妊産婦の健康管理および妊産婦死亡の防止に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000329A
報告書区分
総括
研究課題名
妊産婦の健康管理および妊産婦死亡の防止に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
西島 正博(北里大学医学部産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 村田雄二(大阪大学医学部産婦人科)
  • 吉田幸洋(順天堂大学医学部産婦人科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在我が国においても、各地域で総合周産期構想の実現によって周産期医療システムの整備が進んでいるが、母体救急体勢に関しては、医療資源の確保や設備の面においても未だ充分とは言い難い。一方、近年、わが国においても女性の社会進出が目覚しく就労女性が増加傾向にあり、これに伴って妊婦の高齢化と少産傾向が顕著になっている。従来、妊娠中の就労は妊娠に悪影響を及ぼすのではないかと考えられてきたが、就労女性においては、高齢化とそれに伴って合併症を有する割合が増加するため、就労そのものが妊娠に及ぼす影響に関しては不明な点が多い。
本研究では、①現行の周産期医療システムが妊産婦死亡の防止に役立っているかどうかについて調査を実施し、その問題点を明らかにする。また、妊産婦の分娩周辺期における大量性器出血の予測は困難であり、いかに迅速に輸血を行えるかが母体救命の鍵と考えられる。そこで、②産科臨床の場における輸血の準備・対応状況を調査し、システム上の問題点を明らかにする。一方、③環境も含めた労働の妊娠に及ぼす影響を明らかにする目的で、就労のみならず家庭生活上の肉体的あるいは精神的なストレスの定量が可能となるような質問票を作製し全国規模で調査を実施する。
研究方法
本研究を推進するために3班を設置した。
①周産期医療システムにおける母体救急のあり方に関する研究
研究協力者の所属するそれぞれの地域での周産期救急医療システムの実状と、前年度までに作製した個票調査票を用いて妊産婦死亡・ニアミス例を調査し、母体救急医療システムのあり方を検討した。
②妊産婦救急に必要な医療資源と設備に関する研究
研究協力者の所属する地域の産科施設に対し、妊産婦救急体勢、特に輸血に代表される医療資源と設備に関してアンケート調査を実施した。
③就労女性の妊娠分娩および妊産婦健康診査の在り方に関する研究
昨年度開始した前方視的調査にエントリーした症例について、妊娠の帰結が判明した時点で「妊産婦健康調査質問票」と帰結に関するデータを記入する「産科患者調査票」を回収した。回収したデータはコンピュータに入力し、解析を行った。今回は、質問項目およびその組み合わせに基づいて基本事項を集計するとともに、就労に係わる諸因子の妊娠・出産に及ぼす影響を解析した。
結果と考察
①周産期医療システムにおける母体救急のあり方に関する研究
母体搬送例の約半数近くが母体適応例であったが、一次施設から脳外科医、循環器科医などの対応が不可能な周産期センターや二次病院へ搬送されたために不幸な結果となった例がみられた。
②妊産婦救急に必要な医療資源と設備に関する研究
アンケートは分娩取り扱い施設227施設から回答を得た。これらの施設における1998年の総分娩数は79,399例であった。輸血症例の頻度は220分娩~341分娩に1例であった。
大阪府、京都府などの大都市集中地域では院内で血液を準備しているのと同程度の迅速さで血液供給システムにより輸血を実行することが可能であるが、埼玉県、三重県などの都市分散地域では、血液供給に2時間以上要する地域が存在し、本誌システムだけでは産科救急出血に対応できないことが判明した。
③就労女性の妊娠分娩および妊産婦健康診査の在り方に関する研究
対象症例数は4,556例であった。対象症例中に妊産婦死亡例は1例もなかったが、弛緩出血、DIC、分娩時ショックなどのニアミス例は256例存在した。妊娠の帰結の内訳はそれぞれ、47例(1%)、184例(4%)、4298例(94.3%)、27例(0.6%)であった。就労の有無に関しては、現在就労しているものの割合は44%で、54.6%は非就労であった。一方、過去には就労していたとの回ことから、少なくとも10.9%が妊娠あるいはその他の理由で退職したことになる。出産後の就労に関しては、続けるとの回答は21.8%であり、退職・あるいは退職予定と回答した者は48.5%と多かった。母性健康管理指導事項連絡カードを知っていると回答した者は6.3%であり、さらに、その中で実際に使用したと回答した者は9.1%に過ぎなかった。
結論
①周産期医療システムにおける母体救急のあり方に関する研究
周産期救急医療システムの主目的は胎児・新生児救急であるが、好むと好まざるとにかかわらず母体救急も同時に取り扱うことことになる。現状では二次病院、基幹病院の役割が明確ではなく、母体救急疾患の振り分け、スムーズな搬送が行われているとは言い難い。それぞれの地域で、母体救急疾患の搬送システムを確認する必要がある。
②妊産婦救急に必要な医療資源と設備に関する研究
血液供給に2時間以上を要するような地域でも、高次医療機関への搬送用所要時間は60分以内である。したがって、母体搬送システムと輸血供給システムを並立することにより産科救急出血に対応可能となる事が判明した。
③就労女性の妊娠分娩および妊産婦健康診査の在り方に関する研究
今回の検討では、就労の状況がどのように妊娠予後に影響するかという点に関しては明らかではなかったが、我が国の妊産婦の就労状況ならびに母性健康管理や母性保護措置に関する意識と認知度が明らかとなった。

公開日・更新日

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