川崎病のサーベイランスとその治療に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000319A
報告書区分
総括
研究課題名
川崎病のサーベイランスとその治療に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
原田 研介(日本大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柳川 洋(県立埼玉大学)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 古川 漸(山口大学医学部)
  • 薗部友良(日赤医療センター)
  • 直江史郎(東邦大学大橋病院)
  • 加藤裕久(久留米大学医学部)
  • 川崎富作(日本川崎病研究センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 子ども家庭総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
川崎病は1967年川崎富作博士によって世界ではじめて日本で報告された疾患である。その後世界的にも、Kawasaki diseaseとして認められている。乳幼児に多くみられ、その合併症として冠動脈瘤を伴うことが明らかにされ、その結果、死に至ることもある。このような臨床像をもつ疾患であるが、その原因はまだ究明されていない。1970年から、厚生省川崎病研究班により2年毎のサーベイランスが全国100床以上の病院を対象に行われており、1998年までの調査が終了した。毎年約6000人の新しい患者が発生しており、その発生頻度は上昇している。今までの継続されたサーベイランスの結果は、世界でもまれな貴重なものであり、これを永続することは日本の世界に対する義務である。この調査によって、患者数の発生状況を知り、かつその治療法の研究を行うことにより、小児慢性特定疾患との関係において、その医療費の削減へ連なる。また、後遺症例を少なくするための治療法を含めた医療技術の研究により、小児の健康維持、増進に寄与できる。
急性期の治療法としては、ガンマグロブリンが主体ではあるが、その投与の方法、投与量に検討の余地がある。また、冠動脈障害などの合併症を伴った例の長期予後に関しても検討が必要である。これらの検討は、過去に行われた調査の方法にもとづいて、調査票を作成し、全国100床以上の病院を対象として調査を行う。この厚生科学研究の開始に伴い、1998年からは第15回全国調査が開始され、現在集計が終了した。今年度からは、さらに2年間にわたり、第16回全国調査が開始される。これらはすべて研究対象者に対する不利益は生じないよう、十分な配慮をもって実施される。また患者の登録に基づく追跡体制を確立し、予後因子を明らかにする。
川崎病のサーベイランスに関しては、日本における研究が、最も広範囲に長期的に継続されたものであり、非常に特色がある。更にこれを継続することに意義がある。治療研究に関しては、日本の健康保険制度との関係を考慮して行うことが必要である。ガンマグロブリン投与が現在の治療の主流であるが、投与量、投与方法について、外国(特にアメリカ)と比較して検討しなくてはならない。特に通常の投与方法で効果が得られない「不応例」に対する治療方針は未解決で、全国的にその方法の確立が望まれている。
研究方法
第15回の川崎病のサーベイランス(1997、1998年の調査)が1999年に終了し、本研究の初年度は、この15回の結果から施設による特性の分析を行った。同時に、第16回のサーベイランス(1999、2000年の調査)の計画と実施を行い、すでに全国100床以上の病院に調査票を送り、川崎病の発生状況、合併症の発生状況、検査所見等を調査中である。全国調査によってこれまでに報告された14万人のデータ及び、今後の調査のデータと、その予後に関してのデータに関して、長期的なデータベースを策定する。
不全型に関する研究として、全国調査成績から、不全型例と定型例の冠動脈障害出現頻度を比較した。早期診断に関する研究として、発熱日数の定義によって2種類の診断法を用い、両群の臨床経過の比較を行なった。さらに早期治療に関する研究として、γグロブリン療法(IVIG)を4病日以内に開始する早期治療を行なった場合の効果について調べた。本研究班において、薗部を委員長として、改訂のための小委員会を設置し、16年ぶりに本疾患の診断の手引きの改訂がすすめられた。ガンマグロブリン製剤間の治療効果および副作用について検討した。
これらの臨床的研究の他に、免疫学的にはTリンパ球の活性化に関して、Cytotoxic T lymphocyte-associated molecule-4 (CTLA-4, CD152)を測定して考察した。病理学的研究としては、免疫グロブリン療法(IVIG)不応例で急性期に死亡した例の剖検を行なった。
結果と考察
サーベイランスをもとに、本年度は第15回川崎病全国調査からみた施設特性に関する研究が行なわれた。1,825施設を対象とした調査の結果、新規の患者を診察した施設は1,071か所(59%)であった。γ-グロブリン製剤の投与方式では2,000mg/kg 1日が25~99床の施設で9%と最も割合が高く、米国式の大量単回投与法が広まり始めていた。冠動脈造影を施行する施設は9%であった。また、γ-グロブリン製剤を患者全員に投与する施設は741か所(41%)で、選択的に投与する施設が509か所(28%)であり、投与選択基準として、原田のスコアを用いているのが294か所(58%)であった。小児科病床数の多い施設では選択的に投与している傾向があるのに対し、病床数が少ない施設では患者全員に投与する傾向があることが示唆される。一方、γ-グロブリン製剤の投与方式を決めている施設で有意に患者全員に投与する割合が高かった。冠動脈造影を施行した施設の割合は第9回全国調査において18%、第13回全国調査において12%であり、減少傾向にある。これは高度な医療を提供する医療機関が少数に限定されてきていることを示すものであり、医療機関の機能の分担という点から興味深い結果である。柳川は、過去15回の全国調査で報告された患者のデータベース化を行ない、生存している者は、2001年1月1日現在153,354人であり、年齢分布をみると、成人に達している者が49,150人になることを明らかにした。
診断上の問題点に関する研究として、薗部らによる不全型に関する研究と、原田らによる発熱日数の定義による早期診断とその影響の研究が行なわれた。前者では48,000例に及ぶ全国調査成績から、主要症状が4症状以下の不全型例と5症状以上の定型例では冠動脈障害出現頻度に差がないことが判明し、主要症状数が少ないから軽症とはいえないことが示された。後者の研究では、川崎病の早期診断のために、発熱が5日未満でも主要症状の1つとみなすと、第4病日で確定診断できる例が全体の17.5%から約40%に増加し、早期診断によって入院期間の短縮効果があり、合併症の増加やガンマグロブリン必要量の増加などのデメリットが生じるevidenceはなかった。これらの研究に加え、加藤らは早期診断例に対してγグロブリン療法(IVIG)を4病日以内に開始する早期治療を行なった場合の効果について調べ、早期投与群の方が、有熱期間と解熱までの日数が有意に短く、追加投与を有した例や、冠動脈病変の合併に関しては、有意差を認めなかったことを報告した。
これらの研究や、以前から全国的にも診断の手引きの改訂を望む意見があり、本研究班において、薗部を委員長として、改訂のための小委員会を設置し、16年ぶりに本疾患の診断の手引きの改訂がすすめられた。治療法に関しては、加藤らが、乾燥スルホ化製剤、pH4処理酸性製剤、ポリエチレングリコール処理製剤の3種類のガンマグロブリン製剤間の治療効果および副作用について検討し、に原田のスコアにより投与量を決定した場合、初回治療に対する不応例、冠動脈病変、副作用のいづれについても各製剤間において有意差を認めなかった。
これらの臨床的研究の他に、免疫学的病態に関して、古川らは、Cytotoxic T lymphocyte-associated molecule-4 (CTLA-4, CD152)が、急性期の末梢血CD3およびCD4陽性Tリンパ球内で発現が増加しており、川崎病診断時には、末梢血ではTリンパ球の活性化が終息している状態であることを推論した。これは以前に川崎病急性期においてはThelper1タイプTリンパ球は免疫不応答状態にあることを述べた報告と合わせて興味深い。病理学的研究としては、直江らが免疫グロブリン療法(IVIG)不応例で急性期に死亡した例の剖検所見で、網内系組織の各所における著しい泡沫化した組織球を認め、そこには蛍光抗体法ならびに免疫組織化学的に免疫グロブリンの沈着を証明したことを報告した。近年、急性期死亡が非常に少なく、特に臨床的にIVIG不応例の報告は大変に貴重である。
現在施行されている全国調査は第16回に至り、さらにその情報量が増加している。この貴重なデータを用いた疫学的、臨床的分析により、川崎病に対する診療レベルをより高度に進歩させられることが期待される。ガンマグロブリンの選択的投与や、投与方法の施設間での不統一がある点についてはまだ日本独自のスタイルがあるが、次第に米国式の大量単回ガンマグロブリン療法をうける例が増えてきている。同投与法が、入院期間の短縮、合併症の発生抑制をもたらし、結果として医療費の削減につながることが明らかになってきている。今後は、大量単回療法を全例に行なうべきかどうか検討が必要であり、早い時期に全国的な多施設でのコントロールスタディを行うことが必須である。そのためには健康保険で2g/kg/日の投与法が認可されている必要があることが再確認された。早期診断が行なわれるようになってきており、治療もそれに伴い早期化する可能性があるが、その効果については、本班の研究ではデメリットはないと考えられた。しかし、この点については、年度末に開催した全国規模での班会議において、必ずしも第5病日以前の早期治療を肯定しない意見が分担研究者以外から述べられており、今後十分な検討が必要である。長期的な見地に立つと、柳川の報告した川崎病患者のデータベースの作成と整備は、すでに3分の1の患者が成人に達してきたことが判明し、川崎病によって生じた冠状動脈の変化が将来の虚血性心疾患の危険因子になるかという問題に焦点を絞った予後解析に非常に有用であると考える。
結論
川崎病のサーベイランスは、現在、1999,2000年の新規患者について第16回全国調査が進行中であり、これまでの15回の全国調査と合わせて、単一の疾患として世界的に類を見ない多大な情報を有している。今後もこれを続行することは、川崎病が発見されたわが国としての世界に対する義務であると考えられる.。本班研究の成果として、今回15年ぶりに診断の手引きが改訂されることになった。
ガンマグロブリン療法については、多施設で症例を累積することによって、米国での大量単回投与法との比較を行なうことが必要で、そのための保険制度の変革が急務である。原因、病態論については、徐々に本疾患の血管炎の特徴が明らかになってきており、さらに研究が続けられる必要がある。

公開日・更新日

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