慢性関節リウマチに対する鍼灸治療の多施設ランダム化比較試験に関する研究

文献情報

文献番号
200000268A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性関節リウマチに対する鍼灸治療の多施設ランダム化比較試験に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学大学院)
研究分担者(所属機関)
  • 代田文彦(東京女子医科大学)
  • 武内正憲(東京女子医科大学)
  • 吉川信(東京女子医科大学)
  • 鈴木輝彦(埼玉医科大学)
  • 山口智(埼玉医科大学)
  • 小俣浩(埼玉医科大学)
  • 藤原久義(岐阜大学)
  • 福田一典(岐阜大学)
  • 赤尾清剛(岐阜大学)
  • 磯部秀之(東京大学大学院)
  • 粕谷大智(東京大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
8,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.慢性関節リウマチに対する鍼灸治療の有効性と有用性および安全性を、外来にて薬物療法を行っている群を対照とした多施設ランダム化比較試験により検討することを主目的とする。2.多施設のランダム化比較試験のプロトコールを完成することで、今後、本邦で鍼灸に関係するランダム化比較試験を行う際の参考となり、デザイン、実施、解析、解釈、報告に役立つことも目的とする。3.慢性関節リウマチは、quality of life(以下QOLと略す)や社会活動性の低下を招き、大きな疾病負担を有している。厚生省の調査によれば骨関節・リウマチ性疾患は脳血管障害と並んで、肢体不自由の主要を占めており、脳卒中、老衰、転倒骨折に続く寝たきりの原因の第4位を占めている。一方、厚生省が毎年行っている国民健康調査によればリウマチ患者の3~10%は医療機関と併せて鍼灸・マッサージの治療を受けており、臨床上疼痛の軽減や可動域の拡大などを認めており、QOL向上に役立っている。しかし、鍼灸の効果についての文献は少なく、多くはその質に問題があると指摘されている。本研究を行うことで、リウマチ治療のプログラムの一つとして位置付ける基礎となることが期待でき、リウマチのQOLの向上に対し貢献できる。4.上述のような多施設のランダム化比較試験が行われば、EBMに具体的な情報を提供することが可能となり、教育効果の向上が期待できる。
研究方法
慢性関節リウマチに対する鍼灸治療の多施設ランダム化比較試験のプロトコールI 対象:外来通院中の慢性関節リウマチ患者;背景因子のばらつきを最低限に抑えるため以下の基準を設けた。1.通院可能であること2.対象年齢を20~75歳とする3.発症後2年以上を対象とする4.ステロイドの量を10mg/日以上投与されている患者は対象外とする。Ⅱ 試験デザイン(1)群の構成:以下の2群をもうけ比較する。1) 外来にて薬物療法を行っている薬物療法群(A群)2) 外来にて薬物療法+鍼治療を行っている鍼治療併用群(B群)(2)ランダム割付けランダム化割付けは患者ID番号一桁が偶数の患者はA群、奇数の患者はB群で振り分けを行う。(3)マスキング被験者および施術担当者に対するマスキングは行わない。評価者は医師とし、被験者が何れの群に割り付けられたかについてはマスクされた状態で評価を行う。(4))目標症例:200例 各施設50例(各群25例づつ)(5)試験実施期間:2000年(平成12年)5月1日から2001年(平成13年)3月31日ただし、長期観察も必要であり2003年3月31日まで延長も構想。3. 試験スケジュール(1)医師による適応の確認①試験開始時の評価②説明・同意書の確認③QOL質問表の記入の依頼(2)割付け:患者ID番号一桁が偶数の患者はA群、奇数の患者はB群で振り分け、B群に関しては鍼治療担当者に連絡、施術担当者が鍼治療を行う。(3)介入(治療法)1) 薬物療法群(A群)は定期的に外来で薬物療法を受ける。試験中の薬物の種類の変更、量の増減については外来担当医師に一任する。(症例報告書に記載)ただし、ステロイドの量が1日10mg以上となった症例は脱落とする。2) +鍼治療併用群(B群)は薬物療法は外来で従来通り受け、週1回の鍼治療を受ける。鍼治療:RAの病期別に患者の活動性や機能障害を考慮しながら局所と全身の治療を 行う。治療法はあらかじめ当科にて考案した病期別の鍼治療法を参考にして行い、RA 患者の病態に応じて統一した治療法にする。ただし、刺激量は施術担当者に一
任する。3) 観察方法および評価項目(endpoint)評価項目(endpoint)Ⅰ:ACR活動性指標(アメリカリウマチ学会提唱の活動性指標)および改善基準(内容)①圧痛関節数②腫脹関節数③患者による疼痛の評価④患者による全般的評価⑤医師による全般的評価⑥運動機能障害⑦急性期反応物質⑧関節のX線検査以上8項目が指標となる。(ACRの改善基準)上記項目のうち、圧痛関節数、腫脹関節数の改善20%以上に加え、上記項目3~7のうち、20%以上改善の項目が3つ以上。Ⅱ:QOLの評価:厚生省リウマチ調査研究事業団QOL班作成のAIMS-2日本語版にてアンケート調査を行う。共に介入(治療)前、介入3ヶ月後、6ヶ月後、9ヶ月後、1年後に評価を行う。4. 中止・脱落(1)中止の場合1) 同意の撤回があった場合2) 他疾患の併発のため試験の継続が困難と判断された場合3) 有害事象の発現のため試験の継続が困難と判断された場合4) プレドニン量が10mg/日以上となった場合5) 手術適応となり入院を余儀なくされた場合(2)脱落の場合:脱落した症例については、手紙・電話などで追跡調査を行い、転帰有害事象の有無などを明らかにし、症例報告書に記載する。5. 組織:責任者および担当者・試験責任者:山本一彦・試験実施責任者:磯部秀之・データ解析担当者:粕谷大智、試験実施者:岐阜大学医学部付属病院:赤尾清剛、福田一典、藤原久義、埼玉医科大付属東洋医学外来:山口 智、小俣 浩、鈴木輝彦・東京女子医科大付属東洋医学研究所:吉川 信、武内正憲、代田文彦、東京大学医学部付属病院アレルギーリウマチ内科:粕谷大智、磯部秀之、山本一彦6. 倫理面への配慮:被験者への権利保護(1)本試験は日本語版GCPにもとづき、試験開始に先立ち患者本人に下記の内容を説明し文書により治療への参加について、自由意志による同意を得るものとする。1)当該研究が試験を目的とするものである旨。2)試験の目的。3)試験責任者の氏名、職名及び連絡先。4)試験の方法。5)予想される治療法の効果及び予測される被験者に対する不利益。6)他の治療法の効果に関する事項。7)試験に参加する期間。8)試験の参加を何時でも取りやめることができる旨。9)試験に参加しないこと、又は参加を取りやめることにより被験者が不利益な取り扱いを受けないこと。10)被験者の秘密が保全されることを条件に、モニター、監査担当者及び試験倫理審査委員会が原資料を閲覧できる旨。11)被験者に係る秘密が保全される旨。12)健康被害が発生した場合における各施設の連絡先。13)健康被害が発生した場合に必要な治療が行われる旨。14)健康被害の補償に関する事項。15)当該治験に係る必要な事項。(2)その他:原則として各施設の倫理審査委員会において本試験の審議を行う。7. 試験の安全性を確保するための事項(1)重篤な有害事象:治療期間中に重篤な有害事象が発現した場合には、以下の手続きに従う。ただし、重篤な有害事象とは以下に示す、あらゆる好ましくない事象を示す。1)死にいたるもの2)生命を脅かすもの3)治療のために入院が必要となるもの4)永続的または顕著な障害・機能不全に陥るもの5)先天異常を来するもの6)上記1)~5)のような結果にいたらぬように処置を必要とするような事象の場合。(2)有害事象発生の場合の補償:本試験は病院加入の賠償責任保険により担保されるものとする。以上のように十分なインフォームドコンセントを取るように配慮した。8. 統計解析(1)2群間の背景因子の比較可能性については、データの性質に応じて、t検定、Mann-WhitneyのU検定、X2検定、Fisherの直接法の中より、適切な方法をとり有意水準はP<0.15とした。(2)主要評価項目のACR活動性指標はACR改善基準に基づき評価。(3)QOL評価については、各項目の動きの推定を行い95%信頼区間を求める。(4)安全性については有害事象の各群の発現率を算出し、95%信頼区間を求める。
結果と考察
結果=(1)症例の収集について:現在、東京大学はA群(薬物療法群)18例、B群(鍼灸治療併用群)17例、埼玉医科大はA群15例、B群12例、岐阜大学はA群10例、B群12例、東京女子医大はA群8例、B群9例で合計A群(薬物療法群)51例、B群(鍼灸治療併用群)50例であり、合計101例(目標症例200例)
である。現在まで中止や脱落は無い。(2)2群間の背景因子については有意差は認められなかった。(3)治療期間が1年間と長期であるため、比較試験の結果については1年目では出せないが、症例収集も比較的順調であり、過去の鍼灸関係の比較試験にみられる症例数が少ないという問題はクリアできそうであった。
結論
考察, 結論=1.研究の背景:Evidence Based Medicine(以下EBMと略す)など医療では科学的な根拠が強く求められ、鍼灸においても世界的には臨床面における科学的な根拠の提示が求められている。鍼灸が正当で有効な治療法として受け入れられるためには、比較対照群を設けた臨床試験で有効性を証明していく必要があるが、本邦において比較対照群を設けた鍼灸の臨床報告は少ない。また、多施設ランダム化比較試験においてはほとんど行われていない。今後、本邦において医療システムの中に鍼灸治療を位置付けていくためには、質の高い臨床研究の結果が求められる。今回の研究は、鍼灸臨床の現場で比較的患者数が多い「慢性関節リウマチ」を対象とした多施設ランダム化比較試験を行い、鍼灸治療の有用性を検討することを目的とした。本研究の特徴は医療機関において東洋医学(鍼灸)を行っている施設で、リウマチの専門外来を持ち、リウマチに対して鍼灸の治療頻度が多い施設である、東京大学医学部アレルギー・リウマチ内科、東京女子医科大東洋医学研究所、埼玉医科大東洋医学科、岐阜大学医学部東洋医学講座の4施設を共同研究とした。これは症例数を多数得ること、施設によるバイアスを減少させる事、鍼灸臨床の質とともに西洋医学的な評価が鍼灸治療と同時に行われていること等の理由から多施設の共同研究とした。おそらく、このような医療機関において鍼灸の多施設のRCTの研究は日本で初の試みであり、鍼灸の臨床研究としてEBMの情報源となるように計画された、このようなテーマを中心とした研究組織の構築は今までなかったと思われる。2.我々がこの研究に関連して現在までに行った研究状況:鍼灸の臨床研究を行う際、重要なことは ①鍼灸治療の目的を明らかにする ②評価項目(endpoint)の設定である。特に評価項目はリウマチの疾患活動性をよく反映し、変動し、他の臨床試験でも用いられている評価法が理想であることは言うまでもないが、過去においてそのような観点から鍼灸臨床の研究を行った報告は皆無であった。今回(今年度)は、ランダム化比較試験を行う際に重要となる慢性関節リウマチに対する鍼治療の目的、そして鍼灸治療の効果を客観的に評価ができる評価項目(endpoint)について事前研究を行い、それらの結果をもとにランダム化比較試験のプロトコール、割り付けの方法など、実施へ向けての準備期間とした。ランダム化比較試験を実施するにあたり、4施設(東京大学医学部 アレルギー・リウマチ内科、岐阜大学 東洋医学講座、埼玉医科大学 東洋医学科、東京女子医大 東洋医学研究所)で事前研究として 、① 各施設における慢性関節リウマチに対する鍼治療の目的について② リウマチに対する鍼治療の効果についての評価項目(endpoint)について検討した。①の目的については鎮痛が最も多く、次いで関節可動域維持・改善、冷え、だるさ、肩こり等の不定愁訴の改善であった。② の鍼灸治療の評価項目としては従来からVAS(疼痛緩解スケール)を用いていた文献は多いが、長期間の治療効果を評価するには客観性に乏しい印象であった。鍼灸治療の目的の大部分は鎮痛であり、従来の治療法(薬物療法)に鍼灸治療を加えることでリウマチ患者の関節痛の軽減や全身状態を良好に保ち、ADLの改善やQOLの向上に寄与することが示唆された。そこでQOLの評価もふくめて、リウマチ患者の病状、治療反応性を評価する上で、転帰(outcome)を反映させる評価法が必要である。現在、薬効などの評価として世界的に用いられ、リウマチの活動性をよく反応し、変動し、他の臨床試験でも用いられている評価項目(endpoint)としてACR(アメリカリウマチ学会提唱の活動性指標)による改善基準と厚生省リウマチ調査研究事業団:QOL班作成のAIMS-2日本語版などの評価法が鍼灸治療の効果
を客観的に評価できる可能性もあり、各施設においてQOL評価法を用いた検討を行った。その結果、1.圧痛関節数の軽減とADL得点は有意に改善を認めた。2.QOLの評価についても疼痛や歩行、移動などいくつかの項目において改善を認めた。以上の結果より、ランダム化比較試験での評価項目(endpoint)は、1.ACR(アメリカリウマチ学会提唱の活動性指標)による改善基準。2.QOL(厚生省リウマチ調査研究事業団:QOL班作成のAIMS-2日本語版)の評価法が、現時点では鍼灸治療の効果を客観的に評価できるものであり、本研究に用いることでよりEBMの強い事例を提供することが可能となることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
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更新日
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