障害者ケアマネジメントの総合的推進に関する研究

文献情報

文献番号
200000312A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者ケアマネジメントの総合的推進に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
白澤 政和(大阪市立大学・生活科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 加瀬 進(京都教育大学・教育学部)
  • 大島 巌(東京大学・医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本年度は、身体障害ケアマネジメントに関する研究、知的障害ケアマネジメントに関する研究、精神障害ケアマネジメントに関する研究、の障害別に研究を推進した。
身体障害ケアマネジメント研究では、ケアマネジメントの論点整理、市町村障害者生活支援事業におけるケアマネジメント実践の分析、障害児・者地域療育等支援事業のケアマネジメント実践分析、脳外傷を伴った重度障害者のケアマネジメント事例分析、の4つの研究課題を設定した。知的障害ケアマネジメント研究では、平成10年度までの進捗状況分析から示唆された体制整備推進事業における諸課題のうち、確保・充実・連携しにくい社会資源・機関とその理由、サービス調整会議による代替サービスや新たな資源開発、ケアマネジメントの位置づけと実施体制にかかる予算措置、ケアマネジメント過程への当事者参加・参画について全国状況を把握することを目的とした。精神障害ケアマネジメント研究では、精神障害者に対するケアマネジメントの実施体制を整備し、その普及をはかるために、精神障害者ケアガイドラインに基づいて行われた試行的事業の実施体制上の問題点を整理するとともに、試行事業の成果を踏まえて、精神障害者ケアマネジメントの用具類の改訂作業を行い、さらに、直接サービスを伴うケアマネジメントの実施形態について先進諸国の実例を視察して日本における効果的な実施のための方策を検討することを目的とした。
研究方法
1)身体障害ケアマネジメント研究
ケアマネジメントの論点整理では、「ニーズ」、「信頼関係」、「エンパワメント」、「自己決定」について文献研究を行った。市町村障害者生活支援事業におけるケアマネジメント実践の分析では、自立生活センターが受託している事業を対象にして、職員への面接調査を実施した。障害児・者地域療育等支援事業のケアマネジメント実践分析では、全国の234箇所の事業を対象にした郵送調査を実施した。重度障害者のケアマネジメント事例分析では、脳外傷を伴った重度障害者9事例について検討した。
2)知的障害ケアマネジメント研究
調査対象は平成11,12年度ケアマネジメント推進事業受託機関60箇所に対して、予備調査および郵送法による本調査を実施した。
3)精神障害ケアマネジメント研究
精神障害者ケアガイドラインおよび用具類改訂のための研究委員会開催した。試行的事業の実施内容と、米国の直接サービスの伴うケアマネジメントシステムを調査しガイドラインを検討するとともに、用具類の改訂について討議した。都道府県主管課を対象に、精神障害者ケアマネジメント試行的事業の実施状況と課題を把握するとともに、用具類の改善点を明らかにするための郵送法調査を行った。米国4都市(資料収集は8都市分)のケアマネジメントシステムを視察し、関連資料を収集した。
結果と考察
1)身体障害ケアマネジメント研究
ケアマネジメントの論点整理では、「自立・自己決定」を重視する支援方法について考察を深めることができた。市町村障害者生活支援事業におけるケアマネジメント実践の分析では、支援内容の説明とニーズの引き出し方に当事者による相談支援活動の重要性が示された。障害児・者地域療育等支援事業のケアマネジメント実践分析では、129箇所(回収率55.1%)から回答を得た。 受託施設の種類は、知的障害者入所更生施設41(31.8%)、知的障害児施設15(11.6%)、肢体不自由児施設11(8.5%)、重症心身障害児施設11(8.5%)が高く、通所・通園施設の割合は低かった。ケアマネジメント実践度25項目を主因子法による因子分析を行い5因子(「本人の意思尊重」「アセスメント」「ケアプラン評価」「地域での新たなサービス開発」「ケアプラン実施」)が抽出された。自由回答の分析によりケアマネジメント実践上の課題として、「地域の社会資源の不足」、「関係機関との連携・システムの不備」、「行政・関係機関における支援事業への理解不足」の3点に関連する回答が多くみられた。重度障害者のケアマネジメント事例分析では、家族の介護負担状況が明らかにされ、家族を含んだアセスメントの重要性が明らかになった。
2)知的障害ケアマネジメント研究
回収数は42(回収率は70.0%)。確保・充実・連携しにくい社会資源・機関とその理由について、ホームヘルパーはガイドヘルパーと合わせると57.2%/人員不足で第一位となる。医療機関/42.9%、行政担当者/40.5%、医療・教育を除く関係機関/35.7%、教育関係機関/19.0%で、いずれも認識不足が指摘されている。グループホームは26.2%で緊急対応の困難さの指摘が多い。サービス調整会議による代替サービスや新たな資源開発について、「相当する会議を設置」している25カ所の内、会議によって資源開発に至った経験を有するとしたところは2カ所、会議+首長レベルとの協議が必要であったとするところが1カ所、すでに機能している「連絡協議会」的なネットワークとの連携でとするところが1カ所、これまでの蓄積をもとに相応に機能し始めているとするところが3カ所で、これらを合計しても7カ所、42回答中に16.7%を占めるに過ぎない。「設置の途上(5カ所)」「設置していない(12カ所)」の中に相当の会議はあるが代替サービスや新たな社会資源の開発には至っていないという理由で「途上」「設置していない」と回答したところが4カ所ある。一方、「相当する会議を設置」している25カ所の内、上記で取り上げた7カ所を除く18カ所は同様の状況にあるか、個別のケア会議レベルとも読みとれる状況にある。
3)精神障害ケアマネジメント研究
ケマネジメント試行的事業実施状況調査、調査票の回収率は100%だった。平成12年度に精神障害者ケアマネジメント体制整備推進事業を実施した都道府県・政令市は53団体(89.8%)、試行的事業実施は40団体(67.8%)である。7割以上の都道府県では「3障害合同」で事業実施をしていた。精神障害単独で事業実施の県では、9割弱で具体的なサービス提供ができているのに対し、3障害合同の実施県ではサービス提供ができている割合が6割と少ないかった。用具類については概ね好意的に受け入れられていたが、アセスメント結果をケア計画に結びつける方法、ケア計画書にケア目標を明示できないこと、アセスメント票の客観評価の基準が曖昧であることなどの指摘がされた。利用者の視点でケア計画書が使用できるように配慮、ケア目標の記載欄を追加、ケア計画分析表を「仮のケア計画」(ケアマネジャー素案)と、「ケア計画」に分ける等の改訂を、「ケアサービスに関する説明書」では、各段階に利用者の視点で生じる疑問に答える形式に書き改めた。「手引き」は、面接の進め方について加筆し、また評価基準の見直しを行いより明確なポイントを設定した。米国ケアマネジメントシステム調査、精神障害者に対するケアマネジメントでは、直接サービスが伴うケアマネジメントが中心であり、特に障害の重い人たちに対しては集中型ケアマネジメントが体系的に整備されつつあった。
結論
身体障害ケアマネジメント研究では、障害者自身の自己決定に基盤を置いた支援方法を構築する上で重要な所見を得た。市町村障害者生活支援事業でピアカウンセリングを重視したケアマネジメント実践を行っている機関の事例調査ではセルフマネジメントの進め方について示唆を得、自立生活センターでのケアマネジメントに活用できる所見を得た。障害児・者地域療育等支援事業の調査では、この事業におけるケアマネジメントの特徴と課題を解明し、この事業を基にしたケアマネジメント推進に応用できる知見を得た。知的障害ケアマネジメント研究ではケアマネジメント推進体制の課題分析を行い、今後の体制整備に寄与する所見を得た。精神障害ケアマネジメント研究では、都道府県のケアマネジメント推進体制整備の現状調査を実施し、今後の体制整備への知見を得た。また用具類の改訂に関する検討を多角的に行い、より有効なニーズ把握とケアプラン作成の実践に寄与できるケアマネジメント指針の方向性を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)