精神病院・社会復帰施設の評価及び情報提供のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200000310A
報告書区分
総括
研究課題名
精神病院・社会復帰施設の評価及び情報提供のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
竹島 正(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 須藤浩一郎(土佐病院)
  • 永田耕治(長崎大学)
  • 佐藤忠彦(桜ヶ丘記念病院)
  • 浅野弘毅(仙台市立病院)
  • 寺田一郎(ワーナーホーム)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神保健福祉施策は地域ケアの方向に多様化しており,その全体像を把握することはきわめて重要となっている。厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部精神保健福祉課では,毎年6月30日付で,精神保健福祉課長から都道府県・政令指定都市の精神保健福祉主管部(局)長に「精神保健福祉関係資料の作成について」という文書依頼を行い,全国の精神病院,精神科デイケア施設,精神障害者社会復帰施設等の状況についての資料を得ている。この資料収集は,全国の精神病院・社会復帰施設等の協力によって継続されており,我が国の現況を把握する貴重な資料となっている。本研究においては,平成12年6月30日付で実施された調査(以下,12年度調査という)を,厚生科学研究の立場から解析し,多様化する精神保健福祉施策の実施状況のモニタリングに役立てることとした。また個人情報保護法の検討がすすむなか,精神科医療の現場において診療情報の開示を進める場合の課題について検討した。
研究方法
「精神保健福祉情報の整備と施策の評価に関する研究(分担研究者 竹島 正)」においては,12年度調査結果の概要を総括した。
「精神病院の機能評価に関する研究(分担研究者 須藤浩一郎)」においては,12年度調査における精神病院の施設,在院・入退院患者の状況等をもとに,精神病院の機能を観察する視点を提示した。
「痴呆性疾患専門病棟の機能評価に関する研究(分担研究者 永田耕治)」においては,12年度調査における痴呆性疾患専門病棟の利用状況等をもとに,痴呆性疾患専門病棟の機能を観察する視点を提示した。
「精神科デイケア等の機能評価に関する研究(分担研究者 浅野弘毅)」においては,12年度調査における精神科デイケア施設等の調査票をもとに,精神科デイケア施設等の運営状況を観察する視点を提示した。
「社会復帰施設の機能評価に関する研究(分担研究者 寺田一郎)」においては,12年度調査における社会復帰施設等の調査票をもとに,社会復帰施設等の機能を観察する視点を提示した。
「精神科医療施設における診療情報開示のあり方に関する研究(分担研究者 佐藤忠彦)においては,「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会報告書」「診療情報の活用に関する指針」、その他の関連団体の指針等で提示されている諸概念や論点の整理を整理検討した。また事例検討と文献資料等の収集と分析を行った。
結果と考察
精神病院の状況:「精神病院の機能評価に関する研究(分担研究者 須藤浩一郎)」:12年度調査の結果,精神病院1,667施設の病床数は348,966で,在院患者数は333,003人(病床利用率95.4%)であった。入院形態別では,措置入院3,247人(1.0%),医療保護入院105,359人(31.6%),任意入院220,840人(66.3%),その他の入院3,557人(1.1%)であった。入院期間別では,1年未満98,902人(29.7%),1年以上5年未満87,778人(26.4%),5年以上146,323人(43.9%)であった。5年以上の在院患者数は在院患者の高齢化が進み,65歳以上は112,137人(33.7%)とはじめて3分の1以上を超えた。また平成11年6月入院患者数は26,889人で,平成12年6月の残留患者数は3,897人(1年後残留率は14.5%)であった。平成10年6月入院患者の1年後残留率は18.3%であり,前年度に比べて入院日数は短くなっていた。
痴呆性疾患専門病棟は,治療病棟が病棟数171,病床数8,607床,療養病棟が病棟数224,病床11,766床であった。治療病棟への入院患者数は9,249人,療養病棟への入院患者数は5,075人であり,治療病棟の方が療養病棟に比べて入院日数が短いと推測された。入院患者の退院先は,治療病棟では,精神科以外の病院23.9%,家庭復帰31.4%,死亡9.8%,特別養護老人ホーム12.2%,老人保健施設14.8%等であった。これに対して療養病棟では,家庭復帰23.7%,精神科以外の病院30.6%,老人保健施設9.9%,特別養護老人ホーム,12.0%,死亡19.7%等であり,治療病棟と療養病棟の果たしている役割に違いがあることが考えられた。
精神科デイケアの施設基準承認施設数は,単科精神病院518,一般病院精神科200,精神科診療所232等の計976施設であり,昨年よりも112施設増加していた。平成12年6月1ヶ月間の利用実人員は44,583人,延べ人員は432,886人であって,1人あたりの月あたり平均利用日数は9.7回であった。
精神障害者社会復帰施設等の設置数は,生活訓練施設205,福祉ホーム112,通所授産施設169,入所授産施設21,福祉工場12,グループホーム781,地域生活支援センター189であった。このうち社会復帰施設の入所施設(生活訓練施設,福祉ホーム,入所授産施設)の定員合計は5,821,グループホームは4,236人で,利用者数は社会復帰施設4,216人(利用率は72.4%),グループホーム3,737人(利用率は88.2%)であった。またグループホームを含む入所施設利用者の年齢は,20歳未満37人,20歳以上40歳未満2,024人,40歳以上65歳未満5,350人,65歳以上562人で,65歳以上の割合は7.1%であった。
また地域精神保健福祉対策として, 精神保健福祉法23~27条の運用状況,平成11年法改正で制度化された移送制度の実施状況等も把握した。これらの結果から,都道府県・政令指定都市によって,制度運用に違いがあることが推測された。
12年度調査によって我が国の精神保健福祉の状況がより包括的に把握できるようになった。本調査に基づく研究は,精神保健福祉施策の今後のあり方を検討する資料としてきわめて有用である。
「精神科医療施設における診療情報開示のあり方に関する研究(分担研究者 佐藤忠彦)」においては,カルテ等の診療情報開示の開示における条件と環境の整備について検討した。その結果,精神科医療 においても身体各科と同様にカルテ開示を進めるべきであり、また可能であるとの結論を得た。しかし精神科医療においては、治療過程の進捗状況や治療者-患者関係を吟味しながら行う必要があり、機械的な開示は反治療的となる危険性があることを考慮しなければならない。また病名告知、判断能力、非自発的入院、いわゆる「触法・他害」等の課題については、具体的な事例に則して一層の検討を要する。診療情報開示については,「日医指針」制定後2年が経ち,全国的に経験が集積されている段階である。精神科の場合,全般的に条件と環境の整備を行う必要があるものの,今後,医療機関や医療従事者などの医療提供側,当事者や市民団体の実情,諸外国の状況の調査を行う等,研究を継続する必要がある。
結論
本研究は,精神保健福祉の現況と精神保健福祉法の施行状況を,全国規模で,総合的・継続的に観察・評価するとともに,精神病院,精神科デイケア施設,社会復帰施設等の機能と,精神障害者への情報開示のあり方を検討することによって,国の政策形成に大きく寄与するものである。精神保健福祉の政策を地域ケアの方向に転換した国々では,精神保健福祉施策の実施状況や課題をモニタリングし,その結果を施策に反映するとともに,利用者に情報提供するシステムが構築されつつある。我が国でも,国,都道府県行政あるいは日本精神病院協会等による情報収集と資料作成によって,その概況が把握されつつあるが,その全体像を把握できる総合的な情報システムの構築には至っていない。本研究は,我が国におけるモニタリングシステム構築に重要な意義を持つものである。

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