精神病院等の設備構造及び人員配置の在り方に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000307A
報告書区分
総括
研究課題名
精神病院等の設備構造及び人員配置の在り方に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 輝彦(国立精神・神経センター国府台病院)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口輝彦(国立精神・神経センター国府台病院)
  • 長澤泰(東京大学工学部建築学科)
  • 広瀬徹也(帝京大学医学部)
  • 山上皓(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 小宮山徳太郎(国立精神・神経センター武蔵病院)
  • 伊藤弘人(国立医療・病院管理研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神病床が急増した昭和30年代前後からすでに40年以上が経過し、多くの精神科病棟の治療・療養環境は、現在の国民の生活水準に十分に適合しない側面がでてきている。さらに、多様なニーズに応じたきめ細かな医療サービスが提供できるよう精神病床の機能分化のあり方を検討すること(平成12年1月25日公衆衛生審議会意見書)は急務ということができる。本研究の目的は、精神科入院患者数の動向をふまえて必要な医療費を予測しながら、精神疾患の特性、診療内容および国民の生活水準に応じた入院施設の設備構造、人員配置、治療内容を検討するものである。
研究方法
研究方法は、研究班を組織して、欧米先進7カ国での病院の調査を行い(分担研究1)、国民の生活水準に応じた治療・療養環境を明らかにし(分担研究2)、診療内容に関する現状を把握するとともに(分担研究3)、触法行為を繰り返す治療困難者(分担研究4)、薬物中毒等の患者(分担研究5)について個別に分析するとともに、精神科病床の将来推計を行う(分担研究6)。以下に具体的な方法を示す。(1)樋口輝彦分担研究者を中心とした研究グループで(以下樋口班とする)は、欧米先進7カ国の代表的な8病院に対して、病棟構成、病床数、人員配置(医師、看護婦、看護助手、コ・メディカルスタッフ、夜勤体制)、病棟平面図などに関するアンケート調査を行った。(2)長澤泰分担研究者を中心とした研究グループ(以下長澤班)では、全国の精神病院を対象として、調査票を郵送にて送付し、記入を依頼した。分析対象は、施設概要調査票は129病院分(調査対象の約12.2%)、病棟概要調査票は554病棟分(8,214病室)である。(3)広瀬徹也分担研究者を中心とした研究グループ(以下広瀬班)では、日本精神神経学会会員を3つの方法によって、日常的な1週間の受診患者特性、診療概要、記載精神科医の個人特性を調査した。すなわち、(a)日本精神神経学会会員全8,742から他科医師135名およびその他の専門職124名を除いた8,483名から無作為に抽出した一般会員106名、(b)150名の学会評議員から無作為に抽出した80名、(c)80大学医学部精神医学講座から無作為に抽出した21講座の20~50歳代の医局員各4名の合計84名である。(4)山上皓分担研究者を中心とした研究グループでは、精神保健福祉法第25条に基づく通報(いわゆる検察官通報)によって措置入院とされた触法精神障害者の処遇の実態についてのアンケート調査を実施するとともに、触法精神障害者を多数収容する国内の精神病院を訪問して、触法精神障害者の治療環境の実態について調査を実施した。(5)小宮山徳太郎分担研究者を中心とした研究グループでは、情報が十分得られかつ協力の得られ易い簡潔なアンケートを作成し、全国の国立病院、国立療養所、都道府県・市立病院、精神保健福祉センター、民間精神病院、民間精神科クリニック等はアンケートを送付し、その結果を集計整理した。(6)伊藤弘人分担研究者を中心とした研究グループでは、精神病床を有する全国立病院(36病院)のうち、本調査への協力を得られた19病院である。調査内容は、「在院患者調査(2,137名)」および「入院患者調査(832名)」の2種類の調査から構成され、平成12年8月31日から平成13年1月31日までの調査期間で実施された。
結果と考察
(1)樋口研究班では、(a)病棟構造については、各病院とも1病棟の病床数が多くても30床とわが国にくらべ少ない。病室は多くが個室であり、ラウ
ンジ、食堂等のスペースも充実していた。(b)人員配置については、医療制度の違いのため単純な比較は困難であるが、医師、看護婦、看護助手、コ・メディカルスタッフ数ともわが国にくらべ濃厚に配置されていた。(2)長澤研究班では、(a)病院としては建ぺい率および容積率において、将来的な拡大の余地を大きく残していること、(b)医療法上の精神病床の特例によると、現状では、多くの病院が満たしていないこと、(c)精神科急性期治療病棟の疾病名や入院期間を見ると、急性期といった概念の位置付けと実体との解離が存在すると考えられること、(d)入院期間が3ヶ月未満の患者の割合と看護力との間に、関連があることが明らかとなり、看護職の人員確保が重要であること、(e)クラスター分析の結果によると5グループに分類されたが既存の1看護単位の病床規模が大きいために様々な疾病の患者を混在させている病棟も存在していること、(f)病室としては、差額の病室においては、患者が特別の負担をするのに、ふさわしい療養環境が整っていないこと、が明らかとなった。(3)広瀬研究班の調査の結果によると、回答した一般会員は、民間精神病院に勤務し、多くの高齢者の入院患者を診療し、外来患者に対する診察時間が長く、社会精神医学に関心を持っていた。一方、大学医局員は、私立大学の若い層の医師で、若年層の患者を操作的診断を用いて、気分障害やせん妄を有する患者を診療し、入院患者への1人あたりの診察時間は長く、他科入院患者への診察時間も長く、生物学的精神医学に関心を持って医学研究を行い、当直日数・回数も多かった。評議員は、おおよそその中間であった。(4)山上研究班では、現在のところの分析では、措置入院を受け入れる病院が少なく、25条通報によるものに限ればその傾向がなお顕著であった。個人調査票では、男女比が6:1で、平均年齢は41歳であった。精神医学的診断では、精神分裂病が61%、薬物関連障害が17%であった。対象者の40%が入院中に問題行動を起こしていた。また、調査時点で措置解除済みのものが75%を占めていた。(5)小宮山研究班では、調査対象301箇所のうち159箇所から回答を得て、回収率52.8%であった。患者総数は1414名でそのうち15箇所の専門病棟に計768名全体の54.3%が入院していた。非専門病棟で10名以上入院していたのは24箇所あり、10名以下入院していたのは44箇所であった。専門病棟の半数以上が閉鎖病棟であった。専門病棟では集団精神療法、疾病教育、作業療法、運動療法、家族療法、自助会メッセージが広く行われ、作業療法士や臨床心理士が各1名以上の配置がされていた。社会資源利用では、自助会以外は利用が限られていた。専門病棟の66%が作業所を利用していたが、他の社会資源の利用は稀であった。治療理念では、専門病棟の70%以上が社会復帰まで考えていた。それに対して入院が少ない非専門病棟は解毒の割合が高く、非入院施設は社会復帰を自助会に任せる傾向が見られた。(6)伊藤研究班では、国立病院での在院・入院患者の動態調査によって、(1)退院は、年齢別、病棟別、医療保険別、および診断別で異なること、性別、入院歴や入院形態では異ならないことが明らかになった。在院患者および新規入院患者の双方において、高齢であること、医療保険が生活保護であること、診断が精神分裂病または器質性精神障害(主に痴呆)であることが退院を遅らせる要因であることが示唆された。
結論
以上の研究により、海外では1病棟の病床数が多くても30床で、病室は多くが個室であり、ラウンジ、食堂等のスペースも充実していた。人員配置については、専門職員数はわが国にくらべ濃厚に配置されていた。一方、わが国における病院は、拡大できるスペースはあるが、医療法上の基準を病院が満たしていない病院が少なからず存在していた。精神科における急性期といった概念の位置付けと実体との解離が存在しているが、ある程度の病棟類型が可能であることが明らかになった。診療を担う精神科医については、一般会員、大学医局員および日本精神神経学会評議員で、診療場所、患者特性および専門性が異なることが明らかになり、実態
をより正確に把握する調査方法の検討が今後必要となる。個別のグループにおいて、まず触法行為を繰り返す治療困難者については、男性で、精神分裂病を有し、40%が入院中に問題行動を起こしていることが明らかになった。薬物中毒等の患者は、54.3%が専門棟に入院していた。専門病棟の半数以上が閉鎖病棟であり、専門病棟では集団精神療法、疾病教育、作業療法、運動療法、家族療法、自助会メッセージが広く行われ、作業療法士や臨床心理士が各1名以上の配置がされていた。精神病床の利用は、年齢別、病棟別、医療保険別、および診断別で異なることが明らかになったため、今後はこれらの特性を係数化して将来の精神病床の推計を行う。以上の研究結果は、精神病院等の設備構造及び人員配置の在り方の検討に際して有益な資料となる。ただし、結果の妥当性等の検討など、今年度の調査にはいくつかの限界があるため、それらの課題を来年度以降さらに検討する必要がある。

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