ケアマネジメントにおける福祉用具・住環境支援の一体的有効活用とその評価法の開発に関する研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000262A
報告書区分
総括
研究課題名
ケアマネジメントにおける福祉用具・住環境支援の一体的有効活用とその評価法の開発に関する研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
高山 忠雄(東北文化学園大学)
研究分担者(所属機関)
  • 田内雅規(岡山県立大学)
  • 安梅勅江(国立身体障害者リハビリテーション研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護保険の導入に伴い、限られた財源の中で、いかに福祉用具と住環境システムを一体的に活用して、より効率性の高い自立の促進や介護負担の軽減への効果を得るかは緊急度の高い課題となっている。高齢障害者へのケアマネジメントにおいて、福祉用具と住環境システムの一体的な活用は極めて重要であるにもかかわらず、従来は一体的な評価法が存在しない故に、別々な視点から評価され、資源の有効活用を妨げてきたことは否めない。またケアマネジャーにとっては、ケアプランの作成や対象者への情報提供、ケアの評価の際に、福祉用具と住環境システムの一体的な活用に関する指標が存在しないという現状がある。
本研究は、高齢障害者へのケアマネジメントにおいて、福祉用具と住環境システムを一体的に活用することで、より有効に利用者の自立の促進、介護負担の軽減を図るべく、一体的な活用による効果の予測と結果の評価を可能にする評価法の開発を目的とするものである。すなわち、従来の福祉用具、住環境システムの分断的な評価ではなく、身体機能および生活機能の充足度に焦点を当てた両者の一体的な活用の促進を意図し、ケアプラン作成、ケア実施後の効果の評価によるフィードバックの指標となる評価法の開発を目的とするものである。
研究方法
本研究の特徴は、3つの柱を設定し、身体機能および生活機能を評価指標とした福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価に関する既存研究の体系化、利用者側からみた一体的な活用の臨床評価、サービス提供側からみた一体的な活用評価の実態調査を実施し、多角的な視点からの分析を統合することにより、科学的な手法に基づく妥当性を検証し、かつ実践からの意向を反映した実用性の高い成果を得ることとした。
「研究総括・福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価法の体系化(高山)」では、先進諸国における福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価の体系化を図るため、過去20年にわたる2,600件の国内外文献研究を行った。「在宅サービス施設機関における福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価の実態(田内)」では、在宅サービス施設機関における福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価に関する実態と課題を明らかにするため、在宅サービス施設機関5箇所の福祉用具活用と住環境システムに関する実態調査を行った。
「身体機能および生活機能別の福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価法のマトリックス化(安梅)」では、身体機能および生活機能を基軸とした福祉用具と住環境システムの活用の実態を把握するため、78名の要介護者の家庭訪問調査を実施した。
結果と考察
「福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価法の体系化(高山)」では、過去20年にわたる国内外文献研究から、福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価の概念整理と体系化を行った。今後、福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価を進めていくためには、以下の7点に注目した具体的な取り組みが必須である。①福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価とは、活用による「有効性」を測定するプロセスである。②評価の主要な目的は、一体的な活用による利用者の生活機能の改善と提供機関のサービスの向上である。評価のプロセスは、利用者のニーズに適合した適切な活用の実施、および提供機関におけるマネジメントの成功のために必須である。③評価は、福祉用具と住環境システムの一体的な活用に関連する計画、実施、管理のすべての過程において、実施される必要がある。④評価方法として、観察された状況と、要求される状況の間に格差が現れたとき、直ちに活用を改善できる改善志向モデルが、効果的である。⑤評価内容としては、1)活用そのものを評価対象とする活用評価、2)専門職の能力、レベルなどを評価する専門職評価、3)サービス機関の方針など機関全体を評価対象とする機関評価の3つの視点に分けられる。⑥評価においては、適切性、進行状況、効果・影響、および効率性が評価の対象となる。特に効率性については、これまで十分に実施されてこなかったものの、費用便益分析、コスト効果分析、コスト効用分析、といったコストを加味した効果の評価は今後の一体的な活用評価において必須である。⑦専門職評価は、サービス提供に必要とされる能力の評価など、専門職の現状把握と能力の向上のために必要な機能である。また、サービス機関評価は、特に機関の方針に対する評価が代表としてあげられる。「在宅サービス施設機関における福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価の実態(田内)」では、在宅サービス施設機関における福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価に関する実態から問題点を明らかにした。さらに一体的な活用評価を可能にするための今後の以下の6課題を示した。①福祉用具と住環境システムの一体的な活用は人手による介護機能を完全に代替するものではない。あくまでも人手を補うものとして、「より質の高い介護の実現のために用いる」とした基本的な考え方を、要介護者、家族、専門職が充分に理解して活用することが重要である。②したがって、パワーアシストなどの介護者の身体的な負担を軽減しつつ人間と機械が共同作業で介護する形の福祉用具や住環境システムの導入を今後さらに進める必要がある。③その際重要なのは、個々の福祉用具の導入だけでは、必ずしも充分にその福祉用具の機能を発揮できない現実を充分に認識することである。その福祉用具を使う場、すなわち住環境システムの整備が同時に必須であり、利用者の生活全般と介護方法を総合的にとらえた住環境システム全体の再設計が必要となる。④特に介護者の「動線」を短縮し、できるだけ無駄のない動きで介護できるような環境デザインが求められる。たとえば、トイレや浴室でのリフター設置の位置を工夫する、コンピュータやPHSなど遠隔通信機器を活用するなどがある。⑤福祉用具や住環境システムは、毎年数多くの新しいものが開発されている。最新の有効な情報を十分に活用することができるような仕組みと、福祉用具や住環境システムを実際に使って有効性を確認する教育研修の場の設定が必須である。⑥さらに、より実践の場のニーズに即した有効な福祉用具や住環境システム開発の促進と、活用のためのコストの軽減が期待されよう。
「身体機能および生活機能別の福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価法のマトリックス化(安梅)」では、身体機能および生活機能を基軸とした福祉用具と住環境システムの有効活用の実態から評価法を具体的に検討し、マトリックスによる評価試案を開発した。本マトリックス試案は、「障害特性」別に、縦軸に「身体機能」として「Ⅰ.歩行自立」、「Ⅱ.杖歩行」、「Ⅲ.四つ這いまたは座位移動」、「Ⅳ.車椅子操作自立」、「Ⅴ.車椅子操作介助」の5カテゴリー、横軸に「生活機能」として「日常生活の注意点」と「生活場面別の配慮項目と評価項目」を列挙したものである。
本研究から期待される効果としては、福祉用具と住環境システムの一体的な評価に基づくサービスの提供が可能となり、対象者のクオリティ・オブ・ライフの向上が図られる点、対象者への適切な情報提供により個々人の選択と自己決定が尊重される点、ケアマネジャーのケアプラン作成、サービス評価に資する点、さらには限りある社会資源の有効活用を図る点があげられる。
一方、利用者と社会資源のインターフェースとしての役割を果たす専門職の機能を最大限に高めるために、専門職にとって、一体的な活用評価に関する情報の把握は、極めて有効である。専門職が、福祉用具と住環境システムの一体的な活用に関する知識と技術を獲得し、より有効性かつ効率性の高いケアマネジメントの実現が期待される。本研究により開発された評価法は、①ケアマネジメントに関わる専門職の実践過程における評価指標、②スーパーバイザーによる専門職の資質向上のための実務教育指標、③養成課程の教育プログラムの一法、として活用が可能である。その延長として、各種専門職の資質の向上はもとより、国あるいは地方自治体の今後の専門職養成研修の基盤整備への一助となると考えられる。
結論
福祉用具と住環境システムの一体的な活用評価のためのマトリックス試案を作成した。次年度はこのマトリックス試案につき、妥当性を検証する予定である。

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