な取り組みや事業について検討する。
こうした一連の作業を容易にするためのワークシートを開発した。
3.市町村母子保健事業推進のポイント
10の優秀自治体および7つのNPOへの訪問調査の結果,次のような6つのキーワードが抽出され,これらのキーワードについて地域での展開のポイントをまとめた。
1)住民組織と行政の関わり
活発に活動をしているNPO法人を含む住民組織や各種の住民団体は,必ずしも市町村母子保健計画の存在を認識していない。母子保健計画の見直しにおいては,こうした住民組織を策定委員会や作業部会のメンバーとして参画してもらうことが不可欠である。こうした参画において,重要なことはメンバーとなった住民組織の代表が「個人」として策定作業に参画するのではなく,あくまで組織の代表として参画することである。すなわち,策定委員会や作業部会に先だって,組織の意見を集約した上で,策定作業に参加し,作業結果については,組織に復命するとともに,次の作業に向けての協議を組織で行うことが重要である。こうした作業を重ねることにより,母子保健計画に設定された目標を達成するために組織が果たすべき役割を組織の構成員と共有することができ,実践にうつすことが可能になるのである。
2)ルーチンワークの見直し
乳幼児健康診査や健康相談,各種の教室などのルーチンワークを単にサービス提供の機会と位置づけるのではなく,計画に盛り込まれた指標の達成状況をモニターする機会として位置づけることが重要である。健康診査における問診や健康相談や各教室の参加者から得られる情報を,定量的な評価へとつなげる工夫が必要である。また,定量的な評価だけでなく,質的な評価を可能にする視点も必要である。これらの情報収集を可能にするための方策については,次年度に研究する予定である。
3)エンパワーメント
住民組織やコミュニティのエンパワーメントのためには,目的を共有すること,住民と行政との話し合いの場を確保すること,行政や専門職が「黒子」に徹して,住民の主体性を損ねないこと,必要とする身近な情報の提供,住民リーダー(セミプロ)の発掘と支援,予算化への住民の参画,要綱やマニュアルに依存しない真の技術行政の確立が重要と考えられた。
4)評価プロセスの意義
評価は事業効果の判定をするだけでなく,行政としての説明責任を果たす意味でも重要である。スクラップすべき事業を明確にするためにも,必要である。
評価においては,数値目標に対する達成度のような量的な評価が注目されてきたが,質的な評価を可能にする情報収集も継続して行うべきである。
5)保健所の役割
母子保健計画の見直しとその推進における保健所の果たすべき役割として,①計画の見直しにおける支援(策定プロセスへの助言,指標づくりへの支援,実態調査の実施やその分析の支援),②広域的な調整(特に小児医療の確保),③学校保健等との連携の推進,④計画の進行管理の支援,⑤計画策定効果の評価,⑥モデル市町村における取組の普遍化等が重要と考えられた。
6)都道府県庁の役割
県庁の役割として,「健やか親子21」の県計画の策定が挙げられるが,計画策定の主体は市町村であり,県計画としては,「健康日本21」地方計画との整合性やエンゼルプランとの関連を明確にすべく,方向性を明確にすることが求められよう。また,保健所職員や市町村の母子保健担当課職員を対象とした母子保健計画見直しに関する研修会の開催も望まれる。
また,医療法に基づく県の地域医療計画に,「健やか親子21」にも盛り込まれた周産期医療ネットワークの整備,不妊専門相談センターの整備,小児救急医療体制の整備,慢性疾患児の在宅医療支援体制の整備,周産期医療システムから退院したハイリスク児へのフォロー体制の整備,情緒障害児短期治療施設の整備などを盛り込むことも重要な役割である。
上記の3つの研究成果について,報告書にまとめ,全国の市町村と保健所に配布する。
結論

公開日・更新日

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