マルチメディアを用いた高齢者支援システムの開発(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
200000261A
報告書区分
総括
研究課題名
マルチメディアを用いた高齢者支援システムの開発(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成12(2000)年度
研究代表者(所属機関)
南部 雅幸(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 柳田康幸(東京大学大学院工学系研究科)
  • 土居元紀(奈良先端学技術大学院大学情報科学研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成12(2000)年度
研究終了予定年度
平成14(2002)年度
研究費
5,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者が高い生活の質(QOL)を維持したまま、自立した生活を営むためには、加齢による身体機能の低下に伴う事故の発生を未然に防ぐ、あるいは、事故の発生を可及的速やかに検出し救援を要請する、さらには、現在の健康状態を保持し、罹患を予防あるいは、早期発見することが必要不可欠である。同様に、外出の機会および他人とのコミュニケーションが現象している高齢者に積極的にコミュニケーションの機会を提供し、医師による診断、介護者による問いかけ、遠隔地に居住する家族との会話を実現することにより、孤独感を解消することも重要である。ところで、現在実用化されている情報ネットワークシステムは、高齢者の使用を前提に設計されておらず、高齢者がその恩恵を受けられないことさえある。そこで、情報ネットワークシステムを高齢者支援に適用するするためには、いわゆる情報格差を解消し、情報機器に不慣れな高齢者にも容易に使用可能なユーザインターフェースが必要である。本研究では、これらの問題を解決するためにマルチメディア計測システム、マルチメディア通信システム、高齢者用ユーザインターフェースシステムを開発し、さらにそれらを融合することで、健常な高齢者が自立するために必要な環境を提供することを目的とする。
研究方法
高齢者が安心して自立生活を営むためには、その健康状態を24時間監視し、罹患あるいは事故が発生した際には、それを検出し、外部へ伝達する必要がある。マルチメディア計測システムでは、センサシステムとして、高齢者が使用する家具などに健康状態を検出するセンサを実装するとともに、ビデオカメラによって獲得された画像から高齢者の位置および姿勢を抽出する。これらのセンサシステムによって獲得された情報は、電灯線を利用したLANシステムにより収集され、WWWの技術を応用した汎用ソフトウェアにより宅外へ送信される。この情報は、インターネット上のホームページと同一の形式で配信されるため、特別なソフトウェアなしで閲覧および診断が可能である。
次に、高齢者が高い生活の質(QOL)を保持したまま、自立した生活を営むには、他人や家族と積極的にコミュニケーションを図り、社会に参加しているという充実感を持つことが重要である。一方加齢により、身体機能が衰えている高齢者にとっては、外出による身体の負担が若年者にくらべ著しく大きくなるという問題もある。そこで、マルチメディア通信システムの一部として、在宅にしてあたかも宅外の遠隔地へ行ったかのような自然な臨場感を体験可能なシステムを構築する。従来のシステムでは、このような環境を提供するために、大がかりな画像提示システムと人体を拘束する機械装置が必要となる。本システムでは、このような装置を使用せずに固定スクリーンを用いたテレイグジスタンス視覚システムの開発を行った。
さらに、情報機器を用いて高齢者支援を行う際の問題として、情報機器の操作性があげられることが多い。特に高齢者にとって、これまで馴染みのない、情報端末を操作することは、加齢による視聴覚機能の衰えとの相乗効果により精神的負担となることさえある。したがって、高齢者が、複雑な操作をすることなしに、情報機器を活用可能なユーザインターフェースを構築することが必要である。本研究では、ユーザインターフェースシステムとして、ビデオ画像から使用者である高齢者を追跡し、対象者の特徴を抽出することで個人識別を行うシステムの構築を行う。その後、この画像はマルチメディア計測システムの入力サブシステムとして機能するだけでなく、セキュリティ技術の一つである個人認証システムとしても機能する。その結果、パスワードを覚える必要なしに、安全にデータ通信を行うことが可能となる。
結果と考察
マルチメディア計測システムの内、センサシステムの一形態として体圧計測システムおよびビデオ画像を用いた位置・姿勢検出システムを構築し、その有効性を検証した。その結果、安価なシステムを用いて高齢者の健康状態、位置・姿勢を抽出することが可能であることが確認できた。一方、これらの情報を収集伝達するためのシステムとして、電灯線LANを用いたネットワークシステムを構築しその性能評価を行った。その結果、家電機器が発生する雑音の下であっても、高齢者の健康情報を伝送するには十分な容量があることが確認できた。
マルチメディア通信システムの一部として、立体カメラと2台のビデオプロジェクタおよび平面スクリーンにより、遠隔地において3次元画像を提示するテレイグジスタンスシステムを構築した。その結果、従来のシステムのように、頭部搭載型のディスプレイを使用することなく3次元画像を提示することが可能となった。
ユーザインターフェースシステムの機能を実証するため、室内に設置した小型カメラからの画像をもとに、顔画像の抽出および人物の推定を行った。その結果、通常の速度で歩行する人物について、ほぼリアルタイムに位置、身長の測定を行い、その画像から顔画像を抽出し、人物推定を行うことが可能となった。
それぞれのシステムについて、プロトタイプとしてのシステムが構築されそれぞれの有効性が検証された。マルチメディア計測システムでは、宅内の家具等に実装されたセンサシステムにより計測されたデータを、既存の設備である電灯線を経由して伝送し、データの収集を行うことが可能となった。これまでに提案されている在宅型遠隔医療システムは、その使用のために多種にわたるセンサを使用者自身が装着し、専用のシステムを用いて外部のコンピュータに接続することで外部との通信を行う必要があるが、本システムでは、日常生活中において計測を行い、既存の施設を用いて通信を行うため、使用者に経済的負担を与えることが少ない。また、診断用ソフトウェアも一般的なホームページ閲覧用ソフトウェアを使用するため、診断にあたる医師は、専用のコンピュータあるいはソフトウェアを持ち歩く必要がない。その結果、高齢者の自立生活を24時間見守ることが可能となった。
マルチメディア通信システムでは、従来の頭部装着型ディスプレイを使用しないシステムとして、平面ディスプレイを用いたテレイグジスタンス環境を開発し、その有用性が実証された。通常の立体画像提示システムは、使用者に種々の装置を装着させ、その動きを拘束するため、高齢者の使用は困難となる場合があった。本システムでは、視差画像制御用のシャッター眼鏡以外は装着する装置がなく、動きを拘束することがなかった。本システムが実用化されれば、在宅のまま旅行やショッピングあるいは、遠隔地の家族との面会などが実現可能となり、高齢者の自立生活に貢献すると考えられる。
ユーザインターフェースシステムでは、室内の人物を抽出し、身長、顔などの個人の身体的特徴を抽出するシステムを開発し、歩行中の人物の顔画像を抽出することが可能であることが確認された。従来の情報機器は、キーボードやマウスなどの端末を使用しなければ情報の入力が不可能であった。本システムでは、ビデオ画像から、使用者を特定可能であるため、その制限から解放される可能性がある。また、顔画像を用いた認証システムが使用可能なため、使用者がパスワードを記憶する必要がない。
結論
高齢者の自立生活支援を目的として、基本的なマルチメディアシステムの構築を行い、その有効性を検証した。本年度は、初年度のため、独立した基本サブシステムの構築を行ったが、来年度以降は、これらを統合したシステムを構築するとともに、実用化に向け、高齢者による試験的運用を行い、高齢者特有の問題の抽出・解決と、高齢者のために最適化されたシステムの構築を行う予定である。

公開日・更新日

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