精神医療における看護ケア必要度に関する研究

文献情報

文献番号
200000296A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療における看護ケア必要度に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
池上 直己(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
看護ケアの効率的かつ適正な提供を進めるには、その基盤として、看護ケアの必要度並びにそのコストを把握する方法の確立が求められている。その方法としては、看護ケア等のコストを反映し、且つ臨床的にも意味のある状態像で構成される分類方法(ケースミックス分類)が有用である。これを基礎とすることで、ケアのニーズに対応したより合理的な診療報酬や看護スタッフの適正な配置が可能になる。また、臨床的にも意味のある分類とすることで、各分類毎にケアの内容を検討することができ、ケアの標準化にも資することが期待できるからである。
主任研究者らは、過去に厚生科学研究の補助を受けて単科精神病院における看護ケア等の実態についての調査を実施し、ケースミックス分類を開発してきたが、この分類方法を確立するためには、この分類が臨床現場の看護婦や医師の実感を反映し、違和感のないものであるることを確認する必要があった。また、ケアの提供量とケアのアウトカム(転帰)の関係についても分析する必要があった。
そこで本研究では、第一に、同分類が臨床現場の感覚から見て妥当であるか検証した。具体的には、様々な看護形態や経営主体を含むように選ばれた調査対象病院の入院患者に対して、ケースミックス分類を構成する患者特性のアセスメントを実施する。そして、分類結果をフィードバックして、臨床像とケアの相対量の両面で、臨床現場の看護婦や医師の感覚と対応しているか評価を求め、同分類を日常の臨床場面で利用することが可能であるか検討した。第二に、ケアの提供量について、相対的に捉えるだけでなく絶対量としては、ケアの質の面から見てどの程度のケアが必要とされるかを検討した。具体的には、上述の平成5年度の研究で調査した患者について、各調査病院で前回調査後の経過についての調査を実施し、看護基準すなわち配置された看護人員数などによるケアの提供量の相違がアウトカム(ケアの転帰)で見たケアの質にどのように影響しているか分析した。
研究方法
1.ケースミックス分類による分類結果の妥当性についての検証  18の単科精神病院(自治体立病院5、民間病院13)を調査対象病院として選び、各病院の代表的な閉鎖病棟・開放病棟の入院患者を対象に、ケースミックス分類に必要な患者特性のアセスメントを主治医並びに病棟婦長が実施した。このアセスメントデータから、主任研究者らが開発したケースミックス分類に従って、各患者が該当する分類を求めると共に、その分類のCase Mix Index(1日当たりのケアのコストに対応する指数)に基づくケアの相対量を算出した。そしてこの分類結果とケアの相対量を、担当の病棟婦長及び主治医に提示して、臨床像とケアの相対量の両面について実際を適切に反映しているか評価を求め、その結果を分析した。
2.ケアのアウトカムに関する分析 平成5年度の調査対象となった19病院のうち協力の得られた18病院において、前回の調査対象患者について、平成11年10月1日時点での追跡調査を行った。まず、現在も入院を継続しているか否かを把握し、既に退院した患者については、退院日を調査し、当該病院に入院を継続している患者と退院後も当該病院外来に通院している患者については、BPRS(簡易精神症状評価尺度)、WHO/DAS(精神医学的能力障害評価面接基準)、GAF(機能の全体的評価)等を使用して、現在の状態を包括的に調査した。なお、以上の調査は、各患者に対して本研究の趣旨等を説明し同意を得た上で実施した。加えて、対象患者には調査固有のID番号を付け、患者のカルテ番号等をデータベースに含まないようにするなど、データベース構築・解析時のプライバシーの保全にも万全を期すと共に、本研究の成果は、いかなる状況でも個人を特定できないよう留意して、集積データの統計的な分析結果としてのみ発表する。
結果と考察
1.ケースミックス分類による分類結果の妥当性についての検証  対象病院は18病院で、対象となった患者数は1,998人である。ケースミックス分類の該当する分類のCase Mix Index(1日あたりのケアのコストを反映する指数)から換算されたケアの相対量が実際を反映しているかについては、主治医評価では1,881人(94.1%)、病棟婦長の評価では1,896人(94.9%)の患者で「ほぼ妥当」ないしは「許容範囲内」と評価された。また、該当する分類の臨床像が実際の臨床像を反映しているか否かについては、主治医評価では1,940人(97.1%)、病棟婦長の評価では1,909人(95.5%)の患者で適合しているか「許容範囲内」と評価された。以上の結果から、筆者らが開発したケースミックス分類は、統計的な妥当性があるだけでなく、ケアの相対量と臨床像の両面において、精神科医並びに看護婦(士)の実感とも合致していることが確認された。
2.ケアのアウトカムに関する分析 追跡調査の対象患者は2,381人であった。その現在の状況は調査病院入院中(前回調査以降退院歴なし)が896人(38.0%)、入院中(退院歴あり)が313人(13.3%)、調査病院外来通院中が373人(15.9%)、調査病院で治療していないが772人(32.8%)であった。これを前回調査時の看護基準別に見ると、継続して入院している患者の割合は特類(公立)47.3%、特類(民間)が33.5%、基本1類が32.0%、基本2類・基本が34.3%、「その他看護」が40.2%であった。但し、同一看護基準内でも病院によるばらつきがある。また、BPRS、GAF、Case Mix Indexで見た前回調査時での重症度、再入院回数なども看護基準並びに上記の割合の順に対応していなかった。以上のことから、看護基準で見た看護人員数の違いが、BPRSやGAFなどで患者背景の相違を考慮しても、退院を指標としたケアのアウトカムの違いには必ずしも対応していないことが確認された。
結論
1.本研究の結果、主任研究者らがケアのコストと臨床像を共に反映するように開発したケースミックス分類は精神科医並びに看護職員の実感とも合致しており、日常の臨床場面での利用が可能であることが確認された。2.看護基準で見た看護職員の人員配置の違いは退院を指標としたケアのアウトカムには必ずしも反映していないことが確認された。ただし、同じ看護基準でも病院間で相違があり、アウトカムを規定する要因並びにアウトカムから見た必要とされるケアの絶対量については、今後更に詳細な分析を進める必要があると考えられた。

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