知的障害児の医学的診断のあり方と療育・教育連携に関する研究

文献情報

文献番号
200000302A
報告書区分
総括
研究課題名
知的障害児の医学的診断のあり方と療育・教育連携に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
加我 牧子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 杉江秀夫(浜松発達療育センター)
  • 難波栄二(鳥取大学遺伝子実験施設)
  • 西脇俊二(国立秩父学園医務課)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
知的障害児は幼児期に精神運動発達や言語発達の遅れを主訴として小児科外来を受診することが多い。これらの児に多発小奇形がある場合、染色体検査を行なうことはほぼ共通している。しかし理学的所見が乏しい知的障害児に、医学的診断検査をどこまで行なうかは主治医の考え方や診療現場の設備に影響されるなど議論がある。一方で遺伝子診断も臨床に取り入れられる機会が増加してきている。さらに医学的診断が教育・療育の現場でどのようにいかされるのかも重要な関心事である。そこで1.知的障害児の医学的診断検査をどのように行うのがよいか、2.また療育・教育現場との連携をどのようにシステム化するのがよいか明らかにすることを目的として研究を行った。
研究方法
今年度、加我はまず医学的診断検査の現況を明らかにし、担当医の遺伝子診断についての考え方や療育・教育連携についての対応を調査することにした。調査対象は幼児期に知的障害の診断を求められる機会の多い小児科医とした。内訳は日本小児神経学会ならびに日本小児科学会に所属する医師330名、関東地区複数の医師会に所属する小児科医師100名の合計430名とした。調査は二段階に分けて行ったが内容は具体的な診断検査項目を提示し、例示した3症例に対してどの検査を用いるかについて結果的に「必ず調べる」から「調べない」の3段階に「わからない」を加えた4段階で回答を求め、自由回答によって、その他に計画される検査を質問し、質問紙の構成や調査への意見を求めた。さらに遺伝子診断の意義や考え方、知的障害児の療育・教育への連携方法や考え方についても問うた。回答者の性別や年齢、医師経験、勤務先の概要、勤務先での地位、診療の対象としている児の疾患によるおよその構成について回答を求めた。これらの質問紙を郵送にて該当者に送り、同封した返信用封筒にて無記名で返送を求めた。
杉江は外来を受診した知的障害男児に対する遺伝子診断を臨床にとりいれている。この立場から、脆弱X症候群遺伝子検査の承諾を得られた394名を対象としてFMR-1遺伝子の発現を検討した。また難波はsingle nucleotide polymorphisms (SNPs)を用いた関連遺伝子解析を行った。
西脇は地域の養護学校、心障学級等の教員に対して医学・医療との連携の実態に関する調査を行った。
さらに医療・教育連携システムの構築をめざして、杉江は教育機関との連絡調整のためモデル的なシステムとして教育側との相談窓口を所属施設内に作り、家族の了解を得て教育側との面談を実践した。
結果と考察
医学的診断検査の現況についての小児科医に対する調査は結果として107名(24.9%)の回答が得られ、基礎医学者など3名をのぞく104名の回答を最終的に解析することにした。回答者となった医師の多くは、国公立の大規模な総合病院もしくは大学病院に勤務する、医師としての経験が20年以上のベテランであり、部長や医長など職場では責任のある立場にあった。
調査の結果、3つのタイプの知的障害児ともに血液・尿検査とならんでCTスキャンやMRIなどの画像診断検査、脳波、聴性脳幹反応などの神経生理学的検査が多数の医師によってルーチンに近い検査として選択されることが判明した。療育・教育については院内の多の部門を紹介するとした者が多かったが、院外の施設、院外の社会資源を利用しようとすると地域格差が厳然として存在することがうかがわれた。症例別の細部にわたる解析は明年以降に行う予定としている。
杉江の解析例394名のなかから脆弱X症候群が5家系6例で診断されたことが報告され今後の対応を考える上での基礎データが得られた。また難波の解析により自閉症にはセロトニン受容体遺伝子の一部であるHTR1A遺伝子が関連する可能性が示された。
杉江の教育側との面談件数は小学校普通級との面談が多くついで幼稚園が多かった。知的障害が最も多く、学習障害、自閉性障害が続いた。面談件数はのべ251件におよんだ。
西脇は109の学級の担任教員からの回答を解析し、外部医療機関への相談経験は37.6%に及び、効果や満足感に一定の評価を得ているものの、相談の継続性の少なさなど問題点も判明した。
医療・教育連携に際しては教育側と医療情報に関する問題を相談することになるため、プライバシーを考慮した連携システムの構築が重要であることが確認された。
脆弱X症候群の知的障害男児に占める割合が明らかにされ、今後の対応を考える上での基礎データが得られた。また自閉症にはセロトニン受容体遺伝子の一部であるHTR1A遺伝子が関連する可能性が示され、自閉症の発症機構の解明、ひいては治療にむすびつくデータとして期待できる。
医療・教育連携システムの構築をめざして、教育機関の連絡調整のためモデル的なシステムを作り、家族の了解を得て教育側との面談を実践した。教育側と医療情報に関する問題を相談することになるため、プライバシーを考慮した連携システムの構築が重要であることが確認され、医療―療育・教育の密接な連携の必要性が認識された。
これらを総合して次年度以降、遺伝子診断を含め、診断に用いられる有効な診
断検査バッテリーの作成開発と診断後の療育・教育への連携のため包括的な検討
を加え提案していく必要がある。
結論
遺伝子診断を含め、診断に用いられる有効な検査バッテリーの作成開発と診断後の療育・教育への連携のため包括的な検討を加え提案していく必要がある。

公開日・更新日

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更新日
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