脳性麻痺など脳性運動障害児・者に対する治療およびリハビリテーションの治療的効果とその評価に関する総合的研究―障害児・者等の機能改善へ向けて臨床医療的な視点から―

文献情報

文献番号
200000285A
報告書区分
総括
研究課題名
脳性麻痺など脳性運動障害児・者に対する治療およびリハビリテーションの治療的効果とその評価に関する総合的研究―障害児・者等の機能改善へ向けて臨床医療的な視点から―
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
坂口 亮
研究分担者(所属機関)
  • 分担テーマ及び分担研究者は研究方法の欄に記載
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は肢体不自由児施設長を主たる分担研究者とし、脳性麻痺に関して今後追求すべきテーマを取り上げて肢体不自由児施設の複数施設間で総合的に研究を行うこととし、さらに各テーマに共通する課題として多施設間に共通の評価法の検討を進め、より客観性の高い病態像の記述と効果等の判定が可能になることをも目的とした。
研究方法
今年度は第1年目と同じ分担研究者によって実施し、研究結果について他の施設長も含めたまとめと検討のための学術集会を開催した。1)脳性運動障害児への早期療育による治療効果(分担研究者:朝貝)では、本研究班の評価グループで試作、検討したSMTCPなどを活用して母子入園児、外来通園児における治療効果について研究を進めた。また、母子入所における母親の満足度についても調査を行った。2)脳性麻痺の医療的リハにおける治療効果(分担研究者:北原)ではさらに症例数を増やして、主に訓練の頻度や内容などについて検討を行った。3)各種筋緊張抑制法の有効性に関する研究(分担研究者:吉橋)では痙直型脳性麻痺児の膝窩角をfast stretchによる方法(dynamic popliteal angle DPA)とslow stretchによる方法(static popliteal angle SPA)により測定し、それらの再現性などを検討することにより、臨床的に有用なハムストリングの緊張評価法を作成し、手術の前後で測定行った。4)年長脳性麻痺者の二次障害の実体とその防止(分担研究者:諸根)では、脳性麻痺者およびその生活にかかわる人々を配布対象として脳性麻痺の二次障害の概念を啓発する手引き書の作成に向けてより詳細な本格的調査を進めた。5)脳性麻痺の整形外科的手術法の確立(分担研究者:松尾)では試作した評価表に基づいて、多施設で過去に実施された上肢、下肢の選択的痙性コントロール手術症例を分析した。脊椎手術に関して全国的アンケート調査、下肢手術に関して過去10年間に行われてきた手術の全国的実態調査をなどを行った。6)脳性麻痺に関する多施設間に共通の評価法の検討(分担研究者:岩崎)では昨年度に作成した生命維持機能分野、粗大運動能力、基本的日常動作、変形・拘縮、認知・コミュニケーション・社会性の発達の5分野の評価試案を試用してその信頼性や妥当性などの検討を行い、評価法の標準化をめざした。試みとして、試行施設に評価実施を立案するプランナーを配置し試行した。各テーマに関して調査や評価を行う場合にはその対象児者に十分にその意義を説明し理解してもらった上で協力をお願いしプライヴァシーの保護と人権擁護には十分に配慮した。
結果と考察
1)「脳性運動障害児への早期療育による治療効果」では、母子入所では5施設65例のデータが集められ、平均2才9ヶ月の児が、平均1.8ヶ月間に50例77%の例にGMFMの評価値に改善がみられ、平均8.7%の増加が認められた。訓練頻度は理学療法(PT)複雑を平均週5回であった。外来通院では6施設76例について平均2才7ヶ月の児が平均5.4ヶ月間にSMTCPの評価値で64/76例に改善が見られ、平均10.8%の増加であった。訓練頻度はPT訓練が平均週1回であった。母親への満足度のアンケートに対して92%が満足と回答した。外来、母子入所とも一定の効果が上がっている。2)「脳性麻痺の医療的リハにおける治療効果」では検討対象は314人の痙性脳性麻痺児の検討で、訓練手技は施設によって異なっており、訓練手技による粗大運動機能の改善・促進への効果の違いは、今回のデ-タからははっきりしなかった。.訓練開始時期と運動機能との関係についても早期訓練を開始したことによる影響が捉えられな
かった。訓練内容が一定に揃うことは、効果の比較検討に重要で、これらの標準化は今後の大きな課題である。3)「各種筋緊張抑制法の有効性に関する研究」では、ハムストリングの緊張評価法の作成を試みた。手術的ハムストリング延長術の効果を検定したところ、DPA、SPAともに術後明らかな減少が得られ、同手術の筋緊張抑制効果が確認された。ただ、DPAとSPAの減少した角度に差は認められなかった。DPAは、痙縮、筋の粘弾性の低下、筋の短縮といったハムストリングの緊張の総和を表現しており、SPAは筋の粘弾性の低下の一部と筋の短縮を表わしていると考えられ、DPAとSPAによるハムストリングの緊張評価法は筋緊張抑制 効果の機序を推察する手段ともなりうると考えられた。4)「年長脳性麻痺者の二次障害の実体とその防止」では、6施設で18才以上の脳性麻痺者97名について調査を行った。能力低下の訴えは73例に見られ、そのうち44名は30歳前後で急に能力の低下が始まったと訴えた。また、アテトーゼ型の年長脳性麻痺者では頸椎症が問題で、上肢動作の悪化が深刻であるなどが明らかになった。5)「脳性麻痺の整形外科的手術法の確立」では試作した評価表に基づいて上肢については30例を、下肢については76例を評価し、手術の有効性と評価法の有用性が明らかになった。脊椎手術に関してはアンケート調査を全国的に行い、手術法、適応、使用されている評価法、術後成績、問題点等を検討した。また、「脳性麻痺の上肢手術の評価表」の信頼性について検討した結果、本評価法は再現性があり、従来の評価法との妥当性も認められた。6)「脳性麻痺に関する多施設間に共通の評価法の検討」では生命維持機能分野については、脳性麻痺児・者の生命維持機能に関して、重要な問題を「誤嚥」と位置付け、評価表の試行にあたっては、評価項目の妥当性を中心にした検討することとし、誤嚥を認める患者で呼吸器感染、摂食機能などに関する項目について検討を行った。粗大運動能力分野では、GMFMをもとに項目数を必要最小限に絞り込んだSMTCP(Simple Motor Test of Cerebral Palsy)を試作し検討を行った。 基本的日常生活動作分野は、一次試行を経て、改訂作業を行い、改訂版ではマニュアルの充実と基本的移動能力の評価を追加し、この改訂版による二次試行を実施した。変形・拘縮分野の評価は、脳性麻痺の変形・拘縮の特徴を考慮した関節角度計測中心の評価と、レントゲン計測と動的状態での変形・拘縮をとらえる評価の二つを作成した。前者の評価試案については二次試行を行った。社会参加能力分野の評価は試案の全面的な見なおしを行い、評価対象を中・高校生とし、社会参加に必要な対処能力を評価することにした。この改訂版による二次試行を実施した。それぞれの分野での評価で、より実用性のある評価が出来つつある。また、試行施設に評価実施を立案するプランナーを配置し試行したがこのシステムが有効であった。
結論
試作している評価表が本研究を進める上でも有用で、試作された評価法は実際の臨床でも大いに役立つと考えられる。試行施設に評価実施を立案するプランナーを配置することを試行し、評価の実施にプランナーを配置することは評価の普及・定着のための方策として有効であると考えられる。本研究の調査の中で治療内容の標準化が改めて意識され次の課題となる。痙縮の客観的、数量的評価に一定の方向性が得られた。脳性麻痺の二次障害に関する啓発のための手引き書により長期的には脳性麻痺児・者のQOLの改善が得られると考えられる。

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