精神障害者の社会復帰に向けた体制整備のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200000308A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害者の社会復帰に向けた体制整備のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
北川 定謙(埼玉県立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 谷中輝雄(社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会)
  • 寺田一郎(社会福祉法人ワーナーホーム)
  • 増田令子(社会福祉法人全国精神障害者社会復帰施設協会)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「入院中心から社会復帰施設へ」、「社会復帰施設から地域社会へ」と法の整備、施策の充実が図られ、社会復帰施設が整備されてきた。その一方で、公衆衛生審議会精神保健福祉部会「精神保健法施行のための専門委員会(福祉部会)」においては、居室面積等の構造に関するもの、人権に配慮した援助計画、運営の透明性等の課題が指摘された。さらに障害を抱えながら地域社会で生活する人たちの増加、家族の高齢化、単身生活者の増加なども顕著となってきた。このような状況のなかで、施設現場では時代の要請と変化に対応しきれていない不安があり、この調査研究では、施設におけるサービスの場面で生じている様々な事実を集約しながら、「施設運営」と「援助内容」等に関する具体的な課題を取りまとめ、社会復帰施設の望ましいあり方に向けての指針を示すことを目的とした。併せて従事者の熱意と資質の向上を図るための研修システムのあり方を提言することも目的とした。
研究方法
平成11年度に実施した「社会復帰施設等に関する全国状況調査」(地域保健総合推進事業)によるデータを基礎資料として、社会復帰施設のうち12年度から社会復帰施設に組み込まれた地域生活支援センターを調査対象としたアンケート調査を行った。調査票を217カ所に郵送する方法で行い、174施設から回答を得た。この調査では利用者に対する具体的なサービスの実施状況を数値化して把握することを試みた。また、この調査と平行して全国4ブロックで研究集会を行い、施設現場からの意見を集約した。
結果と考察
地域生活支援センター調査では、施設の概況(設置主体、運営主体、開設時期、他施設への附置状況)、運営の状況(職員配置、利用者、相談実態、行われているサービス)、運営に関する意見及び具体的なサービスの実施状況に関する個別調査を行った。その結果、設置主体において社会福祉法人が37.2%、医療法人が37.8%とほとんど並んで両者の合計は75%を占めていた。この傾向は運営主体においても同様であった(社会福祉法人40.7%、医療法人39.5%)。開設年次では地域生活支援が事業化された1996年度から施設整備が進められ、1999年度にはピークを迎えている。なお、支援センターは事業化されたときから他の社会復帰施設に附置して設置できるものとされてきた経緯を反映して、今回の調査でもいずれかの設備を他の施設と共有している支援センターが83.3%であった。法改正により2000年度から地域生活支援センターは独立した社会復帰施設として法体系に組み込まれたものであるが、今後どのような形で展開するのか注目したいところである。職員配置については、2000年度に運営基準が省令として示され、施設長1名、精神保健福祉士1名以上、社会復帰指導員1名以上を常勤で置くこととされた。今回の調査では、74.8%が専任の施設長を置いていた。精神保健福祉士では1名配置が62.2%と最多であった。社会復帰指導員では、1名~2名を配置しているところが72.1%を占めていた。運営基準では必置とされていない事務員は90.7%で置いていない。同じく看護婦について96.5%、栄養士100%、医師99.4%の施設で配置されていなかった。制度改正は、施設長、精神保健福祉士及び社会復帰指導員各1名の常勤配置を100%とするように要求しているが、地域生活支援センターの独立性とも関連して運営に大きな影響が予想される事項である。夜間の対応は日直・宿直を置いているところが21.1%、携帯電話等にて対応しているところが42.1%であった。利用者について登録制を採っているところが73%
であったが、登録していない者の利用を認めている(併用制)ところも26.2%であった。1999年度までの登録者の累計は、51人~75人28.7%、26人~50人25.4%、76人~100人13.9%、26人未満11.5%など79.5%が100人以内であった。1999年の1年間での新規登録者は77%が50人以内であった。登録時点での他の福祉サービスの利用状況では、デイケアを85%が利用していたが、通所授産施設・福祉工場、作業所、生活訓練施設・福祉ホーム、グループホームなどでは半数以上が利用していなかった。支援センターが行っているサービスのうち、中心となる相談事業の利用状況では、1999年度1年間の相談件数が3,001件以上(延べ)が15.8%で最も多かったが、1,001人以上で50.8%を占めていた。これが実人数では100人以下が67.3%であり1人が繰り返し相談していることが窺える。支援センターが行っている活動では、有効回答のうち相談事業は100%のセンターで行っており、以下家事援助67.2%、金銭管理52.1%、身辺の清潔保持67.8%、給食47.9%、配食(宅配)12.6%、入浴62.7%、公共機関の利用援助94.1%、レクリエーション参加99.2%、服薬・通院援助90.1%、就労支援90.8%であったが、憩いの場を提供しているとするところも97.5%であった。サテライト(生活支援センターの機能の一部を行うために、本施設以外の場所に設定された場所)では、相談100%、公共機関の利用援助76.9%、憩いの場93.3%、レクリエーションへの参加85.7%などが多く行われていたが、施設の絶対数からは少ないと思われる。個別調査では、年齢・性別など基礎的データとサービス利用の状況を把握した。1週間に利用した人の実数は4,098人であり、そのうち男性68.1%、女性31.9%であった。年齢は有効回答4,078人のうち40歳代27.6%、30歳代26.9%、50歳代22.2%で合計76.7%を占めた。74.4%が精神分裂病であった。居住形態では単身生活者27.9%、家族同居51.6%であった。76.9%が同一市町村に住んでいるが、約2割は隣接の市町村から利用している。61.6%が30分以内の所要時間で通えるが30~60分も約3割であった。支援活動では、特定の1週間の利用者について、実施したサービスを全て記録してもらった。利用者実数4,098人のうち1週間で1回以上相談した人は2,150人(52.5%)、憩いの場2,701人(65.9%)、レクリエーションへの参加1,135人(27.7)と多く、家事援助の利用、金銭管理、身辺の清潔保持、入浴、公共機関の利用援助などは少ないが、実態をさらに分析する必要がある。以上のように地域生活支援センターは2000年度から社会復帰施設へ組み込まれたが、主に社会福祉法人及び医療法人で運営され、利用者の実態は30歳代~50歳代を中心として、男性が多く利用している。実施されているサービスは、相談業務や憩いの場の提供を中心として家事援助、金銭管理、身辺の清潔保持、入浴など多岐に渡っていた。利用の状況は、利用者のうち半数以上が相談や憩いの場を利用していた。なお、隣接市町村からの利用者や30~60分をかけて通っている実態も明らかとなり、施設整備の課題とも言える。記述式による意見では、運営に関する不安が寄せられ、研究集会では職員研修への要望が多かった。
結論
地域生活支援センターでは、相談業務や憩いの場の提供を中心として家事援助、金銭管理、身辺の清潔保持、入浴など多岐に渡って行っているが、地域の状況に応じて実施されていることが推量されるが、運営基準が要求していないサービスもかなりの割合で行われており、職員配置の再検討が必要である。グループホームや生活訓練施設利用者が利用している状況もあり他施設との関係も整理する必要がある。隣接市町村からの利用者や30~60分をかけて通っている実態は早急に改善する必要がある。期待されている職員研修は、計画的な実施が望まれる。

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