乳幼児身体発育基準値のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200000322A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児身体発育基準値のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 則子(国立公衆衛生院母子保健学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)平成12年(西暦2000年)9月に行われた厚生省乳幼児身体発育調査結果は、すでにデータ入力・集計の段階に入っているが、本年度本研究事業においては、このような調査が10年後の2010年にも必要で有ることを明らかにする。
2)発育基準作成のための平滑化の方法の検討に関しては、専門家の協力を得てソフトを開発してきた。昨年度は平成1,2,3年研究班で収集した出生から14ヵ月までのデータ及び一病院における15カ月以降6歳までのデータから、平成2年とちょうど例数等が類似した規模のパイロットデータを調整し、Tangoの方法による平滑化のシュミレーションを行った。その際、乳児期前半の発育の急進が充分に反映されない結果となっているため、これに併用する方法として、Altmanの方法の応用を試みる。
3)乳幼児の身体発育においては地域較差が予想され、全国調査による発育値を用いることがただちに可能とは必ずしも言えない。一般的に身長が小さいといわれている沖縄県先島地区における身体発育データを検討することにより、身体発育の地域較差を明らかにする。
研究方法
1)過去に発育調査にかかわった経験者、学識経験者を集めて研究会を開催し数回に渡って意見を求め、平成22年にも同様な調査が必要な根拠について検討した。1915年より10年に1度の割で行われている全国的な乳幼児の身体発育調査の結果を、経年的に比較して検討の材料とした。
2)Altman方法の計算の流れとしては、身長・頭囲に関しては、日齢と計測データの組から8次回帰の曲線を得る。また、月齢区切りごとに標準偏差を求め、これに関する日齢に対する一次回帰式を求める。8次回帰線を中心に上下3本の線(一次回帰式で表された標準偏差の±0.675,±1.281,±1.881倍したもの)を加える。これが、3,10,25,50,75,90,97の各パーセンタイル値に相当する。体重・胸囲に関しては、日齢と計測データの組から8次回帰曲線を得る。これを対数変換しておく。日齢,計測データの対数変換の組から月齢区切りの標準偏差を求め、これについて二次回帰式を求める。対数軸上で、8次回帰線を中心に2次式で表された標準偏差に身長・頭囲と同様の倍数をかけ、上下3本の線を加える。指数変換してもとの値に戻し、求めるパーセンタイル曲線とする。
3)沖縄県八重山地区の乳幼児の発育値と全国データによる発育値を比較するにあたっては、以下の方法を取った。対象は、石垣市591例、竹富町34例、与那国町20例の平成11年度健診受診例、男子311例、女子334例である。計測時期は、出生、3,4カ月健診、1歳6カ月健診、3歳健診を中心に適宜追加してある。解析方法は、得られた縦断データの集合に関して、縦断性にこだわらず、すべての計測データを、日齢及び計測値の組として処理した。平成2年厚生省乳幼児身体発育調査の集計区分と同じ区分で集計し、平均、標準偏差の算出した上で、平均値の差の検定を行った
結果と考察
1)2010年調査の必要性に関連して、10年に1度行われている全国的な乳幼児身体発育調査結果を経時的に比較した。その結果、1980年から1990年にかけて、体重及び胸囲が乳児期から2歳頃にかけてそれぞれ0.1kg,0.1cm減少していることが分かった。このことから、2000年、2010年にはさらにこれらの値が小さくなっていくことが示唆される。この傾向が続く場合、乳幼児身体発育基準が更新されないと、発育不良ではないかという不安を持つ例が多くなることが想像される。この観点からも、10年に1度の調査を続けて行くことが必要である。
2)Altmanの方法の応用にあたっては、8次回帰曲線は2歳までは滑らかに月齢別中央値と一致し、2歳以降、中央値の増加率が減少するに従い、8次曲線が波打つ傾向にあった。身長、頭囲の月齢別標準偏差は一次回帰でよくフィットし、対数変換を行った体重、胸囲の月齢別標準偏差は二次回帰がよく当てはまった。中央値に上下3本の線を足すと、乳児期前半はすべての項目で月齢別パーセンタイル集計値とよくあったが、幼児期では、体重、胸囲において、間隔が一致しなかった。Altmanの方法を応用することにより乳児期前半の発育のスパートを反映させた曲線を得るという課題は解決した。幼児期はTangoの方法による場合に優れた平滑化曲線が得られている。中央値曲線に上下3本を加えてゆくに当たり、標準偏差にかける値(±0.675,±1.281,±1.881など)を調整することにより、2者の方法による平滑化曲線をスムースにつなげてゆくことが、今後の課題である。
3)沖縄県八重山地区の乳児期の体重・身長計測値を、年月齢区分別に1990年厚生省乳幼児身体発育値と比較した。2歳までを1カ月刻みに比較したところ、八重山データで男女とも、体重・身長ともに、偶然変動が大きく、厚生省値との大小に関する一定の傾向が見られなかった。一方、4歳-4歳6カ月未満の各年月齢区分において、八重山における身長計測値は厚生省値よりも男女とも小さく、幼児期の八重山児の身長・体重発育を、厚生省の基準で評価することは必ずしも適切でないことが明らかとなった。
結論
1980年から1990年にかけて、経年変化として発育値が減少しているので、同じ発育値を使い続けることから起こる育児不安をさけるためにも、10年に1度の調査を続けて行くことが必要である。前年度までのTangoの平滑化法において、乳児期前半の発育の急進が充分に反映されない結果となっているため、これに併用する方法として、Altmanの方法の応用を試みたところ、乳児期前半の発育のスパートを反映させた曲線を得るという課題は解決した。幼児期はTangoの方法による場合に優れた平滑化曲線が得られている。2者の方法による平滑化曲線をスムースにつなげてゆくことが、今後の課題である。乳幼児発育の地域格差をみるために、沖縄県八重山の健診データを検討したところ、八重山における計測値は厚生省値よりも身長において男女とも小さかった。幼児期の八重山児の身長・体重発育を、厚生省の基準で評価することには必ずしも適切でないことが明らかとなった。

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