地域在宅高齢者の「閉じこもり」に関する総合的研究

文献情報

文献番号
200000265A
報告書区分
総括
研究課題名
地域在宅高齢者の「閉じこもり」に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
新開 省二(東京都老人総合研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 工藤禎子(北海道医療大学)
  • 本橋豊(秋田大学)
  • 甲斐一郎(東京大学)
  • 浅川康吉(群馬大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、ねたきりあるいは痴呆のリスクファクターとして、高齢者の「閉じこもり」が注目されている。厚生省は第4次老人保健事業(平成12年4月より施行)において、要介護状態を予防する上で高齢者の「閉じこもり」への対応が重要であるとした。しかし、高齢者の「閉じこもり」については、未だその定義があいまいで、地域在宅高齢者における実態や、ねたきりや痴呆との関連も十分検証されていない。新開は、閉じこもりを“外出頻度が極端に低下している状態"と定義した上で、「閉じこもり」には総合的ADLが低く障害があって外出頻度が落ちている「タイプ1」と、総合的ADLが高いにも関わらず外出頻度が落ちている「タイプ2」があることを指摘している。最近、地域高齢者を対象とした長期縦断研究により、「準ねたきり」の発生率は「ねたきり」の約2.5倍であり、「ねたきり」の過半数は「準ねたきり」を経ていることが示された。「準ねたきり」は、厚生省「障害老人の日常生活自立度判定基準」のランクA、Bに相当するもので、このうち75%がタイプ1の「閉じこもり」であるとの推計がある。すなわち、タイプ1の「閉じこもり」はねたきりのハイリスク群とみなすことができる。一方、めだった障害がなく日常生活で自立している高齢者が閉じこもるようになったとして、そのようなタイプの「閉じこもり」(タイプ2)も、はたして「ねたきり」や「痴呆」のハイリスク群といえるのかどうかについては全く不明なまま残されている。したがって、「閉じこもり」の概念を整理し、地域高齢者における「閉じこもり」の実態とその特徴を明らかにし、タイプ2の「閉じこもり」とADLや認知機能の低下との関連を明らかにすることが喫緊である.同時に、高齢者の「閉じこもり」を防止しQOLの改善をはかる効果的なプログラムやマニュアルを開発する必要がある.こうした諸点を明らかにするため、医学、看護学、理学療法学といった幅広い領域の研究者が集い、平成12年度から本研究班がスタートした。本年度の研究目標は、1) 「閉じこもり」の概念の整理、2) 地域在宅高齢者における「閉じこもり」の実態把握、3) 「閉じこもり」予防事業の展開とその評価、4) 「閉じこもり」高齢者の行動リズムの定量的評価、である。
研究方法
1.「閉じこもり」の概念整理
主任研究者の提案を軸にして、分担研究者全員による討議により、「閉じこもり」のチェックリスト(核となる部分)を作成した。
2.地域在宅高齢者の「閉じこもり」の実態
地域特性の異なる二地域に住む在宅高齢者約2,550人を対象に、悉皆的な面接調査を行い、性・年齢階級別のタイプ別「閉じこもり」の頻度、タイプ別「閉じこもり」の特徴を明らかにした。また、虚弱高齢者203人に自記式調査を行い、外出頻度と身体・心理社会的側面との関連を分析した。
3.「閉じこもり」予防事業の展開とその評価
小地域を対象とした住民参加型の集団での交流を主とした閉じこもり予防事業を実施し、参加群22人と性、年齢、自立度をマッチさせた対照群22人について、8ヶ月間後に心身の健康と外出状況を調査し、事業の評価を行った。次に、訪問看護サービスを利用している在宅高齢者34人と市営老人センター利用者31名を対象とした聞き取り調査を実施し、外出頻度と外出先、外出に関する不安や困難を比較した。
4.「閉じこもり」高齢者の行動量リズム
携行行動量計アクティウォッチを用いて、地域在宅高齢者12人の行動量リズム測定を行い、リズム解析を行った。
結果と考察
1.閉じこもり」の概念整理
作成した「閉じこもり」のチェックリスト(核となる部分)は、以下の5項目である。質問1.一日中家の外には出ず、家の中で過ごすことが多いですか(1.はい 2.いいえ)、質問2.ふだん家の中にいるときは、あまり動かずにボーッとしていることが多いですか(1.はい 2.いいえ)、質問3.ふだん、仕事、買い物、散歩、通院などで外出する頻度はどれくらいですか(1.毎日1回以上 2.2~3日に一回程度 3.一週間に1回程度 4.ほとんどない)、質問4.外出するにあたっては、どなたかの介助が必要ですか(1.はい 2.いいえ)、質問5.友だち・近所の人あるいは別居家族や親戚と会っておしゃべりする頻度はどれくらいですか(1.2~3日に1回程度 2.1週間に1回程度 3.1ヶ月に1回程度 4.ほとんどない)。質問3で「3.一週間に1回程度」あるいは「4.ほとんどない」に該当すれば「閉じこもり」とみなし、さらに質問4で「1.はい」と答えた場合を「タイプ1の閉じこもり」、「2.いいえ」と答えた場合を「タイプ2の閉じもり」と判定する。家の中の活動性と社会的な交流性の程度については、それぞれ質問2と質問5を参考にして判断するというものである。ただ、今回の方法はいくつかの問題を抱えていることが明らかとなった。地域高齢者を対象とした外出頻度と健康水準の横断的な解析により、「2~3日に一回程度」の高齢者も「毎日一回以上」外出する高齢者に比べると健康水準が低いことや、自立度と外出頻度による分類に比較するとタイプ2をタイプ1と誤分類する傾向がみられたのである。外出頻度のcut-off pointとタイプ分けの基準については、今後さらに検討する必要があると考えられた。
2.地域在宅高齢者の「閉じこもり」の実態
調査した二地域いずれにおいても、在宅高齢者のうちで約10%が「閉じこもり」と判定され、その内訳はタイプ1、タイプ2がほぼ半々であった。男女とも80歳以降で「閉じこもり」が急激に増えたが、男ではタイプ1、女ではタイプ2が多い特徴があった。タイプ別で性差がみられたことは新しい知見であり、今後その背景を詳細に分析する必要がある。タイプ1の「閉じこもり」は要介護高齢者が有する特徴とほぼ一致し、心身の障害を有するものが極めて多かった。タイプ2の「閉じこもり」は、生活自立(ランクJ)が大半であったが、「非閉じこもり」に比べると身体状況、生活機能、心理・社会的状況で劣っていた。タイプ2の「閉じこもり」もひとまず閉じこもり予防事業の対象者に組み入れることが必要と考えられる。虚弱高齢者における分析においては、歩行が可能であるにもかかわらず外出しない者は、外出する者よりADLが低いことや、ADLを調整しても友人からのサポートや生活機能が低水準であることが明らかとなった。虚弱高齢者においても外出頻度が予防支援のハイリスク群を選択する指標となりうると考えられた。
3.「閉じこもり」予防事業の展開とその評価
追跡可能であった参加者群19人を対照群17人と比較すると、健康度自己評価、知的機能において有意な改善・維持がみられた。外出頻度に両群間で差はみられなかったが、参加者群では積雪期も散歩が維持されていた。現在、「閉じこもり」予防事業に雛形があるわけではない。本研究では全国に先駆けて取り組んできた自治体における、住民参加型の「閉じこもり」予防事業の評価を行ったものである。こうした実践的な研究が積み重ねられる中で効果的な予防事業のプログラムが提案できるものと思う。
訪問看護サービスを利用していた閉じこもり群の外出頻度は極端に低下しており、外出状況に不満をもつものも少なくなかった。外出に関する不安や困難には本人や介護者の健康や物的環境に関する問題だけでなく、介護技術に関する問題も重要な位置を占めていた。今後、訪問面接対象者のうち理学療法的アプローチの希望があった者の外出に同行し、実態の把握とニーズに応じた指導を行う予定である。
4.「閉じこもり」高齢者の行動リズム
測定できた12人の行動リズムは正常型9人、昼夜境界消失型1人、自由継続型1人、ウルトラディアンリズム優位型1人であった。12名のうち「閉じこもり」と判定されたのは3人であったが、うち1人に自由継続リズム型のパターン異常を認めた。今後「閉じこもり」高齢者の症例の蓄積を図るとともに、閉じこもり高齢者における生体リズム異常を是正するための対策として、光同調と社会的同調の強化に関する具体的プログラムを作成し、その有用性に関する予備的介入研究を実施する予定である。
結論
1.地域在宅高齢者における「閉じこもり」の頻度は約10%であり、タイプ1とタイプ2がそれぞれ半々であった。2.タイプ2も「非閉じこもり」に比べると、身体・医学的、心理・社会的側面で劣っていた。3.虚弱高齢者で外出しない者は、外出する者にくらべるとADLが低く、友人からのサポートや生活機能が低かった。4.集団の交流を主とした閉じこもり予防事業は、参加者の主観的健康感、知的機能を維持・向上する上で効果があった。5.訪問看護サービスを受けている在宅要介護高齢者は、理学療法学の立場から外出支援する余地があった。6.「閉じこもり」傾向にある高齢者は、行動量リズム異常を示すものがいた。

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