障害者福祉に於ける医療ケアと施設の役割に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200000291A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者福祉に於ける医療ケアと施設の役割に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 康之(東京小児療育病院)
研究分担者(所属機関)
  • 諸岡美知子(旭川児童院)
  • 安川雄二(共同作業所全国連絡会)
  • 難波克雄(広島県立わかば療育園)
  • 山田美智子(神奈川県立こども医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
障害が重度化し、医療的介護度の濃厚な状態が生まれている。通園事業でも、施設整備が求められてる。障害者医療が独自の位置づけを与えられ、介護を指導し援助することが課題である。そこで重度障害の病態と特性を分析し、今後の医療的療育施設の在り方を検討し、地域に開かれた医療を示すことを目的とした。また医療ケアを要する準・超重度障害児などの実態、施設の在り方、医療や介護の提言することを目的とした。
研究方法
1,昨年度提言し、保険診療に反映された"準超重症児"について、実態を明らかにし、入所施設と通所事業の実態調査から医療・療育上の問題点を検討する。
2,重症児通園事業通所事業で、地域的な課題や、受入施設の医療管理などを調査し、受入の背景を検討し、医療ケアに関する職員教育や地域資源の活用のあり方を調査した。
3,障害者施設入院基本料の対象施設で、地域の障害医療センターとしての施設機能をまとめるため、施設の対応を調査した。また、経年変化の実態を調査した。
4,重症児者通園事業以外の通所事業などで問題が広がっている。地域通所において医療援助の必要な実態を調査した。その医療援助が可能になる設定条件をまとめた。
5,濃厚な医療ケアが普及することについて、重症例での治療指針とその啓蒙活動のシステムを検証し、重症児者本位のインフォームド・コンセントの形成、適正な医療介護の実施に関する意見を調査しまとめた。
6,超重症児者の病態を研究することを目的に、死亡原因調査、増悪要因の調査、成人病指標の評価、経管栄養製剤の長期使用時の問題とその適正化、呼吸評価と機能訓練のあり方、胃食道逆流などの評価とその対応、施設での対応などについて検討を加えた。
結果と考察
1,超重症児の他に準超重症児という概念について実態を調査した。準超重症児は、超重症児及びその他の重症児と異なり、肺炎の頻度は超重症児で約4倍、点滴日数は約3倍であり、準超重症児はその中間の値をとった。また、吸引を要した日数や嘔吐した日数、酸素療法を要した日数、点滴日数など合併症や医療管理において、超重症児群は準超重症児群よりも重度で、その他の重症児群とは明らかな差を認めた。
2,日本重症児福祉協会による全国調査で、超重症4.1%、準超重症8.3%であった。一方で、東京都の重症児通所事業では、半数近くが超重症児と準超重症児であった。
3,全国の重症児者通園事業に於ける医療体制と医療的ケアの実態を調査した。医療機関併設型では、外来・入院・短期入所が行われているが、それ以外の障害施設では実施が低率であった。全国の重症通園で、超重症児は3.5%、準超重症児は8.9%であった。非医療機関(B型)でも受入れが進み、緊急時の不安や受入制限を行うなどの課題が指摘された。
通園事業を重症児施設が実施しない理由は、場所や設備の問題、対象者を把握、行政が要望しないなどで、行政と施設相互の理解の不備が推定された。通園事業の適正な配置のため、医療型施設がケア援助するなど有機的機能の必要性が指摘された。
5,小規模作業所などでの要医療障害者の受入調査から、医療スタッフのいない全国の小規模作業所 48施設で、レスピレーター管理 4名を含めた延べ 125項目の医療的ケアが行われていた。救急車を呼ぶような施設も多く、医療職の参加、地域通所機能と医療のシステム化が急がれる現状が報告された。
6,全国の重症児施設・国立重症児病棟を対象に、超重症児と準超重症児の総数を調査した。確認できた範囲で、超重症児は769人、準超重症児は1,201人であった。レスピレーター管理は220人、気管切開は674人である。これらの数は、国立と公法人立でほぼ同数であった。一方で、超重症児のいない施設は国立の17.2%、公法人立の32.6%である。
年間死亡率は、超重症児が8.1%と13.4%、準超重症児が5.0%と7.1%と国立病棟が高かった。病棟常勤医の配置や当直体制は、公法人立が国立重症病棟よりも整備されていた。
7,超重症児・準超重症児者に急変時の対応や高度ケアをどこまで望むかなどについて、あらかじめ家族とともに考えることが一般的である。具体的には、挿管、気管切開、喉頭気管分離、呼吸器、看取りの医療などのメッリト、デメッリト、予後、本人の苦しみなどである。家族と医療や生活のあり方について、十分な説明と話し合いが望まれる。
8,睡眠時無呼吸の解析で、無呼吸頻回例では中枢性無呼吸を加味していた。無呼吸は気管切開児でなく非切開児に閉塞性呼吸障害が認められた。しかしSpO2の低下は、気管切開例に多くみられた。
9,死亡した重症児者67名の検討で、死亡は入所1年未満、夜間に多く、原因は肺炎、突然死、消化器疾患の順だった。超重症児には突然死がないことが特徴的であった。
10,準超重症児、超重症児 49名を対象に、予後を検討した。超重症児の年齢平均が21歳5ヶ月、重症児であった期間は24年2ヶ月、準超重症は6年、超重症は5年2ヶ月であり、今後さらに超重症の期間が延びると予想される。重症児は誤嚥や呼吸器感染症が多く、準超重症児は慢性気管支炎が加わり、超重症児になると睡眠時無呼吸、気管軟化などで気管切開が増える。嚥下障害やGERが準超重症の背景にあり、管理が重要である。
12、大島分類1群の安静時エネルギー消費量は732.4±254.9kcal/kgと基礎代謝基準値を下回った。標準体重20kg、40kcal/kgを想定すると、Vit-A、C、K1、パントテン酸、Ca、鉄、セレン、マンガン、銅、鉄などなどが不足する経管栄養剤がほとんどであった。長期に製品を使用する重度障害児者の栄養管理に重大な支障が生じている危険が指摘された。
13、24時間持続食道PHモニターで胃食道逆流(GER)を、VF検査で誤嚥を評価した。超重症児スコアーが高い例ではGERも重い。それ以外のGER例でも、肺炎、麻痺性イレウス、誤嚥性呼吸障害などを認めた。気管切開、人工呼吸器、噴門形成・胃瘻増設術で十分な対処を行った例では、誤嚥性肺炎やGER、コーヒー嘔吐などが少なく安定していた。
14、リハビリテーションのあり方を決めるために、各年齢層ごとの重点課題を整理した。超重症児では、肺理学療法による排痰訓練が重要な位置を占め、可動域訓練がその次に求められた。準超重症児では前群に加え、他動訓練、摂食、感覚指導などが加わっていた。成長後期は集中的な対応が必要で、姿勢管理や体位交換は呼吸管理上有効である。
15、重症心身障害に於ける脂質代謝を検討した。早朝空腹時のTG、総コレステロール、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、βリポ蛋白、アポリポ蛋白、レプチンを測定した。加齢に伴い、肥満傾向が見られ、血中脂質の増加、中性脂肪の増加、リポ蛋白の増加、等が見られた。男性は肥満が、女性では女性ホルモンの要因などが考えられた。
16、増悪要因の解明のために、経管栄養、気管切開、GER、てんかんなどを検討した。発熱日数などは気管切開後に改善が見られた。このほか夜間の照明も暗くすることで、睡眠パターンの改善が見られた。
結論
超重症児者と一般の重症児者の中間に属する、いわゆる"準超重症児者"の概念と実態を明らかにした。施設入所の約1/4を占めることと、通園事業では約半数に上ることも予想され、今後その対応が検討される必要を示した。特に制度を超えた地域通所事業への参加は早急な医療援助を迫られていると言える。
要医療児者のインフォームドコンセントのあり方、その病態に呼吸障害と誤嚥など嚥下障害があること、その栄養対応が現状では問題が多いことを指摘した。

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