精神医療の機能分化に関する研究

文献情報

文献番号
200000270A
報告書区分
総括
研究課題名
精神医療の機能分化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
浅井 昌弘(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 吉川武彦(国立精神・神経センター)
  • 黒澤尚(日本医科大学附属千葉北総病院)
  • 計見一雄(千葉県精神科医療センター)
  • 伊藤哲寛(北海道立緑ヶ丘病院)
  • 筧淳夫(国立医療・病院管理研究所)
  • 守屋裕文(埼玉県立精神保健総合センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 障害保健福祉総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
-
研究費
16,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会情勢は多様に変化しつつあり、種々のストレスが多い中での日本国民の保健・医療・福祉の向上を計るに際しては、心の健康の増進及び精神障害の予防と治療をより一層綿密に行わねばならない。その際には近年の精神医療の各分野での専門的発展の成果を充分に取り入れて応用し、効果的な機能分化を計るとともにそれらを統合して、医療経済的な視点からも医療資源の有効な活用を目指すべきである。本研究の目的はそのような観点から「精神医療の機能分化に関する研究」を行うことにある。
研究方法
以下の6項目に関する各分担研究を行った。①「精神科救急医療に関する研究」(守屋裕文):厚生省による「精神科救急医療システム整備事業」を実施している自治体と未実施の自治体の都道府県精神保健担当課を対象とする実態調査を行い、主としてアンケート調査により事業の要綱、事業実施件数、問題点等を尋ねた。特に、搬送のシステム、運用上の問題点、精神科救急情報センターの整備状況等について詳細に現況を把握できるように質問項目を工夫した。②「急性期精神病の入院医療における医療資源の適正基準及び予後予測因子に関する研究」(計見一雄):平成11年度までに行った研究データをさらに解析し、その成果をふまえて、精神病急性期の病像の典型例を検討し、その治療に要する人的・物的資源の適正水準に関する実地専門家のコンセンサスを得ることを目的として専門医にアンケート調査を行った。③「急性期医療を指向する精神病院の建築基準に関する研究」(筧淳夫):一般病室やデイスペースや食堂などの共用空間を対象としたモデル開発を行った。また、一般急性期病院や特別養護老人ホームを対象とした医療・介護環境評価マニュアルを精神科急性期治療病棟にふさわしいものに適用しながら評価項目を作成し、急性期治療を行っている病棟の評価とあるべき基準の検討を行った。④「精神科と他診療科との連携に関する研究」(黒澤尚):多施設の一般科における処方内容から向精神薬の種類や使用料を調査すると同時に、リエゾン精神科医が関わったことによる一般科医療従事者に対する精神医学的教育効果について精神医学的認識度調査票を用いて精神科医の介護前後で比較検討した。また、救急医療に従事する医療従事者を対象にして燃え尽き症候群を含む精神症状を明らかにする調査を行った。さらに、ICUに収容された患者に見られる精神症状に関する研究、および病床を持たない総合病院精神科の入院患者の実態に関する研究も行った。⑤「公的病院の精神科医療機能について」(伊藤哲寛):国公立精神科医療機関に加えて、日赤・済生会・厚生連等の公的病院、そして医療法人・私立病院等における精神科医療資源の全国分布状況を調査して、医療圏別全国精神科医療施設(資源)分布図表を作成し、それをもとにアンケート調査を用いて自治体立精神科医療機関が地域で果たしている機能を調査し、その機能を果たすために必要な条件について検討した。⑥「大都市における精神医療のあり方に関する研究」(吉川武彦):人口100万以上の大都市を対象にした聞き取りとアンケート調査を行い、精神科医療等のサービスの状況を比較検討し、その統合的な機能評価指標を検討するとともに、大都市における精神科医療サービス向上の政策について検討した。
結果と考察
①移送制度を開始した都道府県・政令市は9都道府県で自治体事に違いが求められ、移送制度を利用した医療保護入院は半年間で全国20件台であった。移
送事例の検討からは、システムが適切に運用された例も存在したが、対象とは考えにくい事例の利用や適用方法に問題が認められる事例も存在し、内容の明確化の必要性が示された。②施設・設備については、a)多様な臨床的要求に答える個室群、b)ナースステーションに近い位置の精神科集中治療室、c)隔離室等での離脱後の安定した回復を保証する個室群、d)ナースステーションの心肺監視モニターから、すべての病室をテレメーターで観察可能な配線、e)隔離室の安全性と快適性(換気、採光等)の確保、の必要性が明らかにされた。スタッフ配置基準の算定に関しては、「医師1人が1日8時間労働する」「当該病棟の業務は24時間切れ目がない」という前提に留意する必要がある。また、APRS簡易版を作成したが、今後さらに実用に耐えうるものに洗練していく予定である。③現状の施設においては,個室の整備が不十分であるために,本来求められている要求に十分応えることが出来ないでいることが明らかとなった。また個室が備えるべき機能・設備にも多様なパターンがあり、患者の疾患によって求められる病室の性能が異なることから、多様な病室の組み合わせある程度の仕様を変化させることが求められていることが明確となった。④a)精神病患者の一般病院の受け入れの悪さ、b)他科の医師への精神医学的教育の必要性、c) 集中治療室におけるせん妄対する精神科医の関与の重要性、d) 救命救急センタ-の医師の燃え尽きを解消するための休息の必要性、などが明らかになった。⑤a)国公立病院の今後のあるべき機能については、精神病床過剰地域と過疎地域、都会と地方、医療圏内での民間・国公立病床の構成割合などを考慮する必要性、b)その際、自己診断プログラムを用いた病院機能の客観的評価、c)より高い見地から公民の役割分担について検討する必要性、d)国公立病院の医療機能は高く、外来中心、救急急性期重視、短期入院治療の方向をとっているが、急性期治療を含めた論議が必要、e)公的病院への精神病床併設に関して、身体合併症医療、精神病床偏在の解消、地域医療の推進という観点からの検討、f)救急急性期治療に加えて措置入院等の専門医療への取り組み方に関する実効性ある施策を打ち出す必要性、が明らかになった。⑥大都市においては,個人と家族,地域社会のつながりが希薄化しており,警察には,事件や事故に至っていない場合も含めて多種多様な相談が寄せられ,このなかで精神障害関連の相談が増加していることが明らかになった。精神科医療も,地域精神保健の方向に進むとともに,地域社会のなかで起こるさまざまな精神保健上の問題のなかから,警察署や精神科救急システムを含めた,役割分担と共同作業によるトリアージが必要であることが示された。なお、精神科救急相談マニュアル案は,いわゆるソフト救急相談を行っている神奈川県精神保健福祉センターのマニュアルをもとに作成したものであるが,地域の必要性に応じて応用可能であると考えられた。
結論
本研究では、公的病院という経営母体による特性および大都市などの地域特性をも含めて、救急精神科医療及び多様な合併症の診療における精神科と身体疾患診療各科との相互協力的な相談・連携精神医療のあり方を現状の具体的調査資料に基づいて研究した。これらの研究の成果は厚生省が行っている「精神科救急医療システム整備事業」の全国的展開を促進し充実する上で役立つものであり、精神疾患と身体疾患の合併症例を含めて多様な精神障害症例の実地医療において、常に精神と身体の両面を総合的に配慮しつつ種々の診療を能率良く効果的に行うという実用的および教育研修的な意義をも有するものである。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)