神経芽細胞腫スクリ-ニングの評価

文献情報

文献番号
200000325A
報告書区分
総括
研究課題名
神経芽細胞腫スクリ-ニングの評価
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
久繁 哲徳(徳島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国においては,神経芽細胞腫(以下,NB)スクリ-ニングが,諸外国に先駆けて1984年に全国的な規模で導入された。しかしながら,その有効性については十分な評価は実施されていない。そのため,国際的に有効性に関する問題点が指摘されており,グロ-バル・スタンダ-ドとなる評価枠組みに基づき検討を行うことが緊急に求められている。そこで,比較的質が高く実行可能な研究設計であるコホ-ト研究により評価を起こった。前年度は、全国25道府県を対象として後ろ向き研究を実施したが、その結果、スクリ-ニング受診者では、NB死亡の相対危険の低下とともに、進行期NB発生の相対危険の低下が認められた。本研究においては、上記の結果を検証するために、全ての都道府県を対象とした前向き研究を実施した。本研究は現在進行中であるが、平成11年現在における中間解析を行った。また、人口動態統計によりNBの年齢階層別死亡率の経年変化についても併せて検討を行なった。
研究方法
NBスクリ-ニングの効果について、つぎの方法により評価を行った。1.前向きコホ-ト研究、1)対象集団と観察期間の設定: 対象コホートとして、平成7年以降において、スクリーニング対象年齢である全都道府県の生後6か月の全小児、しかもNBが未発生のものと定義した。なお、生後6か月以前に、スクリーニング以外の方法でNBが発見された小児(6か月既発症児)は、コホートから除いた。出生コホート・メンバー数は、厚生省人口動態統計(出生)から把握した。2)対象集団における受診・未受診数の把握: 各年の出生コホートにおける受診群の数は、年度ごとにスクリーニング受診者リストに基づいて、NB検査実施主体から厚生省児童家庭局母子保健課へ報告される受診者数によった。また、各年度の出生数からスクリーニング受診者数を引いた数を、未受診者群の数とした。3) NB死亡とスクリーニング受診の把握: 人口動態統計調査・死亡票により、1995年以降、わが国で発生したNB死亡を把握した。関連するコ-ドとともに、死亡原因、手術、解剖などの所見からNB死亡を同定した。また患者と受診については、小児慢性特定疾患医療意見書、およびNBスクリーニング検査陽性者の予後調査により把握を行なった。4)NB死亡率のスクリ-ニング受診別比較: 以上のデ-タに基づき、NB死亡率を受診有無別に比較検討した。分母には動的コホ-トの人年を用いた。また、統計学的な解析として、死亡率の点推定値とともに95%の信頼区間を算出した。死亡率の比較には、相対危険を用い、点推定値と95%信頼区間を算出した。
2.NB死亡率の経年変化、1)NB死亡の把握: 1993年以降の人口動態統計調査・死亡票によりNB死亡を把握した。上記と同様に、関連コ-ドと情報により、NBを同定した。2)年齢階層別NB死亡率の算出: 把握された死亡デ-タに基づき、経年的な年齢階層別の死亡率を算出した。その算出に用いた年齢別人口数は、1980年、1985年、1990年、1995年は国勢調査の確定数、他の年次は総理府統計局推計の「全国年齢別人口の推計数」である。さらに、過去の報告デ-タとを接続し、1980年から1999年までの死亡率の経時的変化についても検討を行なった。3)他疾患死亡率との比較: 白血病および中枢神経系悪性新生物について、人口動態統計に基づき年齢階層別死亡率を算出し、上記のNB死亡率との比較を行なった。
結果と考察
1)平成11年末現在、確定できた観察人年は、954万人年であった。観察中に把握されたNBの死亡は、受診者群15件、未受診者群9件、受診確認中が7件であった。2)受診の有無が確定した死亡例に基づき、生後6か月以降のNB死亡率(95%信頼区間)を算出すると、受診者群が0.181/10万人年(0.089~0.272)、未受診群が0.727/10万人年(0.252~1.202)であった。3)受診群の未受診群に対する死亡の相対危険(95%信頼区間)は、0.249(0.109~0.568)と有意な低下が認められた。また、保守的な条件として、受診の有無を確認中の7例について、すべて受診と仮定すると、相対危険は0.381(0.176~0.824)とやや高くなるものの、有意性な低下が引き続き認められた。この結果は、後ろ向きコホ-ト研究の結果を支持するものであり、わが国におけるNBスクリ-ニングの効果を示唆している。今後、当初の研究計画に基づき、継続して評価を進めることが求められる。
4)人口動態統計により把握されたNB死亡数は、最近5年間では、各年それぞれ、67例、62例、63例、47例、49例認められた。また、この5年間の年齢階級別の平均死亡率(人口10万人年対)は、1歳未満で0.371、1~4歳で0.418、5~9歳で0.375、10~14歳で0.107であった。5)1980年以降のNB死亡率の経年変化を年齢階級別にみると、1~4歳で明らかな減少傾向が認められ、1歳未満でも軽度の減少が認められた。一方、白血病では全ての年齢階級で減少傾向が認められたが、中枢神経系悪性腫瘍ではいずれの年齢階級でも減少傾向は認められなかった。この結果は、わが国のNBスクリ-ニングの導入経過や背景因子とも関連しており、コホ-ト研究の結果とも対応していた。
結論
NBスクリ-ニング(HPLC法)の効果を、前向きコホ-ト研究により評価した結果,スクリ-ニング受診者のNB死亡の相対危険は,未受診者に比べて0.249と有意な低下が認められた。相対危険の有意な低下は、保守的な条件下でも認められた。また、長期にわたるNB死亡率の年齢階層別比較結果では、1~4歳の死亡率が20年間に渡り低下しており、スクリ-ニングの導入と過程と対応していた。これらの結果は,後ろ向き研究の結果とも良く一致しており、わが国で実施しているNBスクリ-ニングの効果を示唆している。今後、当初の計画に従い、引き続き前向きコホ-ト研究による評価を行ない、最終的な結論を得ることが求められる。

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