疾患に応じた適正な医療のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
200000281A
報告書区分
総括
研究課題名
疾患に応じた適正な医療のあり方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
大塚 俊男(国立精神・神経センター精神保健研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤弘人(国立医療・病院管理研究所)
  • 牛島定信(東京慈恵会医科大学)
  • 白倉克之(国立療養所九里浜病院)
  • 大川匡子(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 岸康宏(日本医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
11,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
向精神薬が導入されて40年が経過した現在、精神医療のなかにも多様な治療システムを創出するに至っているが、それぞれのシステムがお互いの関連のなかで有効に機能しているのかという質を問う問題が生じているが,その質を測定する方法が確立されているわけではない。また、工業化、都市化、情報化がもたらす急速な社会変動は児童思春期の情緒的諸問題、成人の自殺問題、アルコールや睡眠障害に関する深刻な諸問題をきたしているが、わが国におけるそれらの実態、それらに対する対応のあり方となると今なお不明な点が多い。本研究では、これらに関する基礎資料を得ることが求められた。
研究方法
精神医療の質測定に関する研究では、主に22の精神科病院の退院患者を中心に多次元QOL尺度日本語版の信頼性と妥当性の検討、測定した質指標と隔離室使用濃霧との関連の検討、モデル事業への協力病院の職員に関する検討を行った。児童思春期問題では14の精神保健福祉センターを対象に調査を行った。アルコール依存症に関する研究では、10の専門施設を退院した患者の3ヶ月後,1年後の断酒率を調査した。睡眠障害に関する研究では、平成9年に施行された調査をもとに心身の訴えと不眠に関する検討を行った。自殺に関する研究では、新聞その他の社会面で報道される自殺に関する討論,身体疾患急性期における自殺の調査,リエゾン・サービスで精神科に送られてくるがん患者にみられる自殺の調査を行った。
結果と考察
医療の質測定研究では、QOL尺度を用いて患者のQOLに影響を与える要因は,ほぼ先行研究と同様の結果がえられ、一定の構成概念妥当性が示された。精神科病院で隔離室使用の患者は使用しない患者に比較して入院時の機能レベルが低いが退院時は差がなかった.また継続的に精神医療の質測定が可能な具体的方法の開発の可能性が示された.児童思春期問題では、14の精神保健福祉センターにおけるこの問題に対する対応にはばらつきがあるが、それなりの対応がなされていること、専門医のよって左右されること,電話相談が来所相談のほぼ2倍あること,学校問題がもっとも多いこと,親の相談が多いこと,報道機関の役割が大きいことがあきらかになり、同センターのこの問題に関する社会的役割が示唆された。アルコール依存に関する研究では、退院後3ヶ月,1年の対象者はそれぞれ261名、150名で完全断酒率はそれぞれ57%,41%であった。これらに与える要因をとして、年齢の高いこと、自助グループに参加していること、抗酒薬の服用していることが挙げられた。睡眠障害に関する研究では、対象者数3030名のうち75.8%に何らかの心身の訴えをし,青年と女性に有意高いこと、さらには心身の訴えが多ければ多いほど不眠を訴える率が高まることが判明した。それらの根底にストレスのあることが推測された。自殺に関する研究では、身体疾患急性期(脳梗塞、頭部外傷、脊髄損傷,心筋梗塞)496例のうち36例(7.3%)に自殺念慮が認められ、がん患者1312名のうち45例(3.4%)が自殺のための精神科受診であることがわかった。信分その他の社会面で注目を受ける自殺(経済苦など)の例の検討も数例について行った.全体的には,これらの自殺は精神疾患,ことに大うつ病の存在を考えておかねばならないことが示唆された。 
結論
精神医療の質測定研究では、欧米の先進国ですでに標準化している多次元QOL尺度日本語版がわが国においても有用であることが確かめられる一方で、継続的質測定を可能にするためのモデル化の試みが進行している。児童
思春期問題研究では、精神保健福祉センターにおけるこの問題に対する対応には広がりがあるが、電話相談,来所相談をみていると大学その他とは違った役割のあることがわかった。アルコール依存研究における予後調査では,退院3ヶ月後,1年での断酒率がそれぞれ57%、41%であった。睡眠障害研究では、心身の訴えが多いほど不眠を訴える率が高まることがあきらかになった。その背後にストレスのあることが伺われその対策の必要性が示唆された。自殺に関する研究では、生活苦など一般社会生活の関連した自殺,身体疾患急性期における自殺,がん患者における自殺のいずれも,精神疾患、ことにうつ病の存在の重要性が示唆された。
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