人工内耳装用児等の言語習得訓練状況についての全国調査と訓練法の開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000287A
報告書区分
総括
研究課題名
人工内耳装用児等の言語習得訓練状況についての全国調査と訓練法の開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
柴田 貞雄(国立立身体障害者リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 舩坂宗太郎(チルドレンセンター)
  • 中島八十一(国立身体障害者リハビリテーションセンター)
  • 徳光祐子(富士見台聴こえとことばの教室)
  • 河野 淳(東京医科大学付属病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人工内耳装用児の言語習得訓練法は施設ごとに個別的でありその密度も一様ではないと考えられる。そこで人工内耳装用児の言語習得訓練の現況について全国調査を実施して、その集約分析を行う。その成果を基にして標準的な訓練プログラムと教材を開発し、提供することを本研究の目的とする。
平成12年度においては平成11年度に実行した全国調査の集約分析を行い、訓練方法等施設ごとの現状と要望ならびに人工内耳装用児個人ごとの装用児の個人プロフィールと問題点を明らかにする。またこの調査結果を広く社会に公表するためのインターネットを通じた情報センターの設立を試みる。また盲ろう者への人工内耳の適用は成人では良好な成績が報告されているので、人工内耳を装用した盲ろう幼児についての実態について全国調査を開始する。
人工内耳と補聴器はともに進歩の早い機器であり、一方で難聴発見の低年齢化は著しい。そこで、人工内耳装用児と低年齢乳幼児を含む補聴器装用児について、使用機器の現状に見合った標準的な訓練プログラムと教材を考案する。
研究方法
人工内耳装用児全国実態調査により得られた結果をデータベース化し、これを基にして集約分析を行う。その結果、施設に関しては現行の訓練に関する取り組みの実態と問題点を明らかにする。装用児個人については、標準的な訓練プログラムと教材の開発に必要な個人プロフィールと人工内耳装用結果について実態と問題点を明らかにする。(柴田、中島)また、この調査結果をインターネットを通じた情報センターから情報提供することを図る(中島)。
人工内耳装用児の言語習得訓練の実際を通じて、そのデータを集積した上、必要な訓練条件を明らかにする(舩坂)。また、人工内耳埋め込み術の当初評価について迅速化の研究を進めることにより、訓練開始までの時間短縮化と訓練能力向上の迅速化を図る(河野)。
乳幼児期にある難聴児の補聴器使用例について、補聴器装用の機器開発と訓練用教材を開発することにより、難聴幼児発見の低年齢化に対応する研究をする(徳光)。
盲ろう幼児の人工内耳装用の実態を知るため、全国調査の実施と集計を実施する(柴田、中島)。
倫理面への配慮: 研究の遂行に当たっては難聴児の人権を最大限に尊重する。公開、非公開を問わず個人データについては、特定の個人が明らかにならないような形式で調査を進める。また、調査の協力依頼にあたり、各施設には研究の趣旨説明を十分にする。データベースのうち公開される部分と成果発表についてはどのようにしても個人情報が特定できないようにする。
結果と考察
柴田は中島と共に、平成11年度に実施した人工内耳装用児の実態に関するアンケート調査の結果をまとめ、集約分析した。有効回答は訓練施設に関する質問表に対して74件、個人プロフィールに関する質問表に対して125件であった。
施設関連では、人工内耳専用訓練プログラムについては、使用が26%であり、非使用が53%であった。また、その理由として補聴器用訓練プログラムで十分とするものや適切な訓練プログラムがないとする意見が多い。しかし、人工内耳専用訓練プログラムの必要性については、必要とする回答が57%であり、必要としないとする回答の9%に比較して明らかに高率であった。教材については、独自の教材を使用している施設が57%で、他施設の教材を使用している施設の11%より目立って高率であった。標準教材があった方が良いとする回答は50%で、必要ないとする回答の5%より高率であった。従って、人工内耳専用訓練プログラムや教材は必要とされていると結論される。
訓練回数については、週5日以上から、8週に1日程度までさまざまであり、一般に病院では回数が少なく、難聴幼児通園施設で多い傾向にあった。ろう学校はその中間である。訓練時間は、訓練回数にかかわらず、大部分が120分以下であり、30分以下の施設も少なくない。この事実から、現行の訓練プログラムは施設ごとにかなり異なることの一端が明らかにされた。
人工内耳関連の情報入手については、雑誌、専門書、他施設から、学会の順で多かった。情報入手が容易ではないとする回答は42%で、容易とする回答の18%を大きく上回った。これはどの施設群でも共通していた。人工内耳装用児の訓練方法についての講習会を必要とする回答は66%であり、必要なしとする回答の3%より圧倒的に高率であった。講習会開催の大きな根拠となると考えられる。
個人プロフィールについて、調査時の平均年齢は74.4か月(6歳3か月)であった。手術時年齢の平均は50.5か月(4歳3か月)であり、最年少例は23か月であった。3歳未満で手術を受けた例は17例であり、決して珍しいことではないことが明らかにされた。術前聴力は、左右いずれにおいても100dB以上の例が90%以上であった。また、術前に補聴器の装用経験がないのは1例のみであった。補聴器使用での聴能・言語訓練は有回答者の90%で受けていた。手話訓練は有回答者の43%に経験があり、57%になかった。実施した人工内耳装用については、意義があったとする回答が81.6%であり、ないとする回答の0.8%より圧倒的高率を示した。また、術前に使用した補聴器より良かったとする回答が71%であり、補聴器の方が良かったとする回答はなかった。
また当該年度において新規に、7歳未満で手術を受けた盲ろう重複障害幼児の人工内耳装用例の実態調査を実施した。病院から47件の、ろう学校から79件の、難聴幼児通園施設から1件の回答があり、該当者はないことが判明した。中島は以上の調査結果の詳細をデータベース化し、インターネット上で公開するために画像化した。これに関連諸情報をリンクして、3年次に情報センターを運用する。
舩坂は日本で唯一の民間によるチルドレンセンターにおけるリハビリテーションの経験から、良い親子関係、家族全員の言語訓練への協力、母親の毅然とした態度、人工内耳への母親の高い信頼が人工内耳装用乳幼児の言語発達に寄与する因子であることを明確にした。加えて、本邦における人工内耳臨床応用が必ずしも十分に発達を遂げていない現状を報告するとともに、その要因について明らかにした。
徳光は難聴幼児通園施設において、補聴器を使用して、聴性脳幹反応の臨床応用により難聴幼児発見の低年齢化に対応し得る、0歳からの早期聴能言語治療訓練および教育に取り組んだ。先天性両側難聴乳幼児の音声言語獲得訓練が成人のそれとは異なる特質を踏まえた上で、残存聴力の確認、補聴器選択およびイヤモールドの作成等の基本方針を決定した。また音を積極的に聞かせるための訓練プログラムの指針を決定した。次いで、難聴乳幼児における早期療育の効果評価法の基本指針を作成し、自ら「ことばの聴き取り検査」用ビデオテープを作成した。その臨床での実地応用として、聴能言語療育には早期の療育開始が望ましいことが示された。
河野は人工内耳装用児のマッピングを短時間で正確に行う方法を開発し、臨床応用した。これは電気聴性脳幹反応と電気刺激反応検査の組み合わせによるものである。特に後者は、手術時に短時間かつ無侵襲で実施できる利点から幼児に適用することが向いていると報告された。
結論
人工内耳装用児の手術時年齢は1-2歳まで下がっていることが確認され、低年齢児に対する訓練プログラムが検討される必要がある。実態調査では、人工内耳装用児向けの訓練プログラムや教材の開発を希望する施設が多いものの、現状では満たされていないことも明らかになった。個別装用児に関しては、人工内耳装用は良かったとするものが圧倒的多数を占め、補聴器使用より良かったとするものも高率であった。盲ろう幼児への人工内耳適用例はなかった。しかし、今後重要な領域となることは容易に推察される。
機器の発達、難聴発見の低年齢化等に伴い、難聴幼児の音声言語習得に必要な訓練方法ならびにプログラム開発は常に要求され続けていると言って良い。一方で、幼児に対する人工内耳の臨床応用について社会的な問題点も指摘された。これは今後の人工内耳の普及にあたっては、重要な指摘となろう。

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