幼児期における基本的情緒形成とその障害に関する研究

文献情報

文献番号
200000323A
報告書区分
総括
研究課題名
幼児期における基本的情緒形成とその障害に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
清水 凡生(呉大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大日向雅美(恵泉女学園大学人文学部)
  • 森下正康(和歌山大学教育学部)
  • 首藤俊元(埼玉大学教育学部)
  • 澤田敬(高知県立中央児童相談所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は乳児期から幼児期におよぶ発達を視野におき、心の健全育成に資する成果を得るための研究として企画したものである。そのために心の発達に関係する保護者、幼稚園・保育園の保育者などによってもたらされる諸要因の分析を年齢の経過にしたがって行い、それらの子どもへの影響を具体的に、縦断的に検討しながら育児、保育における心の健康作りのための施策を明らかにしようとするものである。
研究方法
1歳時の子どもの行動特徴と両親の育児意識・養育姿勢の関連について検討するため、新生児期(第1回調査)と乳児期前期(第2回調査)から継続して協力を得た子どもの母親と父親を対象に質問紙調査を実施した。
自己の感情を言葉で十分に伝達できない乳幼児に対しては、養育者がその表情から乳幼児の感情を的確に判断して対応する能力が求められる。この能力を赤ちゃんの種々の表情の写真を提示し、その感情を推定させることによって観察し、父親と母親について比較した。幼児の思いやりと正義感を自己制御された対人行動と見なし、それを保育者の観察を通して測定した。そして、親子の共感関係と親のしつけの態度は、幼児の対人行動とどのように関連するのかを分析した。
幼稚園における幼児の自己制御機能について、思いやりおよび攻撃性との関係、さらに親子関係が自己制御機能の発達にどのような影響を与えるかについて検討した。そのために幼稚園児の母親と父親およびクラスの担任教師に対して、子どもについて評定を求め分析した。
また、しつけの厳しさが場面の種類に関係なく個人差として認められるのか、それとも内容に応じて変化するものなのかを調査した。そして、幼児の集団生活場面での対人行動を直接観察し、家族共感およびしつけの態度との関連を検討した。
産婦人科病院、保育園、乳児園でチェックリストを使用し、母子関係に関するリスク事例をキャッチし、一次介入を乳幼児精神保健学の専門家の指導の下で現場の職員が行い、二次介入を現場で、現場の職員の協力の下で専門家が行った。
結果と考察
子どもの行動特徴だけでなく、父親の養育姿勢や育児支援状況が、母親の育児の受けとめに影響することが明らかになった。したがって、父親の存在が重要となるが、看護者は単に父親の積極的育児参加を求めるだけでなく、母親の育児への受けとめや子どもの行動特徴をふまえた家族全体を合わせて行っていくことが必要と考えられる
育児感情の面では、一部に父母間の差異が示されてはいたものの、乳児の感情認知では殆ど性差が認められていない。むしろ、育児に不安や苛立ちの強い場合、父母ともに、乳児の感情認知が適切に行えず、やや意図的かつ否定的な要素が込められている傾向が認められた。
母親、父親の男児、女児それぞれに及ぼす影響には、微妙な差があるが、いずれにしても親の受容的態度が自己制御や思いやりを育て、攻撃性を抑制することが明らかとなった。
思いやりや正義感の発達は同性の親子の間での一体感の形成を促すが、異性間ではかえって抑制される。また、親の自己制御のしつけは同性の親子の間でなされた場合は、思いやりや正義感の発達を促すが、異性間ではかえって抑制される。親の子どもへの介入には性役割を考慮する必要がある。育児の上での性役割の重要性が示された。
育児不安の高い母親ほど,伝統的な家庭観・しつけ観を否定する傾向があった。父親では,伝統的な性役割のしつけ観が強いほど,育児充実感は高くなっていた。
家族要因として母子共感をとりあげ,幼児の対人的葛藤場面での対処傾向との関連を検討したところ、親子間での気持ちの交流が幼児の社会性の発達を規定することを示している。
対人葛藤に関する子どもの意識においても,母親の分離経験や意識は,男児の攻撃性や衝動的な抑制傾向を強め,女児の対人的抑制傾向を強めることになる。これらの結果は,子どもの愛着対象としての母親の養育態度の重要性を指摘している。
産婦人科病院、保育所、乳児園でチェックリストを使用し、リスク事例をピックアップし、一次介入を乳幼児精神保健学の専門家の指導の下で現場の職員が行い、二次介入を現場で、現場の職員の協力の下で専門家が行った。その結果良好な親子関係が育成された。
結論
本研究は乳児期から幼児期におよぶ発達を視野におき、心の健全育成に資する成果を得るための研究として企画したものであるが、研究3年目の成果として父親の育児感が母親の育児負担感に大きな影響を持ち、育児不安と育児機能、自己抑制機能、思いやり、正義感などの育成と育児姿勢、母子関係のハイリスク状態の早期発見などについて知見が得られた。

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